えむあーるえすえーかんせんしょう

MRSA感染症

同義語
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
最終更新日:
2024年02月21日
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2024/02/21
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概要

MRSA感染症とは、“メチシリン”という抗菌薬が効かない黄色ブドウ球菌に感染することによって起こる感染症です。MRSAとは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の略称です。

黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚や鼻の穴の中などに存在し、普段は特に害はありません。しかし、皮膚や粘膜に傷ができるとそこから感染し、傷が化する、赤みや腫れ、痛みなどの症状を引き起こします。重症化すると発熱などの全身症状がみられることがあるほか、肺炎敗血症などを引き起こすこともあります。

MRSAは、手術などの治療後に感染することがある代表的な細菌(院内感染型MRSA)です。しかし、MRSAには異なる遺伝子型もあり、子ども同士の接触が多い保育園や、アメリカンフットボールなど身体的な接触の多いスポーツなど市中で感染(市中感染型MRSA)することもあれば、豚などの家畜から感染(家畜関連型MRSA)することもあります。近年は、医療機関内で発症するMRSA感染症は適切な感染対策により減少傾向にあるといわれています。

MRSAはいわゆる“耐性菌”の1つです。欧米で1960年頃から使用され始めたメチシリンが普及し、耐性に関係する遺伝子変異を持った黄色ブドウ球菌が病院の環境や医療従事者を介して急速に広まったと考えられています。現在日本ではメチシリンはほとんど使用されておらず、耐性があるかの判断には使われていません。代わりに判定にはオキサシリンという抗菌薬が使用されていますが、慣用的に“メチシリン耐性”と呼ばれています。

種類

MRSAは、院内感染型MRSA、市中感染型MRSA、家畜関連型MRSAの3つに区分されることがあります。臨床的には、入院患者から発見されたMRSAを院内感染型MRSA、市中の健康な人から発見されたMRSAを市中感染型MRSAと定義しています。

また、細菌学的にはSCCmecという遺伝子型によって分類することができ、I〜III型を院内感染型MRSA、IV・V型を市中感染型MRSAと定義しています。しかし、近年は入院患者からIV型やV型のMRSAが見つかることも少なくないため、臨床的には区別が難しくなっています。なお、家畜関連型MRSAは主にIVa・V型に分類され、ほかのMRSAとは異なる遺伝子学的性状を持ちます。

原因

MRSA感染症はMRSAへの感染を原因として発症します。一般的にMRSAは、ほかの黄色ブドウ球菌と同様に接触感染や飛沫感染によって広がります。

そのため、病気や手術などの治療によって抵抗力が低下している入院患者に感染したり、市中で子どもや若い人などに感染したりすることがあります。特に抵抗力が低下している入院患者などに感染した場合には、重症になることがあります。

なお、家畜関連型MRSAは原因菌を保持している動物と人との物理的な接触によって感染することが一般的で、人から人に感染が広がることはまれであると考えられています。

症状

院内感染型MRSAによるMRSA感染症

皮膚や粘膜の傷から感染し、初期段階では傷が化する、赤みや腫れ、痛みなどの症状が現れることがあります。

MRSAは菌血症(血液中に細菌がいる状態)を起こし、重症の場合は心臓の弁に菌の塊を作って弁を破壊する心内膜炎という病気を起こすことがあります。この場合は高熱や血圧低下など現れ、病状が進むと命に関わることもあります。そのほか、骨や関節に感染して骨髄炎(こつずいえん)化膿性関節炎を起こすこともあります。免疫不全など体の抵抗力が弱くなっている人には肺炎を起こすことがあり、高熱や呼吸困難に陥ることがあります。下痢症状など腸炎を起こすことはまれです。

市中感染型によるMRSA感染症

通常の黄色ブドウ球菌による感染症と同様に、皮膚の傷などから感染が起こり、傷が化膿する、赤みや腫れ、痛みなどがみられます。

市中感染型MRSAの一部は、白血球を破壊するPVL(Panton-Valentine Leukocidin)と呼ばれる毒素を産生して、皮膚の下に(うみ)の塊(膿瘍(のうよう))を作りやすい性質があるため、高病原性*といわれることもあります。治療によって治癒することがほとんどですが、まれに肺炎を引き起こし命に関わることがあります。

*高病原性:病原体に病気を発症させる強い性質があること。

検査・診断

MRSA感染症が疑われる場合、感染の起こっている部位の体液を採取します。

MRSAが検出され、オキサシリンのMIC 値(菌の発育を抑えられる濃度)が4≧μg/mLを示す場合などにMRSAと判定されます。また、MRSAに特異的な遺伝子を検出するための検査を行うこともあります。

なお、MRSA感染症は感染症法上5類感染症に指定されており、基幹定点医療機関(全国約500か所の病床数300以上の医療機関)が月単位で届出を行うことになっています。

治療

MRSA薬による薬物療法が検討されます。

日本で使用可能な抗MRSA薬には以下が挙げられます。ただし、病態によって使用できる治療薬は決まっているほか、治療薬ごとに副作用なども異なるため、患者の病態や全身状態などに応じて治療薬を検討します。また、すでに抗MRSA薬が耐性化・低感受性化しているMRSAも存在することを考え、原因となるMRSAの特徴に応じて治療薬が検討されます。

使用可能な抗MRSA薬

  • グリコペプチド系抗菌薬:バンコマイシン(VCM)・テイコプラニン(TEIC)
  • アミノグリコシド系抗菌薬:アルベカシン(ABK)
  • オキサゾリジノン系抗菌薬:リネゾリド(LZD)・テジゾリド(TZD)
  • 環状リポペプチド系抗菌薬:ダプトマイシン(DAP)

ST合剤、クリンダマイシン(CLDM)、ミノサイクリン(MINO)など、ほかの抗菌薬が有効なこともあるため、感受性検査の結果をもとに治療薬を選択します。

予防

MRSA感染症は特に入院中で手術後の患者や免疫機能が低下している人、抗菌薬を長期にわたって服用している人などで注意が必要な病気です。そのため、手術前にMRSAを保菌していることが明らかになった場合には、術前に除菌を行ったり、術後に抗MRSA薬の予防投与を行ったりすることがあります。

ほかにも医療機関では、MRSA感染症に対するさまざまな予防対策が取られています。一般の方も入院患者のお見舞いなどで医療機関を訪れる際には、手指衛生(アルコール製剤を使った手指の消毒)や手洗いをよくしてから患者と面会するなど、細菌を持ち込まない工夫をしましょう。

また、慢性疾患を抱えている人など免疫機能が低下しやすい人は、病気の治療をしっかり受けることで感染を予防できる可能性もあります。

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