概要
結核性髄膜炎とは、髄膜*に“結核菌”と呼ばれる細菌が感染し、炎症を引き起こすことによって、頭痛や嘔吐、発熱などさまざまな症状を引き起こす病気です。結核菌が呼吸器などに感染して生じる“結核”という病気に続いて生じることが一般的で、結核患者の0.3%ほどに発症するといわれています。
結核性髄膜炎のような細菌性の髄膜炎は、ウイルス性の髄膜炎と比較すると重症度が高いことが知られています。結核性髄膜炎の場合は、発症すると医療資源の整っている国においても命に関わることがあるといわれています。
結核性髄膜炎はどの年齢でも起こる可能性がありますが、本邦の全国調査では結核性髄膜炎の発症者数は年間264±120例であり、その約15%は小児例でした。早期発見・早期治療が必要な病気であるため、思い当たるような症状があれば速やかに医療機関を受診しましょう。
*髄膜:脳を包み込み保護している膜で、頭蓋骨(ずがいこつ)と脳の間にある。
原因
結核菌の主な感染経路は“飛沫核感染”で、肺結核の患者が咳やくしゃみをした際に結核菌が空気中を舞い、それを他者が吸い込むことによって感染が起こります。
しかし、結核菌に感染しても実際に結核を発症する方の割合は5~10%程度といわれており、多くの場合は発症しません。これは結核菌が宿主の免疫による攻撃を回避するために休眠状態となり、免疫系がこの休眠菌を排除できないためです。その結果、感染者の約95%は無症候性キャリアである潜在性結核の状態となります。
これらの感染者のうち、毎年5~10%が宿主の加齢や免疫機能の低下により再燃・再活性化し、活動性結核へと進展します。一度結核菌が肺内で初期変化群を形成すると、その後血液を通して全身へ広がり、さまざまな臓器に感染巣を形成します。さらに中枢神経系にまで感染が及ぶと髄膜炎を引き起こすことがありますが、結核性髄膜炎の発症頻度は結核患者全体の約0.3%と比較的まれです。
症状
一般的には頭痛、嘔吐、発熱、食欲減退、体重減少などがみられます。ただし発症年齢によって症状に差があり、もっとも発生が多い2~4歳の小児では体重増加のスピードが遅くなったり、微熱が生じたり、無気力になったりするなどの症状が先行してみられます。成人の結核性髄膜炎では、炎症が脳底部と呼ばれる場所に生じることが多く、ものが二重に見えたり、顔に麻痺が生じたりするなどの症状が多くみられます。また、炎症が脊髄や脳血管に及ぶこともあり、四肢の麻痺などを生じることも少なくありません。
ほかの細菌性やウイルス性の髄膜炎と比較すると症状がゆっくり現れ、なおかつ髄膜炎でよく見られる頭痛、嘔吐、発熱の症状の全てが現れないことが多いため、はじめはかぜと勘違いされることもあります。ただし、かぜと違って時間が経過しても症状が改善しないことが特徴です。
検査・診断
臨床症状などから結核性髄膜炎が疑われる場合、画像検査や脳脊髄液の検査を交えて総合的に診断を行うことが一般的です。
画像検査
結核性髄膜炎が疑われる場合、まず頭部CT検査・MRI検査を実施し、その後に脳脊髄液検査である腰椎穿刺を行います。画像検査は診断に重要な情報を提供するだけでなく、腰椎穿刺を安全に実施するためにも必要です。
結核性髄膜炎の場合、病初期では正常な場合も多くみられますが、病態の進行に伴い結核菌の拡散により浸出液が増加し、脳底部や脳槽部の高吸収域や水頭症を認められるようになります。造影剤を用いた検査では、脳底部髄膜主体の増強像、結核腫の検出が可能となります。また、撮影方法を変化させることで、急性期脳梗塞がみられることがあります。
脳脊髄液の検査
脳脊髄液を採取し、結核菌に感染しているかどうかを確認します。結核菌の検査には塗抹検査*、培養検査などがありますが、塗抹検査では結核菌が検出されにくく、培養検査には数週間かかることもあるため、PCR検査も併せて行われます。通常のPCR検査では結核菌の検出が困難な場合があるため、Nested PCR(2段階のPCRを連続して行う方法)を用いることで、結核菌の検出率を向上させることができます。
一般的にはいずれかの検査で結核菌の存在が確認されれば確定診断となりますが、髄液の検査やPCR検査による診断確定には時間がかかるため、症状や全身の画像検査、喀痰や胃液などの検体を利用し、総合的にみて判断が行われます。
*塗抹検査:検体をスライドガラスに塗りつけて見やすいように染色したうえで、顕微鏡で見る検査。
治療
結核性髄膜炎は致死率も高く、後遺症も残りやすい病気であることから、早期発見・早期治療が重要であるといわれています。治療の中心は薬物療法で、発症から2か月程度は“イソニアジド”“リファンピシン”“ピラジナミド”“エタンブトール塩酸塩”などの抗結核薬を継続的に投与し、その後イソニアジド、リファンピシンによる治療を10か月ほど行うことが一般的です。
また後遺症の予防などの意味を兼ねて、副腎皮質ステロイド薬を投与することもあります。過去に肺結核の治療歴のある患者では、薬剤耐性結核菌を得ている可能性が高くなります。喀痰から結核菌が検出された場合は、薬剤感受性遺伝子検査が可能になるため、リファンピシンなどの抗結核薬に対する耐性の有無を確認することが推奨されます。
予防
結核性髄膜炎を予防するためには、まず結核菌への感染を防ぐことが大切です。結核にかかっていることが判明している患者が身近にいる場合には、必ずマスクをして交流するようにし、長時間接触することは避けましょう。また、身近な方が2週間以上にわたって咳、痰、発熱、体のだるさなどかぜの症状を訴えている場合は、結核を疑って早めに医療機関の受診を勧めることが重要です。
結核を予防するためのワクチン(BCG)もあり、日本では生後1歳未満の子どもにBCGの予防接種を行い、結核菌への感染予防につなげています。
また、万が一結核菌へ感染したことが明らかになった場合、“抗結核薬”を投与することで発病を抑えられる可能性があります。
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