罹患数、死亡数ともに、がんの中では上位を占める胃がん。早期では症状が出ないことも多いため、気付いたときには進行していることも珍しくありません。しかし、定期的な検査や検診、生活習慣の改善などによって早期発見や予防が可能な病気でもあります。
今回は、胃がんの原因、検査、治療法などの概要とともに、胃がん検診の重要性について、菊名記念病院 消化器内科 部長 花村 祥太郎先生にお話を伺いました。
胃がんとは、胃の粘膜に発生する悪性上皮性腫瘍*のことです。がんにおいては罹患数(新たに診断される数)、死亡数ともに上位を占めており、2019年の部位別のがん罹患数では、男性は3番目、女性は4番目、2021年の死亡数は、男性は3番目、女性は5番目に多いがんとなっています。
また、40歳頃までに罹患することはほとんどなく、40歳を過ぎると徐々に罹患者が増え始め、80歳頃までは罹患率が右肩上がりになっていきます。
*悪性上皮性腫瘍:上皮細胞(消化管の内側などの表面を覆う細胞)から発生するがん
日本における胃がんの原因の98%を占めるのが、胃の粘膜に生息する細菌であるヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)だとされています。世界保健機関(WHO)と国際がん研究機関(IARC)は、ピロリ菌を明確な発がん物質であると認定しています。
また、喫煙は胃がんのリスクを高め、食塩や高塩分食品の摂取も胃がんのリスク因子とされています。
がんのステージは主に、がんの深さ、リンパ節への転移、別の臓器や気管に及ぶ遠隔転移の有無によって決まります。
胃がんの深さは、浅いものから順にT1a、T1b、T2、T3、T4a、T4bと、深くなるほど数字が大きくなります。この分類と転移の有無を組み合わせると、以下の表のようなステージ分類ができます。
このステージ分類に基づいて、治療を行います。
なお、がんが粘膜内にとどまる早期がん(T1a、T1b)なのか、粘膜を超えて深いところまで広がっている進行がん(T2以降)なのかは、上部消化管内視鏡検査である程度調べることが可能です。
進行がんの場合は、上腹部痛や、腫瘍からの出血に伴う吐血や下血(肛門から血が出る、便に血が混じって黒い便が出る)がみられることがあります。また、がんが胃の入口や出口などに生じた場合は、腫瘍によって食べ物が通らなくなることがあります。この場合は嘔吐や胃もたれ、食事が取れなくなることによる体重減少などにつながります。
一方で、早期がんの場合は自覚症状がないことが多いため、症状がある場合はすでに進行がんになっているケースが多くみられます。
胃がんを診断するための基本的な検査には、上部消化管内視鏡検査(内視鏡を口や鼻から入れ、胃の中を直接見る検査)とバリウム検査(バリウムを飲んだ状態でレントゲン撮影をする検査)があります。
上部消化管内視鏡検査で病変が確認できた場合は、生検(組織を採取し、がんかどうかやがんの性質を調べる検査)を同時に行うことで、より高い精度の結果を得ることが期待できます。
転移の有無を確認するために、腹部超音波検査やCT検査、MRI検査を行うこともあります。
なお、「内視鏡検査はつらい」といった話を聞いて検査から遠ざかっている方もいるかもしれません。当院では、検査のつらさを和らげるために、患者さんが希望されれば鎮静剤(静脈麻酔薬)を使用しています。特に検査初回の患者さんや、咽頭反射の強い患者さんには、鎮静剤の使用をすすめています。できる限り楽に、つらくない検査を行いたいと考えているため、検査に抵抗がある場合は一度相談していただければと思います。
人間ドックや健康診断では、胃がんのリスクを予測する検査を選択することも可能です。たとえば、ABC検診やアミノインデックス検査(AIRS)が挙げられます。
これらの検査で胃がんのリスクが高いと判断された場合は、上部消化管内視鏡検査が必要となるケースもあります。
胃がんの年齢調整死亡率、年齢調整罹患率(基準とする人口における死亡率、罹患率)はいずれも1960年以降減少傾向にありますが、罹患率と比べて死亡率の低下傾向が大きくなっています。この理由の1つは、胃がん検診の普及にあると考えられます。
日本では、50歳以上の方は胃がん検診を受けることが推奨されています。早期の胃がんは症状が出ないことも多く、症状が現れたときには進行がんとなっていることが珍しくないため、早期発見のためには定期的に検診を受けることが重要です。胃がん検診は2年に1回定期的に受診することが推奨されています。
なお、胃がんは40歳を過ぎると徐々に罹患者が増え始めるため、胃がんを専門的に診ている医師としては、40歳あたりで一度上部消化管内視鏡検査を受けるとよいと思っています。希望すれば、人間ドックや健康診断などで検査を受けることが可能です。日本人の胃がんの98%がピロリ菌と関連しているため、私としては、ピロリ菌の感染がなければ2年に1回、感染があれば1年に1回を目安に検査を受けるとよいと考えています。
胃がんのリスクを高める因子として、喫煙や、食塩・高塩分食品・塩蔵品(魚介類などを食塩に漬けて加工した食品)の摂取などが挙げられます。そのため、喫煙を控え、塩分摂取に注意するとよいでしょう。
一方で、胃がんの予防のためには、野菜や果物の摂取がよいといわれています。特に、“アリウム野菜”といわれるネギ、タマネギ、ニンニク、ニラなどは、予防につながる可能性があるとされています。また、胃がんを含む病気全般の予防のためには、規則正しい健康的な生活を心がけることが大事です。
胃がんの治療は主に、内視鏡的切除、外科的治療、化学療法(薬物療法)の3つがあり、がんの進行度やほかの病気の有無などを考慮して適切な方法を選択します。内視鏡的切除は、内視鏡を用い、胃の内側からがんを切り取る方法です。一方、内視鏡的切除で治療が難しいケースでは、がんと胃の全体または一部を取り除く外科的治療を行います。また、切除ができない進行がんや再発時、手術後の補助的な治療として化学療法(薬物療法)を行うこともあります。
当院では、内視鏡的切除は消化器内科、外科的治療は外科、化学療法は患者さんの病気の状態に応じて消化器内科または外科が担当しています。
当院の消化器内科が担当している胃がんの主な治療法として、内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)があります。これは内視鏡的切除の1つの方法であり、従来の内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)では対応できなかった部位や大きさのがんの切除も可能です。
従来のEMRは、スネア(輪っか状のワイヤー)を腫瘍にかけ、高周波電流を用いて切除する治療法なので、輪っかに入らないほど大きい腫瘍には対応できませんでしたが、ESDは電気メスで腫瘍を切除するので、腫瘍の大きさや場所に左右されることなく切除することができます。
なお、ESDのほうが応用のきく治療法なので、従来は外科的治療をしなければならなかったケースでも内視鏡的切除ができるなどのメリットがあるものの、場所によっては手術時間が長くなってしまうことがあります。そのため、長時間の手術に耐えられないような患者さん(高齢の方、持病を持っている方、特定の薬を飲んでいる方など)に対してはEMRやほかの治療法を選択するなど、患者さんに合わせてチームでよりよい治療方法を考えています。
胃がんが進行すると、胃を切る外科的手術が必要となり、患者さんにとって大きな負担となります。しかし、進行がんになる前の早期のうちに発見することができれば、体に負担の少ないESDという内視鏡的切除を選択することも可能です。そのためには、定期的な内視鏡検査で早期発見に努めることが大切なので、内視鏡検査の重要性を知っていただければと思います。
また、当院では鎮静剤(静脈麻酔薬)を使った検査も行っています。内視鏡検査に抵抗がある方でも楽に受けていただけるような検査を心がけているので、ぜひ検査を受けてほしいと思います。
菊名記念病院 消化器内科 部長
花村 祥太郎 先生の所属医療機関
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