概要
着床障害とは、不妊治療の過程として体外受精を行ったときに、複数回にわたり良好な受精卵(胚)を子宮に移植しても、妊娠に至らない状態を指します。原因は1つではなく、胚の染色体異常、子宮内の環境(慢性子宮内膜炎*や子宮内膜ポリープなど)、または母体の免疫異常などが関与していると考えられています。
着床障害は、不妊治療中に診断されることが一般的です。検査は、細いカメラ(子宮鏡)による内部の観察から、子宮内膜の組織や子宮内の細菌を調べる検査まで多岐にわたります。治療は特定された原因に応じて、子宮内膜の状態を改善する治療や免疫バランスを調整する治療などが個別に行われます。
*慢性子宮内膜炎:子宮内膜の炎症が続く状態。大腸菌やクラミジアなど、さまざまな菌が原因となり得るといわれている。
原因
着床障害の原因は単一ではなく、胚、子宮内の環境、免疫の3つに大きく分類されると考えられています。
胚の要因
胚自体の染色体異常が、着床障害の原因となる場合があります。形態学的に良好と評価された胚であっても、特に母体年齢が高い場合には染色体異常を持つ確率が上がり、着床しない、あるいは着床後すぐに発育が停止する原因となります。
子宮内の環境要因
胚を受け入れる子宮内膜側に、以下のような要因が存在している場合があります。
解剖学的異常
子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫*などによる子宮内腔の形の変化、子宮腔癒着症(アッシャーマン症候群)**による子宮内の癒着などが物理的に着床を妨げることがあります。
*粘膜下筋腫:子宮の内側(粘膜下)に発生する良性の腫瘍。子宮筋腫の1種。
**子宮腔癒着症(アッシャーマン症候群):子宮内腔が癒着し、無月経や月経量の減少などが生じる病気。
子宮内膜の炎症
細菌感染などにより子宮内膜の炎症が持続する状態は“慢性子宮内膜炎”と呼ばれ、着床環境を悪化させる一因とされています。
子宮内細菌叢(子宮内フローラ)の異常
子宮内の細菌叢*は乳酸菌(ラクトバチルス属)が優位な状態が望ましいとされていますが、このバランスが崩れた場合、着床に影響する可能性があるといわれ、研究が進められています。
*細菌叢:体内に棲んでいる細菌の集まり。子宮内のほか、腸内や口腔内などにも存在する。
免疫の要因
妊娠時、母体は胎児を攻撃しないように“免疫寛容”という状態になります。この仕組みが破綻すると胚を異物と認識して拒絶することがあり、着床障害の原因の1つと考えられています。
Th1/Th2比の異常
通常の妊娠時では、体内で免疫細胞のはたらきを制御しているヘルパーT細胞のうち、胚を異物とみなすTh1細胞よりも、ダニや花粉などのアレルゲンに反応するTh2細胞が優位になります。しかしTh1細胞が優位になると、胚への拒絶反応が起きる可能性があります。Th1細胞やTh2細胞の調節にはビタミンDが関与しているため、ビタミンDの欠乏は着床障害につながるといわれています。
症状
子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫などの病気に関係して着床障害が生じている場合は、一般的に不正出血や過多月経、貧血など、原因となる病気の症状が現れます。しかし、病気がある場合でも、自覚症状がみられないこともあります。たとえば、慢性子宮内膜炎は急性の子宮内膜炎と異なり、ほとんどの場合で発熱や下腹部痛といった症状を伴わないといわれています。
着床障害に特有の自覚症状はないため、不妊治療の過程で良好な胚(4個以上)を3回以上移植しても妊娠が成立しない結果をもって、初めて着床障害の可能性が考慮され、検査へと進むことになります。
検査・診断
着床障害の原因を特定し、最適な胚移植を行うため、さまざまな検査が行われます。研究段階の検査もあるため、どのような検査を行うかについては主治医によく相談しましょう。
経腟超音波検査
子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫の有無、子宮内腔の状態などを確認します。
子宮鏡検査
子宮鏡を子宮内に挿入し、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫、子宮腔癒着症といった異常がないかを直接観察します。慢性子宮内膜炎に特徴的な微細な所見(炎症やむくみなど)が見つかることもあります。
子宮内膜生検
子宮内膜の組織を採取し、免疫に関係する細胞(形質細胞)を調べて慢性子宮内膜炎の有無を確認します。
子宮内細菌叢検査(EMMA/ALICE)
子宮内の細菌を満遍なく調べる子宮内膜マイクロバイオーム検査(EMMA)や、慢性子宮内膜炎の原因となりやすい病原菌の有無を調べる感染性慢性子宮内膜炎検査(ALICE)が行われることがあります。いずれも子宮内に器具を入れ、子宮内膜の組織を採取して細菌を解析します。これらの検査の有効性については、研究が進められています(2026年時点)。
子宮内細菌叢検査(子宮内フローラ検査)
子宮内に器具を入れ、細菌や液体を採取します。子宮内のラクトバチルス属の比率やそのほかの細菌叢を調べ、ラクトバチルス属が優位な状態であるかを確認します。この検査の有効性については、研究が進められています(2026年時点)。
子宮内膜受容能検査(ERAおよびERPeak)
胚移植を行うときに、子宮内膜の組織を採取し遺伝子を解析することによって、胚を受け入れるタイミング(着床の窓)を調べます。この検査の有効性については、研究が進められています(2026年時点)。
Th1/Th2比を調べる検査
主に血液検査によりTh1とTh2の比率を測定し、免疫細胞のバランスが胚にとって攻撃的な状態(Th1優位)になっていないかを確認します。血液検査以外にも複数の検査方法がありますが、保険適用となっているものはありません(2026年時点)。適切な検査方法や検査時期については、研究段階となっています。
2026年現在、子宮内細菌叢検査(EMMA/ALICE)、子宮内細菌叢検査(子宮内フローラ検査)、子宮内膜受容能検査(ERAおよびERPeak)については、保険診療の対象とならない先進医療です。そのため、検査費用は全額自己負担となりますが、特定の不妊治療と併せて行われた場合に費用の一部が助成される自治体もあるため、お住まいの市区町村のWebページで詳細をご確認ください。
治療
基本的には検査で特定された原因、あるいは疑われる原因に応じて、個別に治療が検討されます。保険適用外の治療も存在するため、費用については事前に医療機関に確認しましょう。
子宮内腔の形に対する治療
子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫、子宮腔癒着症などに対して、一般的には子宮鏡下手術が行われます。子宮鏡下手術は、子宮の中に子宮鏡を入れ、先端から電気メスを出してポリープや筋腫を切除したり、癒着を剥がしたりする方法です。入院の有無や詳細な方法については個々に検討されるため、医師に確認しましょう。粘膜下筋腫の場合、子宮を残し筋腫の部分だけを切除する子宮筋腫核出術という方法が検討されることもあります。
感染・炎症に対する治療
慢性子宮内膜炎が認められた場合に、ドキシサイクリンなどの抗菌薬が処方されます(2026年現在、保険適用外)。
子宮内細菌叢に対する治療
子宮内細菌叢にラクトバチルス属の菌が少なくなっている場合は、抗菌薬や乳酸菌製剤などによる改善が試みられることがあります。しかし、有効な治療法かどうかは明らかになっていません(2026年時点)。
Th1/Th2比改善のための治療
Th1/Th2比がTh1優位の場合に、免疫抑制薬であるタクロリムスが使用されることがあります(2026年現在、保険適用外)。また、ビタミンDが不足している場合は、サプリメントによってビタミンDを補充します。
そのほかの治療
上記以外にも、さまざまな治療が検討される可能性があります。たとえば、胚周囲のヒアルロン酸は子宮内膜への着床を助けると考えられ、高濃度のヒアルロン酸を含む胚移植用の培養液(高濃度ヒアルロン酸培養液)が用いられることがあります。また、低用量の解熱鎮痛消炎薬(アスピリン)の投与によって、子宮内膜の厚さの改善なども期待されています(2026年現在、保険適用外)。
「着床障害」に関する
最新情報を受け取ることができます
処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください