相談しやすい医師であるために、心の余裕を大切にする

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相談しやすい医師であるために、心の余裕を大切にする

治療の技術だけでなく、患者さんの気持ちにも寄り添うことを大切にする沢田 晃暢先生のストーリー

NTT東日本関東病院 乳腺外科部長・がん相談支援センター長
沢田 晃暢 先生

自分がけがをしたことで外科医を目指すように

私が幼い頃は、割れた牛乳瓶を踏んで足の裏を切ってしまったり、自転車屋さんの中で頭をぶつけて頭を切ってしまったり、とにかくけがの多い子どもでした。そのたびに、母には心配をかけ、いつしか「自分で傷を縫えたらいいのにな」と思うようになっていました。それからも、数々のけがで痛い思いをしていくうちに「なんで自分はこんなにけがをするのだろう」という悩みとともに、「いつかは自分で治してやる」という強い気持ちも芽生えたのです。
この「自分で自分を治したい」という気持ちこそが、医師という職業を意識した最初のきっかけです。今思えば、子どもの頃の夢を叶えるのなら、整形外科や形成外科が進むべき診療科であったような気もしていますが、外科医として働いている今、たくさんの患者さんを治すために尽力できることが、私にとっての幸せとなっています。

乳腺外科の道へと導いてくれた3人の恩師

乳腺外科は、女性が多く来院される診療科です。女性の患者さんのなかには「女性の先生に診てもらいたい」という患者さんも少なくありません。外科医を選択することは、医師を志したときから決めていた道でしたが、私がなぜ乳腺外科を選択したのか。
それは、医師になった当初、昭和大学病院 超音波センターでお世話になった神谷憲太郎(かみや けんたろう)先生から、学会にお誘いをいただいたことです。さらにがん研究会がん研究所でお世話になった坂元吾偉(さかもと ごい)先生から、病理を教えていただいたことも乳腺外科に進んだきっかけの1つです。今でこそ病理を専門に見てくださる先生がいらっしゃいますが、私が昭和大学で乳腺外科の道を進み始めたころは、検査から手術、病理まで、全てを外科で担っている時代でした。
実際に乳腺外科の臨床の現場で働き始めてからは、昭和大学病院 乳腺外科で教授を務める中村清吾(なかむら せいご)先生にご指導いただいていました。検査から手術、病理まで、全て一貫して行っていたことを、よかったのかどうか判断することは難しいですが、3人の先生方との出会いによって培われた私の検査、手術、病理における技術を臨床の場で活かせるのだという観点では、自分の成長につながっているのだなと、あらためて思います。

患者さんを救うことができたときの「ありがとう」が心の支え

救うことができた患者さん、手術がうまくいったものの、その後に長期間闘病を強いられる患者さん、惜しくも救うことができなかった患者さん、私は今までにたくさんの患者さんと出会ってきました。乳がんの患者さんとひとくくりに言っても、一人ひとり性格や乳がんのタイプは異なり、患者さんとの出会いの数だけ学びがありました。
患者さんからたくさんのことを学んでいくなかで、辛いことも嬉しいこともありました。それでも、私が医師として前を向き続けることができているのは、患者さんからの「ありがとう」という言葉があったからです。
医師として患者さんを救うために尽力することは、当たり前のことだと思っています。患者さんを助けられたときに、「抗がん剤治療を選択してよかったな」など、選択した治療に対して安堵感を抱くのは自己満足でしかありません。
しかし、結果として救うことができたときにいただく感謝の言葉。それこそが、治療に臨むうえでの私の大きな心の支えになっています。

治療期間が長い病気だからこそ、心の余裕を持って患者さんと接したい

私が医師になったばかりの頃は、心に余裕を持てるほど気持ちにゆとりはなく、ただひたすら、がむしゃらに頑張っていました。しかし、歳を重ね、さらには経験を重ねるうちに、心の余裕が大切だなと感じたのです。
乳がんの患者さんのなかには、数年にわたり薬物療法を行わなくてはならないなど、治療が長期にわたってしまう方もいらっしゃいます。服薬であれば、薬を飲むたびに自分が乳がんであることを思い起こしてしまうわけですし、治療のために通院するたびに「自分は果たしてよくなっているのだろうか」と不安に駆られてしまうこともあるはずです。
担当の医師に余裕が感じられず相談しづらいような雰囲気だったとしたら、患者さんは担当の医師に本音を話すことができるでしょうか。そのような患者さんに対して、私自身が心に余裕を持って会話をする、それが大切だと思ったのです。
患者さんとの会話を通して、その方の表情などから、時には精神科の先生のサポートを求めようと判断することもあります。患者さんを第一に考えて、患者さんの立場に立った医療を提供できるように心がけています。

患者さんが心身共に元気になる、それこそが目指すべき医療

どうすれば病気を治せるのかと、日々そればかりを考えています。私にとっての目指すべき医療とは、どんな患者さんにも寄り添い、共に病気と闘う医療です。医師であれば、患者さんを治したいという気持ちを持っているのは当然のことでしょう。むしろ、そのような気持ちがない医師は、おそらくいないはずです。そのため、私は患者さんが心身共に元気になることを目指し、サポートを行っています。
特に、乳がんの場合には早期発見がとても重要になるので、できるだけ早く発見し、治療を提供したいと考えています。早期発見のタイミングを逃すことで、患者さんの状態によっては、抗がん剤治療を取り入れなくてはならないこともあるでしょう。なかには、乳房を全摘出する乳房切除術を受けなくてはならず、乳がんであることや見た目の変化から、ショックを受けてしまったり、思い悩んでしまったり、つらい思いをする患者さんもいらっしゃるはずです。乳がんは長期的な治療が必要になる可能性があるからこそ、身体的な面だけでなく、精神的な面から寄り添うことを大切にしています。
乳がんの患者さんの治療とは、がんそのものに対する医療技術の提供にとどまらず、精神的な面においてのサポートも欠かすことはできない重要なものであると考えています。常に患者さんの立場に立ち、技術的な面においても精神的な面においても、共に病気に対して闘っていける医師を目指して、これからも尽力していきます。

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