概要
葉酸欠乏症とは、葉酸(ビタミンB9)の摂取量が不足したり、食事から摂取した葉酸の吸収が障害されたりすることにより、体に必要な葉酸が不足する病気です。
葉酸は、酸素を運搬するはたらきを担う血液中の赤血球という細胞の成熟や、体の細胞が新しく作られるために必要な細胞分裂を促すはたらきがあります。また、胎児の神経の発達にも必須の栄養素であり、妊娠初期に母体の葉酸量が不足すると神経の発達に異常が生じて無脳症や二分脊椎症などの先天性疾患を引き起こすリスクが高まることが知られています。
葉酸欠乏症を発症すると貧血を起こしやすくなり、めまいや息切れ、動悸などの症状が引き起こされます。さらに重症化すると舌が赤くただれる、味覚障害、下痢、気分の落ち込みなど全身にさまざまな症状が現れます。
基本的には葉酸を摂取すれば症状は改善しますが、食品に含まれる葉酸は調理の過程で破壊されやすい性質があるため、より効率的に葉酸を摂取するにはサプリメントや葉酸製剤の服用が必要です。
原因
葉酸欠乏症は葉酸の摂取不足や葉酸の吸収低下によって引き起こされます。
葉酸は野菜や肉類などさまざまな食品に含まれますが、熱に弱く水に溶けやすい性質を持つため、意識的に摂取するよう心掛けなければ必要量を食事から取ることは難しいとされています。特に、過激なダイエットや寝たきり状態、アルコール依存症などによって十分な食事を取っていない状態が続くと葉酸不足が起こりやすくなります。また、胎児の神経の成長が著しい妊娠初期には葉酸の必要量が増すため、食事から必要量の全てを摂取することは難しく、不足しがちになります。
葉酸は主に空腸で吸収されますが、この部位に何らかの病気を発症すると食事から十分量の葉酸を摂取しても吸収がうまくいかず、葉酸不足に陥ることがあります。さらに、抗てんかん薬などいくつかの薬剤は葉酸の吸収を抑制する作用を持つことも知られています。
症状
葉酸は赤血球の成熟に必要な栄養素であるため、葉酸欠乏症を発症すると赤血球数が減少し貧血を引き起こします。また、葉酸が不足すると血液中には成熟していない巨赤芽球と呼ばれる細胞が増えるため、葉酸の不足によって引き起こされる貧血を“巨赤芽球性貧血”と呼びます。症状としては、息切れ、めまい、ふらつき、動悸、だるさなどの一般的な貧血症状が現れます。
また、葉酸は正常な細胞分裂を引き起こす栄養素でもあるため、不足すると舌が荒れ、舌のただれや味覚障害を引き起こすこともあります。さらに、葉酸が不足すると体内ではホモシステインと呼ばれる物質が蓄積し、気分の落ち込み、認知機能の低下、幻覚・妄想などの精神症状を引き起こすことも知られています。
葉酸は胎児期に脳や脊髄などの神経が正常に発達するためにも必要な栄養素です。そのため、妊娠初期に母体の葉酸が不足すると胎児の神経系の発達に異常が生じ、無脳症や二分脊椎などの“神経管閉鎖不全”と呼ばれる先天性疾患を引き起こすリスクが高くなります。
検査・診断
葉酸欠乏症が疑われるときは次のような検査が行われます。
血液検査
葉酸欠乏症の確定診断には血液中の葉酸濃度を調べる必要があります。
また、葉酸欠乏症は貧血を引き起こすことが多いため、貧血の有無を調べることが重要です。葉酸不足によって引き起こされる巨赤芽球性貧血はビタミンB12の不足でも起こりうるため、巨赤芽球性貧血が認められる場合はビタミンB12の血中濃度も同時に調べる必要があります。
画像検査
小腸での葉酸の吸収障害が原因と考えられる場合は、それらの部位に何らかの病変がないか調べるため、超音波、CT、MRIなどによる画像検査が行われます。
また、重症化して認知機能の低下など神経学的な異常を引き起こすような場合には、頭部CT検査などが行われることがあります。
治療
葉酸欠乏症と診断された場合は、不足した葉酸の補充療法が行われます。
軽度の葉酸欠乏症の場合は、葉酸をはじめとしたビタミン類を含むサプリメントの服用で十分に症状を改善することが可能です。重度の葉酸欠乏症の場合は、原因の究明と葉酸の補充療法(静脈投与など)を考慮する必要があるため、専門医への相談が必要です。
また、妊娠中の場合は胎児の神経が発育する初期の頃に十分な量の葉酸が必要です。そのため妊娠を希望する場合は、妊娠が分かってからではなく、いわゆる“妊活”を始める段階からサプリメントなどで葉酸を補うことが推奨されています。
予防
葉酸欠乏症は、意識的に葉酸を多く摂取することで発症を予防できます。
葉酸はさまざまな食材に含まれていますが、料理の段階で破壊されやすい栄養素です。そのため、妊娠を希望する場合などは、葉酸サプリメントを活用して積極的に葉酸を取るとよいでしょう。
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