鼠径ヘルニアの初期は自覚症状が乏しいことに加え、足の付け根の膨らみが出たり消えたりするので早期発見が難しい病気といえるでしょう。しかし、臓器が脱出した状態が長く続くと、臓器が元の位置に戻らなくなり、腸や卵巣などが壊死することもあるため、小児の鼠径ヘルニアの場合は親御さんがお子さんの変化に気付いて早期発見につなげることが重要です。
今回は、埼玉県立小児医療センター 小児外科で科長を務める川嶋 寛先生に、鼠径ヘルニアの症状や親御さんがチェックすべきポイントなどについてお話を伺いました。
鼠径ヘルニアとは、腹膜鞘状突起と呼ばれる腹膜の袋の中に腸や卵巣といった臓器が飛び出てきてしまう、小児外科疾患の中ではもっとも頻度が高い病気です。本来、腹膜鞘状突起は自然に消失するため、腹膜鞘状突起があること自体は問題ではありません。しかし、消失せずそのまま残ってしまい、この袋に腸や卵巣といったお腹の中の臓器が入り込むと鼠径部(足の付け根)に腫れを生じます。
なお、鼠径ヘルニアは腸が脱出して起こることが多いため脱腸とも呼ばれます。
腹膜鞘状突起が形成されるメカニズムは男女で少し異なります。お母さんの胎内にいるとき男の子の場合は、お腹の中に発生した精巣が陰嚢に下りてくる過程で、鼠径管という足の付け根のトンネルを通って陰嚢に降りるときに、精巣と一緒に腹膜が引っ張り下ろしてしまい腹膜鞘状突起がつくられます。一方、女の子の場合は、子宮を支えている円靱帯が鼠径管の中を通って大陰唇に向かって下りてくるときに腹膜を引っ張り下ろしてしまうと腹膜鞘状突起が形成されます。
腹膜鞘状突起が大きいと、その袋の中へ向かって臓器が飛び出てきて鼠径ヘルニアに臓器が入っている状態になります。飛び出した臓器が腹膜鞘状突起に入っている時間が長くなると、だんだんと臓器がむくんだり、腸の中に便がたまって膨らんだりして、腹膜鞘状突起の入口よりも入り込んだ臓器が大きくなってしまい元の位置に戻らなくなります。このようにして飛び出した臓器が戻らなくなり、血流が悪くなってしまう状態を嵌頓といいます。
嵌頓は、放っておくと血流が悪くなり、腸閉塞(腸管が塞がれた状態)や臓器の壊死につながるため、早期治療が必要不可欠です。
鼠径ヘルニアの特徴的な症状として、鼠径部と呼ばれる足の付け根に膨らみができることが挙げられます。この膨らみを押してみると、腸が入っている場合にはグシュグシュと腸が潰れるような感覚が、卵巣が入っているとコロコロとしたものが触れ、それが動くような感覚があるため、足の付け根に膨らみがあるときはこれらの感覚がないか確認しましょう。
お腹に臓器が戻らない嵌頓の状態になると強い腹痛が現れます。たとえば腸管の途中をギュッと締めた状態が長く続くと腸閉塞になってしまい、嘔吐やお腹が張るなどの症状も出てきます。さらに時間が経過すると腸管や卵巣が壊死する恐れがあるため、早期に治療を行わなければなりません。
鼠径ヘルニアの初期はなかなか自覚症状がありません。特に乳幼児の場合は言葉で症状をうまく伝えることができませんから、親御さんがお子さんを見るなかで変化に気付くことが大切です。
腹膜鞘状突起に臓器が飛び出した違和感や腸の蠕動運動(消化した食べものを運ぶ動き)によって痛がりますが、その動きがなくなると痛がらなくなります。そのため、泣いたと思ったらすぐに泣き止み、泣き止んだと思ったら再び泣き始めるというサイクルを、10~15分ほどの短いスパンで繰り返すような周期的な泣き方をします。
嵌頓すると強い痛みを感じて泣いてしまうことに加えて、乳幼児の場合は腸閉塞の症状が比較的出やすいため、嘔吐やお腹が張るといった症状が多くの場合でみられます。これらと併せて鼠径部の腫れがみられる場合には、鼠径ヘルニアを疑って早期に病院を受診ください。
自分の症状を話せるまでに成長している小学生以上のお子さんであれば、足の付け根あたりの気持ち悪さや違和感を訴えることが多いです。このような症状がある場合には、足の付け根に腫れがないかをチェックし、腫れが確認できたら鼠径ヘルニアを疑ってよいでしょう。
嵌頓をきたすと、乳幼児の場合と同様に激しい痛みを感じるようになります。また、嵌頓の状態のまま放置してしまうと腸閉塞や臓器が壊死してしまう恐れがあるので、嵌頓する前に鼠径ヘルニアに気付き、早期治療につなげていただきたいと思います。
初期の鼠径ヘルニアでは、臓器が脱出したり元の位置に戻ったりするため鼠径部の腫れを確認しづらいという特徴があります。そのため、鼠径ヘルニアを疑う反応をお子さんが示したり、症状を訴えたりしたときはこまめに鼠径部を触り、臓器が飛び出ていないか確かめることが重要です。特に乳幼児の場合はおむつ交換のたびに鼠径部を確認していただくとよいでしょう。
また、鼠径ヘルニアは臓器が脱出していないタイミングで病院を受診すると、見た目や超音波検査の結果ではヘルニアを確認することができないため、診断には至らないケースが多々あります。このような事態を避けるために、親御さんには腫れているときの鼠径部をスマートフォンなどで撮影していただきたいと思います。こういった写真があれば、写真を参考に診断ができるだけでなく、左右どちらにヘルニアがあるのかを正しく判断することにもつながります。ですから、スムーズな診断・治療につなげるためにも、お子さんの足の付け根に腫れがあったときには写真の撮影をお願いします。
埼玉県立小児医療センター 小児外科 科長
「鼠径ヘルニア」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。