概要
股関節炎とは、外傷や感染、アレルギーなどによって股関節内に炎症が生じた状態です。
股関節炎は原因によって非感染性と感染性にわけられ、子どもに多くみられます。
非感染性で多くみられるのは単純性股関節炎で、5~7歳の男の子によくみられます。太ももや膝に痛みが生じ、歩行が難しくなることがありますが、股関節を安静にすることで次第に改善するケースが多いとされています。
感染性で多くみられるのは、細菌が股関節内に侵入することで発症する化膿性股関節炎です。成人に起こることもありますが、生まれて間もない赤ちゃんや乳幼児にみられることが多く、関節内に膿が溜まり、発熱のほか下肢の痛みや股関節周辺の腫れが生じます。化膿性股関節炎の治療は抗菌薬などを用いた薬物療法と、外科的治療として患部を切開するか、関節鏡を用いてたまった膿を洗い流すことが基本となります。発見が遅れて症状が進行した場合、股関節が破壊されて重篤な後遺症に至る可能性があるため、早期の検査と診断が非常に重要です。
原因
股関節炎は、病原体への感染が原因となって起こる感染性股関節炎と、それ以外の原因で起こる非感染性股関節炎の2つに大きく分けられます。
非感染性股関節炎
現在までに発症メカニズムは明らかになっていません。外傷やアレルギーによるものなど、さまざまな原因が考えられています。
感染性股関節炎
原因菌は黄色ブドウ球菌がもっとも多いといわれています。そのほか、連鎖球菌、インフルエンザ菌、結核や淋菌、梅毒、マイコプラズマなどの菌が原因となる場合もあります。
化膿性股関節炎では、大腿骨上部の端に起きた骨髄炎が股関節内に及ぶことで発症するほか、気道感染をきっかけに全身に菌が周り、間接的に股関節炎を生じることもあります。手術やけがなどが化膿性股関節炎の直接的な原因になることもあります。たとえば大腿動静脈に針を刺すところを誤って股関節内に刺してしまったことで発症するケースもみられます。
症状
股関節炎の主な症状は、炎症による股関節周辺の痛みです。
股関節は歩行などにより大きく負荷がかかる関節です。そのため、非常に強い痛みが生じて立位や歩行が困難になるケースも少なくありません。また、痛みは股関節に留まらず、大腿の前面や内側、膝にまで及ぶこともあります。炎症が生じると股関節内に関節液がたまることがあり、これによって関節の曲げ伸ばしや脚を開いたり閉じたりする動作が制限されることがあります。しかし、生まれて間もない赤ちゃんや乳幼児では正確に痛みの部位を訴えることができないため、股関節が腫れている、脚を動かさないなどの症状がみられるときは、股関節炎を発症している可能性を考慮し注意深い観察が必要です。
化膿性股関節炎では、股関節の痛み、腫れ、歩行障害などのほか発熱や悪寒、倦怠感などの全身症状もみられます。症状が進行すると、股関節が動く範囲は著しく制限されます。股関節を構成する大腿骨にダメージが及ぶと、病的脱臼や成長障害を生じることもあります。化膿性股関節炎は治療が遅れると重篤な関節の変形を残す可能性があるため、迅速な診断と治療が必須です。
検査・診断
股関節炎が疑われる場合には、X線、MRI、超音波などの画像検査によって股関節内の状態を把握します。特にMRI検査や超音波検査では股関節内に関節液がたまっているか詳細に観察することが可能です。股関節内にたまった関節液を採取して培養検査を行い、原因となる病原体を特定する検査が行われることもあります。また、全身の炎症状態を評価するために血液検査が行われる場合もあります。
治療
単純性股関節炎は、基本的に1週間程度安静にすれば自然と改善することがほとんどです。痛みが強い場合には鎮痛薬などを用いた薬物療法が行われることもあります。
化膿性股関節炎の場合は、なるべく早期に原因となった病原体を特定して抗菌薬による治療を行う必要があります。それに加えて、外科的治療として患部を切開するか、関節鏡(内視鏡)を用いてたまった膿を排出し、股関節内を十分に洗浄します。また、化膿性股関節炎は進行すると骨にダメージが及んで脱臼などを引き起こすことがあるため、その場合にはギプス固定なども必要になります。さらに、重症化して股関節の構造が著しく破壊されている場合には、最終的にダメージを受けた骨の一部を切除する骨切り術や股関節を人工関節に替える手術が行われることもあります。
予防
単純性股関節炎は、はっきりした発症メカニズムが解明されていないため確立した予防法はないのが現状です。
化膿性股関節炎は股関節内に何らかの病原体が入り込むことで発症するため、感染を防ぐことが股関節炎の予防につながります。
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