うちの家は代々医師でした。幼い頃から漠然と「将来は医師になって、父のあとを継ぐのだろう」と考えていたように記憶しています。そこから私は医学部へ進学、1990年に九州大学医学部を卒業しました。
学生時代にはいろいろな診療科をまわりました。整形外科では手術を自分で組み立てるようにして計画し、幾度もの行程を経て治療を完成させることを知り、心惹かれました。
「整形外科の手術が1番面白そうだ」
興味を刺激される方向へ進んだ結果、図らずも今、自分の父と同じ、整形外科医という道を歩み続けています。
医師になってすぐの頃、急性膵炎(すいえん)を患い、3か月ほど点滴を打ちながら病室で過ごしました。そんななか、見舞ってくれる同級生たちは「初めて手術を任された」とか、「今日はこんな患者さんを処置した」などと、その目を輝かせて自身の体験を語ってくれたものです。入院中の自分と、どんどん成長していく同級生たち。私は、1人だけ置いていかれる焦燥感と悔しい気持ちを味わいました。
入院中は安静なので、起きている間は暇でしかたありません。唯一の楽しみといえば、3度の食事と、主治医との会話でした。とくに主治医の回診は待ち遠しく、病床で気になったことがあればメモに溜めて、会うたびに質問したものです。
このとき、初めて患者さんの気持ちになれました。「医者は死なない程度に病気しろ」とはよくいったものです。入院中はとても不安で寂しいこと。医師の回診を心待ちにして過ごしていること。聞きたいことは山ほどあるけれど、すべてを質問できないときもあること—。この頃に学んだ感情は今でも身に染み付いていて、患者さんとのコミュニケーションの基盤になっています。
整形外科は、運動器官をつくる骨・関節・筋肉・靭帯・腱・脊髄・神経の病気、怪我による損傷、先天性疾患など、全身のあらゆる臓器に対して手術や保存療法でアプローチします。ある骨腫瘍の患者さんは、何度か術後感染症を起こし、そのたびに患部の洗浄と人工関節の再固定を行なっていました。そして次は7回目か8回目の手術というときだったと思います。その方は思いつめたように私にいいました。
「先生、もう、脚を切断してください—」
私は、ハッとしました。まだこんなに若い、未来ある男性が自分の脚を切断してほしいと願い出るほどに、外科手術は患者さんにとって重く、大きなストレスなのだ—。それまで私は、低侵襲(患者さんの肉体的負担が少ない)なAの方法でうまくいかなければBの方法でいきましょう、という発想で手術を提案していました。そのようなとき、もしかしたら1回で済むBの手術を望む患者さんは多いのかもしれません。手術自体が大きな精神的負担になっていることを、目の前に患者さんがいながら、私はわかっていなかったのです。
この出来事があってから、患者さんのつらさを軽減するため可能な限り少ない回数の手術で治療が終了することを、治療の基準としました。
1993年から米国Biomechanical Research Laboratoryへ留学。当時の私は、アメリカといえばみなおおらかで夏休みが1か月もある、という勝手な先入観を持っていました。しかし、実際に彼らと一緒に働いてみると、驚くことばかりでした。朝は6時前から集まりすばやく準備を済ませ、次から次に手術をこなし、時間になったらさっさと帰る。そして、数字には非常に細かいのです。働き者のアメリカ人に、私の想像は見事にくつがえされました。
留学先のボスには、手術に対する姿勢を教わりました。
「Almost(大体)でいいと考え始めたら、進歩は終わる。常にperfect(完璧)を目指せ」
外科医は年間に100、200という数多くの手術を執刀します。しかし、患者さんにとっては一生に1回の手術かもしれません。その1回が、「大体でいい」わけがありません。その患者さんにとってベストな手術を、1回で成功させる。そのためには常に目標を設定し、治療の精度を上げていくことが不可欠です。
「治療の精度を上げる」ために必要なこと。それは、診療でも手術でも、常によりよい方法をみつけるためにアイディアを探し、またあらゆる可能性を検証することだと私は考えています。たとえば診療なら、患者さんの痛みに対して教科書通りの回答だけではなく、「もしかしたらこの痛みには、ほかの原因があるかもしれない」という可能性を吟味すること。手術であればよりよい方法を常に追究し、思いついたものは必ず検証してみること。患者さんをみて、声を聞いて、ベストな方法を模索する。その繰り返しが、患者さんにとってよい医療につながると確信しています。
現在、後進の教育に日々奮闘しています。医師という仕事はきちんとした一般研修を受ける機会がないため、社会の基本常識からきっちりと教えなければいけません。たとえば、日頃から挨拶を忘れない、患者さんの目をみてお話しする、時間には遅れない、服装はTPOを考える—。基本的な礼儀ができてこそ、その先を追求できるというものです。
そして、成長とともに、整形外科医としての心得を伝えていきます。
診療ガイドラインに沿えば、平均的な治療は可能です。大きく外れることはないかもしれません。しかし、その選択が患者さんにとってベストな治療かはまた別の問題で、患者さんと実際に話して、接して、メンタルを含めて総合的に判断すれば、ガイドラインとは異なる回答がみえてくる可能性があるのです。
「常に疑問を持ち、よりよい治療を求める」
私はこれからもその意義を体現しながら、よい医療を患者さんに提供できる医師を育てていきます。
この記事を見て受診される場合、
是非メディカルノートを見たとお伝えください!
京都大学医学部附属病院
京都大学医学研究科 医学教育・国際化推進センター 教授
片岡 仁美 先生
京都大学大学院 医学研究科 皮膚科学 教授
椛島 健治 先生
京都大学 名誉教授、公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 理事長
稲垣 暢也 先生
京都大学医学部附属病院 肝胆膵・移植外科 助教
穴澤 貴行 先生
京都大学医学部附属病院 呼吸器外科 教授
伊達 洋至 先生
京都大学大学院 医学研究科 消化管外科学 准教授
肥田 侯矢 先生
京都大学医学部附属病院 呼吸器内科 特定助教
村瀬 公彦 先生
京都大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学 教授
高折 晃史 先生
京都大学医学研究科 脳病態生理学講座 精神医学教室 講師
藤原 広臨 先生
京都大学 肝胆膵・移植外科 准教授
田浦 康二朗 先生
京都大学 医学研究科外科学講座(肝胆膵・移植外科学分野) 准教授
増井 俊彦 先生
京都大学 医学研究科外科学講座(消化管外科学) 教授
小濵 和貴 先生
京都大学大学院医学研究科 泌尿器科学 教授
小林 恭 先生
京都大学大学院医学研究科 臨床免疫学 教授
森信 暁雄 先生
京都大学医学部附属病院 小児科 助教
井澤 和司 先生
京都大学医学研究科 脳病態生理学講座 精神医学教室 教授
村井 俊哉 先生
京都大学医学部 呼吸器内科 助教
金 永学 先生
京都大学大学院医学研究科 薬剤疫学 教授
川上 浩司 先生
京都大学消化管外科 講師
角田 茂 先生
京都大学大学院医学研究科外科系専攻 器官外科学講座泌尿器病態学(泌尿器科) 教授
小川 修 先生
京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 科長、がんゲノム医療部 部長、クリニカルバイオリソースセンター センター長、病院長補佐、次世代医療・iPS細胞治療研究センター(Ki-CONNECT) センター長、先端医療研究開発機構(iACT) 副機構長
武藤 学 先生
京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座精神医学教室 講師
宮田 淳 先生
京都大学医学部附属病院
上野 真行 先生
京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 准教授
松原 淳一 先生
京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 特定助教
近藤 知大 先生
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