胆道閉鎖症は2015年に小児慢性特定疾患に加えて難病にも指定されました。胆道閉鎖症は子どもに好発する病気ですが、「葛西手術」の登場で外科的治療が可能となり、肝移植で治癒が可能な病気となりました。ですが、葛西手術の効果が期待されるのは、手術を行うまでの日数によって大きく左右されるといいます。胆道閉鎖症の診断や治療について、九州大学病院小児医療センター長の田口智章先生にお話を伺いました。
小児の病気というのは一般的には男児に多く発生するものですが、この胆道閉鎖症に関しては、女児に多く起こる病気です。現在、患者数は推定で全国に3,500人ほどだといわれていますが、男女比は男児1に対して女児が2の割合です。
胆道閉鎖症という病気は、肝臓と十二指腸をつなぐ胆管や総胆管という管が先天的にふさがっている病気です。肝臓では胆汁という消化酵素が作られますが、胆管が詰まっているためこれらが分泌されません。そのため、胆汁がからだ(肝臓)の中に溜まった状態となって黄疸が起きるのです。
胆道閉鎖症の診断としては、血液検査や腹部超音波検査、尿検査などが行われます。血液検査では、直接型のビリルビンの値が上昇するのが特徴です。新生児の場合、胎児型のヘモグロビンが成人型のヘモグロビンに変わるため溶血(赤血球が壊れてヘモグロビンが出てくること)が起こります。これが新生児の黄疸の原因となるのですが、その時には間接型ビリルビンが上昇します。
また、腹部超音波については信頼度の高い検査法として確立しています。超音波では「胆嚢(たんのう)」というところを見るわけですが、健康な状態であれば、胆嚢がきれいに写ります。超音波では空腹時の方が大きく写るので、検査を行う時にはミルクを1回抜いて検査を行います。
その時に、超音波で胆嚢が見えないとなると胆道閉鎖症の可能性が出てきます。また肝門部に硬く塊になった胆管がtriangular cord signとして描出される場合があります。
検査の結果、胆道閉鎖症と診断されると、第一選択として葛西手術が行われます。胆道閉鎖症は、昔は治らない病気だったのですが、葛西手術の登場で外科的治療が可能となり、長期生存が期待できる病気となりました。
葛西手術とは、簡単にいうと肝臓と腸を直接つなぎ合わせる手術のことです。この葛西手術は1960年代に始まったもので、世界的に広く行われるようになったのは1970年代頃のことです。手術の名称にあるように日本人の葛西森夫先生という小児外科医が考案された手術法で、いまでは世界中に普及している標準的な術式です。
ただ、この葛西手術は生後30日~60日までの間に行うことが推奨されています。60日を過ぎると十分な効果が期待できないことがこれまでのデータからわかっているからです。そのデータから、手術を行った時の生後日数と術後20年の生存率が関連していることが指摘されています。
20年生存率の具体的な数値は、生後60日以内の手術であれば43%、61日~90日では33%、91~120日では25%、121~150日では7%、151日以降では0%という結果です。
つまり、手術の時期が遅れると肝硬変が進行してしまうため、たとえ手術をして胆汁が分泌されたとしても、よくなる見込みが少ないということです。このような背景から、早い段階で胆道閉鎖症を診断して、早期手術を行うことが推奨されているのです。しかし、生後60日以内に手術を受ける患児は全体の40%程度というのが現状です。
ただ、全国的なデータから判断すると、成績に差が出てくるのは90日くらいなので、60日を過ぎても90日以内、つまり3か月以内までにはなんとか葛西手術を受けていただくのがいいと思います。
学校法人福岡学園 福岡医療短期大学 学長、九州大学 名誉教授
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