概要
心筋炎とは、心臓の筋肉に炎症が起きた状態のことです。
発症頻度は明らかではありませんが、10万人あたり115人の確率で生じるという報告があります。多くは急性期を経て自然に改善するとされていますが、ときに心臓の本来持つポンプ機能が低下する心不全や、心臓が危険なリズムで動く致命的な不整脈を引き起こすこともあります。
心筋炎にはいくつかのタイプがありますが、風邪や胃腸炎を引き起こすウイルス感染症に関連して発症することが多く、健康な人でも風邪などをきっかけに突然発症する可能性があります。
治療では重症化を防ぐために、入院し安静を保ったうえで症状を注意深くチェックし、症状の変化に応じたさまざまな治療を行います。
種類
心筋炎は、病因分類(発症の原因)・組織分類・臨床病型分類などさまざまな軸で分類されます。
病因分類では、ウイルス・細菌・真菌などの原因によって13つに分けられます。また組織分類では、リンパ球性・巨細胞性・好酸球性・肉芽腫性の4つに分けられます。臨床型分類では、急性・劇症型・慢性で分けられ、なかでも急性心筋炎の一部は、ショックなどを伴う劇症型心筋炎へ移行し、命にかかわることもあります。
原因
急性心筋炎の主な原因は、ウイルスや細菌などへの感染です。このほかにも薬や放射線、熱などといった物理的刺激のほか、膠原病などの病気や妊娠などが原因で生じることがあります。また、原因の分からない急性心筋炎は“特発性心筋炎”と呼ばれます。
一方、慢性心筋炎についてはいまだに原因を特定できていません。
症状
心筋炎は、ウイルス感染症をきっかけとして発症することが多いため、前兆として現れる症状には風邪症状や胃腸炎症状などがあります。具体的には、発熱や咳、喉の痛み、全身の倦怠感、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などが現れます。
この症状が進行すると数時間~数日後に心不全や不整脈の症状が現れ、具体的には呼吸困難や胸の痛み、動悸、失神などが現れます。また、ときに無症状で進行し、突然死で見つかる場合もあります。
検査・診断
心筋炎では、症状や病歴の確認に加え、心電図や胸部X線検査、心エコー、血液検査などを行って、心筋のはたらきの低下や炎症、心電図の特徴的な異常が認められた場合に心筋炎を疑い、診断をします。ただし、これらの検査のみで診断できない場合もあり、必要に応じて心臓カテーテル検査や心筋生検という心筋の組織を採取する検査が行われることもあります。
そのほか、心筋炎の原因としてウイルス感染が疑われる場合には、原因ウイルスを調べるためのPCR検査などが行われることもあります。
治療
心筋炎では、一部では命にかかわるものもあるため、たとえ軽症であっても入院をして経過観察をし、心筋炎の状態や原因に応じた治療が行われます。経過観察では主に血圧や脈拍、心電図などを確認します。
心筋炎によって心不全が生じている場合は、利尿剤や昇圧剤が使用されるほか、劇症型では、心臓のはたらきを助ける補助循環のために大動脈バルーンパンピング、経皮的心肺補助装置や補助心臓装置のインペラなどが必要になることもあります。心筋が回復するまでサポートが必要になります。一方、不整脈が生じている場合には種類に応じた抗不整脈薬などの薬を使用したり、電気ショックや一時的にペースメーカを入れ込んだりすることがあります。
はっきりとした原因が分かっている場合は原因に応じた治療が行われます。ただし、心筋炎の主な原因であるウイルス感染による心筋炎では、ウイルスの種類を特定するのが難しいうえに治療薬が確立されていません。そのため、根本的な治療は難しいですが、副腎皮質ステロイド療法や免疫グロブリン療法は効果が期待できる場合もあるため、必要に応じて検討されることもあります。
予防
心筋炎の主な原因はウイルスや細菌への感染です。そのため、手洗い・うがいなど基本的な感染症対策を行うことが予防につながります。
また、すでに風邪や胃腸炎などにかかっている人で、長引いてしまっている人や、胸の痛みや息苦しさ、失神などの症状が現れた人は病院の受診を検討しましょう。
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