概要
高ナトリウム血症とは、血液中のナトリウムの濃度(血清ナトリウム濃度)が異常に高い状態を指します。血清ナトリウム濃度の正常値は135~145 mEq/Lで、145 mEq/Lを上回った状態が高ナトリウム血症と定義されています。
ナトリウムは、塩素と結合して塩になります。ヒトは食塩としてナトリウムを摂取し、体内でのナトリウムは塩素と分離した状態(ナトリウムイオン)で存在します。ナトリウムは体内で細胞内外を自由に行き来することができず、細胞外の体液(細胞外液)に偏って存在します。また、水を引き付ける力(浸透圧)を持つことが特徴です。
通常ヒトの体内では、たとえ食塩を多く摂取したとしても、口の喝きを感じて水分を多く摂取するほか、下垂体から分泌された抗利尿ホルモン*が腎臓にはたらきかけて、尿による水分の排出を抑えてナトリウム濃度を正常に引き戻します。
高ナトリウム血症の主な原因は、高くなったナトリウム濃度を正常に戻すための水分を摂取できないことや、著しい多尿で水分が不適切に排出されることが挙げられます。特に水分摂取の不足については、高齢者や乳幼児のように口の渇きを感じにくかったり、自分で飲水行動がとりにくかったりする方に生じやすいといわれています。
高ナトリウム血症になると、ナトリウムが細胞外に水を引き付けることで、細胞内から細胞外に水が移動する“細胞内脱水”が脳神経細胞に生じ、イライラや傾眠傾向といった軽度の症状から、重いけいれん、頭蓋内出血など重篤な症状までが現れる可能性があります。
治療としては、不足している水分を速やかに補うことが重要です。また、体内からの水分喪失を招く薬剤を使用していたり、抗利尿ホルモン作用の低下が関与したりしている場合には、薬剤の調整や、抗利尿ホルモン作用低下を引き起こす原因の究明と治療、または抗利尿ホルモンを投薬することもあります。
*抗利尿ホルモン:体内の浸透圧上昇時や血圧が顕著に低下した際に、脳の下垂体という場所の後ろ側から分泌されるホルモン。腎臓に作用して、腎臓内の尿から水分を体内に再吸収するはたらきを持つ。
原因
高ナトリウム血症の原因には、以下が挙げられます。
高ナトリウム血症の原因検索では、まず海での溺水やナトリウムの過剰投与をはじめとした細胞外液が増える原因を、次にけいれんや横紋筋融解症など細胞内液が増える原因がないかを確認します。けいれんや横紋筋融解症は水が細胞外から細胞内に移動するため、高ナトリウム血症を発症する可能性があります。なお、これら以外の原因は、おおむね体重が減少する病態と考えられています。
次に、下痢、火傷、嘔吐、高熱などの可能性を検討します。これらは消化管や皮膚から水分が喪失することで高ナトリウム血症の原因となり、尿への水分排泄(尿量)が減ることが特徴です。
続いて考えられるのは、利尿薬や浸透圧利尿作用を起こす物質の関与です。浸透圧利尿とは、体内で過剰となった糖や尿素窒素などの物質が尿中に漏れ出て生じるもので、尿からの水分再吸収ができずに高ナトリウム血症となることがあります。高血糖や、成分量が過剰な点滴などが原因で発症します。
以上のような可能性が除外された場合、抗利尿ホルモンが正常に作用していないと考えられます。この場合も、尿からの水分再吸収ができずに高ナトリウム血症となることがあります。原因としては、抗利尿ホルモンの分泌が低下する中枢性尿崩症や、腎臓が抗利尿ホルモンに反応できない腎性尿崩症の可能性があります。
症状
高ナトリウム血症では、血液中のナトリウム濃度に応じた症状がみられます。
注意が必要なのは、急激に血清ナトリウム濃度が160 mEq/L以上に上昇した場合です。脳細胞脱水や脳委縮によって、無気力や筋力低下、過敏性から始まり、筋肉または全身のけいれん発作、昏睡へと進行し、場合によっては脳静脈破裂・脳内出血やくも膜下出血に至る可能性があります。特に、血清ナトリウム濃度が180 mEq/L以上になると、命に関わる可能性が上がるともいわれています。
高ナトリウム血症の発症から2日以上が経過した場合は、脳細胞内に浸透圧物質と共に水が移動し脳の体積が回復するため、発症間もない時期に比べて上記の症状は出にくくなるといわれています。
検査・診断
高ナトリウム血症の診断では、血液検査が行い血清ナトリウム濃度を測定します。血清ナトリウム濃度の正常範囲は135〜145mEq/Lで、この数値を上回る場合には高ナトリウム血症と診断されます。
血液検査のほか、高ナトリウム血症の原因を特定するために尿検査を行い、尿量や尿浸透圧、尿中のナトリウムやカリウムの濃度を測定することもあります。
尿崩症の疑いがある場合は、高濃度の食塩水を投与しながら血液の浸透圧と抗利尿ホルモンの分泌状況を確認する、高張食塩水負荷試験を行います。その後、バソプレシンという抗利尿ホルモンを投与して尿量減少と尿の浸透圧上昇があるかを確認する、バソプレシン負荷試験が行われます。尿崩症の診断のために行われる負荷試験検査は、血圧や心拍数の変化を引き起こす可能性があるため、医師によるモニタリングの下で行われます。
治療
まず、血清ナトリウム濃度を正常範囲に低下させるために水分の補充が行われます。状況に応じて、水分を経口摂取し、飲水が困難な場合は鼻から胃へチューブを挿入して白湯を注入するか、5%ブドウ糖液や1/4生理食塩水などを点滴静脈注射する場合があります。
高ナトリウム血症の多くが、2日以上経過した慢性の状態であり、この場合は急激に血清ナトリウム濃度を低下させることで脳浮腫*や肺水腫**を招く可能性があるため、こまめに血液検査を行いながら緩やかに血清ナトリウム濃度を低下させます。
また、著しい低血圧や脱水を伴っている場合は、生理食塩水などによる細胞外液の補充を同時に行い、反対に完全に尿が出ない腎不全を合併している場合には、透析で血清ナトリウム濃度を低下させる方法をとることもあります。高ナトリウム血症の原因検索で、後に尿崩症が診断された場合には、腎臓での多尿による水分喪失を防ぐための抗利尿ホルモン補充療法を含む対症療法が行われます。
*脳浮腫:脳細胞内に水分が過剰にたまった状態で、命に関わる可能性がある。
**肺水腫:肺に水分がたまる状態で、重症化すると呼吸不全になる可能性がある。
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