概要
ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症(酸性リパーゼ欠損症)とは、脂質や糖質などの老廃物を分解する細胞である“ライソゾーム”の小器官にある“ライソゾーム酸性リパーゼ”という酵素が生まれつきない病気のことです。ライソゾーム酸性リパーゼは、コレステロールエステルやトリグリセリドを脂肪酸に分解するはたらきを担うため、この病気では体内にコレステロールエステルやトリグリセライドがたまるようになります。
なお、ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症は、乳児期に明らかな症状が現れる重症型の“ウォルマン病”と少しずつ症状が現れて大人になるまで診断されないことも多い軽症型の“コレステロールエステル蓄積症”に分類されます。前者は生後1週間以内に嘔吐、お腹の張り、肝臓や脾臓の腫れなどの症状が現れ、通常は生後半年以内に死に至るとされています。一方、後者は目立った自覚症状は少ないものの、動脈硬化になりやすく心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなります。進行すると肝不全を引き起こします。
これまでこの病気に対する治療法は確立されていませんでしたが、日本では2015年にライソゾーム酸性リパーゼ補充薬が保険収載され、ウォルマン病とコレステロールエステル蓄積症に対して有効な治療法として広く使用されるようになっています。
原因
ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症は、ライソゾーム内に存在するべきライソゾーム酸性リパーゼという酵素が生まれつきうまく産生されない病気のことです。この病気の原因はLIPA遺伝子の異常で、発症に性差はありません。
症状
ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症は、上述したようにライソゾーム内のライソゾーム酸性リパーゼが生まれつきうまく産生されないことによって生じる病気です。
ライソゾーム酸性リパーゼという酵素には、体内で不要になったコレステロールエステルやトリグリセライドなどを体に害のない脂肪酸に分解して排出するはたらきがあります。そのため、この酵素がうまく作られなくなるライソゾーム酸性リパーゼ欠損症では、コレステロールエステルやトリグリセライドが体内にたまるようになります。
その結果、重症な場合には生後1週間頃から下痢や嘔吐、肝臓・脾臓の腫れ、発育不良、貧血などの症状が現れる“ウォルマン病”を発症し、重度な肝機能障害や肝硬変を引き起こすため適切な治療をしないと生後半年以内に死に至るとされています。
一方、ライソゾーム酸性リパーゼの産生量が少ない・はたらきが弱いなど軽症な場合には少しずつ症状が現れる“コレステロールエステル蓄積症”を発症します。コレステロールエステル蓄積症はウォルマン病のように乳児期から急激な症状は現れず、小児期から成人にかけて肝臓や脾臓の腫れがみられ、血液検査では肝機能障害が認められることもあります。命に関わるような症状が生じることはありませんが、進行すると肝硬変症、脳血管障害、虚血性心疾患を引き起こします。
検査・診断
血液検査
非肥満者で持続性の肝機能障害、LDLの上昇、HDLの低下を示す症例、家族歴が明確でない家族性高コレステロール血症と診断されている症例では、ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症の疑いがあるのでライソゾーム酸性リパーゼ活性を測定することがすすめられます。確定診断は活性値低下によりなされます。
遺伝子検査
この病気はLIPA遺伝子の異常によって引き起こされることが分かっているため、確定診断のために遺伝子検査を行うことがあります。
画像検査
この病気では、肝臓や脾臓の腫れ、脂肪肝などが引き起こされるため、超音波やCTなどを用いた画像検査を行うのが一般的です。また、コレステロールエステル蓄積症の場合は動脈硬化の状態を把握するために超音波などの画像検査を行って経過をみていきます。
肝生検
体外から肝臓に針を刺して組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。体への負担が大きな検査ですが、この病気と似た症状を引き起こす病気との鑑別のために行うことがあります。
治療
組み換えライソゾーム酸性リパーゼ製剤を用いた酸素補充療法が、日本では2015年10月に保険収載されました。治験のデータでは、ウォルマン病では生後12か月の生存率、成長、肝機能が改善しています。コレステロールエステル蓄積症では肝機能、肝脂肪量、血清脂質パラメーターの改善が認められています。
予防
予防法はありませんが、治療法が確立したためライソゾーム酸性リパーゼ欠損症が疑わしい患者に対して酵素活性測定を行い早期に診断し、早期に治療することが重要です。
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