良性石綿胸水とは、アスベスト(石綿)*が原因で炎症が起こり、胸水*がたまる病気です。良性石綿胸水では、経過観察が重要と考えられています。それは、この病気の発症後に、がんである胸膜中皮腫や、肺を包む膜が線維化するびまん性胸膜肥厚などの重症化する可能性の高い病気を発症することもあるからです。
今回は、アスベストを原因とする病気の診療に携わっていらっしゃる横須賀市立うわまち病院の三浦 溥太郎先生に、良性石綿胸水の診断と治療についてお話しいただきました。
アスベスト(石綿):天然の繊維状けい酸塩鉱物の総称
胸水:肺の外側を包んでいる2枚の膜の間の胸腔(きょうくう)にたまる液体のこと
良性石綿胸水の診断では、アスベストが原因であることを確認するとともに、他の原因の可能性を調べます。良性石綿胸水であれば治療を必要としないものが多いですが、他に原因がある場合、適切な治療を必要とするものもあるからです。
良性石綿胸水の診断では、アスベストにさらされた経験について確認します。特に、過去に建築現場などでアスベストを扱う仕事についていた経験があれば、診断につながる情報になります。
良性石綿胸水の原因であるアスベストとは、天然の繊維状けい酸塩鉱物の総称です。石綿と呼ばれることもあります。極めて細い繊維で、熱に強く丈夫で変化しにくいという特性をもっています。その特性から、建材(保温・断熱材など)などさまざまな工業製品に使用されていました。
しかし、アスベストが体内に入ると、肺がんを始めとするさまざまな健康被害を引き起こす可能性があることがわかりました。このような健康被害を考慮し、日本では2006年よりアスベストの製造・使用等が全面的に禁止されています。
胸水がたまる原因は、アスベストだけではありません。胸水がたまる主な原因には、以下のものがあります。
胸水がたまった場合、このような病気が原因となっている可能性もあるため、検査を通して詳しく調べることが必要です。検査では主に胸水を抜き、その性質を調べます。
また、がんのひとつである胸膜中皮腫を早期に発見するために、胸腔鏡(先端に小型のカメラを装着した内視鏡)による検査を行うことがあります。胸腔鏡で採取した組織から悪性腫瘍の可能性を調べることも、診断の参考になります。
上述した検査によって、すぐに原因を特定できないことも少なくありません。そのため、良性石綿胸水の診断には、時間がかかることが多いです。
たとえば、悪性腫瘍の可能性を否定するためには、発見から1年程度は悪性腫瘍の発症がないか経過観察を行う必要があると考えられています。このような経過観察を行い悪性腫瘍が発生しなければ、そこで初めて良性石綿胸水と確定されるケースもあります。
職業的に過去にアスベストを吸った可能性があれば、申請と審査によって、離職時あるいは離職後に石綿健康管理手帳が交付される場合があります。この交付を受けると、年に2回、無料で胸部の健康診断を受けることができます。
健康診断で撮影される胸の画像によって、少量の胸水であっても発見が可能です。
石綿健康管理手帳が交付されていない場合には、胸部レントゲン検査やCT検査(エックス線を使って身体の断面を撮影する検査)などによって胸水が発見されることがあります。胸水は自覚症状が現れないことが多いため、このような画像検査によって発見されることが多いでしょう。
CT検査は胸部レントゲン検査に比べて浴びる放射線の量が多いため、良性石綿胸水を発見する目的で、最初からCT検査が行われることはありません。なお、健診では、放射線の量を抑えた低線量健診が行われます。
良性石綿胸水の治療は、基本的に経過観察になります。記事1でお話ししたように、良性石綿胸水の大半は自然に胸水が消滅するからです。しかし、胸水が消滅した後も、発症から1年程度は悪性腫瘍の発症がないか確認するため、さらに経過観察を続けるケースが多いです。
しかし、なかには、胸水が消滅せず貯留したままになるケースもあります。このような状態が続くと肺を圧迫し、呼吸が苦しくなることが多いため、胸水を抜く治療を行うことがあります。胸水を抜く治療では、外来で局所麻酔を行ったうえで注射針によって胸水を抜きとります。胸水を抜いた分だけ肺が広がり、呼吸しやすくなる効果が期待されます。
良性石綿胸水は、繰り返し再発することがあります。3割程度の方は、胸水の貯留を何度も繰り返すといわれています。
良性石綿胸水の発症後には、他のアスベストを原因とする病気を生じる可能性があります。たとえば、この病気の発症後に、がんのひとつである胸膜中皮腫や、肺を包む膜が線維化して肥厚する(厚くなる)びまん性胸膜肥厚を発症することがあります。
特に、胸膜中皮腫の8割以上は、初期症状で胸水がたまるといわれています。
お話ししたように、良性石綿胸水は無症状のまま経過することが多いです。また、この病気によってたまる胸水は、自然に消滅することも多く、治療を必要としないケースも少なくありません。
しかし、なかには、胸水がたまった後に胸膜中皮腫などのがんや、びまん性胸膜肥厚などの重症化する可能性の高い病気を発症することもあります。この場合、適切な治療をしなければ病気が進行してしまい、命にかかわることもあるでしょう。
重症化を避けるためにも、検査によって胸水が認められたら、なるべく早く病院を受診してほしいと思います。
横須賀市立うわまち病院 呼吸器内科顧問
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