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患者さんの気持ちを受け止め、外科医としてできる限りのことをしたい

DOCTOR’S
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患者さんの気持ちを受け止め、外科医としてできる限りのことをしたい

全ては患者さんのために、新しい知識や考え方を学び続ける増井 俊彦先生のストーリー

京都大学 医学研究科外科学講座(肝胆膵・移植外科学分野) 准教授
増井 俊彦 先生

“病気や死”と“生産活動”を切り離す社会に疑問を覚えて

私は、子どもの頃のある経験がきっかけで医師を志すようになりました。大好きな祖父と川で鮎釣りをしていたとき、祖父が急に脳出血を起こして倒れたのです。それから亡くなるまで7年間にもわたって、祖父は懸命にリハビリテーションを続けていました。

中学生のときにアメリカでホームステイした際、キリスト教をベースにした障がい者への目線に驚き、また、祖父の病気と死を経験した私は、「日本社会は、“生産活動”と“病気や死”とが切り離されていてあたかも病気や死がないような前提で社会がまわっている。人はいつそのような状態になるか分からないのに、そのような病気や死を包含しない社会は成熟していないのではないか」と思うようになりました。

人の生と死は、隣り合っているものであり、誰でもいつかは死を迎えるものです。その狭間を、自ら医療に携わって、自分の目で確かめたいと考えました。

また、闘病中の祖父から「お前は医者になれ」と言われたことも、医師を志すようになったきっかけのひとつでした。太平洋戦争の最中、陸軍で衛生兵*を務めた祖父は、傷病兵に治療を施す任務にあたっていました。戦後は、同じ戦場体験を共有する戦友会の方々から、とても感謝されたそうです。祖父の体験は、“人の生死に携わり、生きようとする人を支える医療は、どのような時代になっても普遍的かつ根源的に必要とされるのだ”と、教えてくれました。私はこのような思いから、医師を志したのです。

*衛生兵:軍隊で医療に関する業務を行う兵科のひとつ

医学部に入学後、外科医を志した理由

京都大学医学部に入学してみると、周りには優秀な同級生が多く、自分とはまったく異なる考え方をする同級生たちから大いに刺激を受けました。そして、当時、一部で“将来的にがんはなくなる。外科は存在価値を失う”と揶揄されて迷ってもいたのですが、私の尊敬する先輩の「人間が年老いる限り、がんはなくならないよ」との言葉が外科医を目指す後押しになりました。

外科というのは、技術が大切だと思われるかもしれませんが、実は技術よりも戦略が重要です。いくら技術が精緻でも戦略を間違えると患者さんは助かりません。逆にどのように治療を進めていくべきか適切な戦略が立てられれば、天才的な技術がなくても十分な治療が可能です。特に、私が携わっている肝臓や膵臓の手術では、頭の中で臓器を立体的に捉え、どの部分に腫瘍があるか、そして、どのように切り込めば出血が少なくて済むかといったことを、戦略的に考えることがポイントです。頭の中で物を回して立体的に考えることが好きだった私は、そのような治療戦略の立て方にやりがいを感じ、肝胆膵外科医を志しました。

いざというときには必ず助けてくれた恩師が、私の医師としての目標

大学卒業後は研修医として、京都大学医学部附属病院と倉敷中央病院に勤めました。京都大学医学部附属病院では、先輩医師の補佐として患者さんの経過を観察しながら、さまざまな症例を目にしました。一方の倉敷中央病院では、研修医である私が1人で患者さんを受け持つことが多く、「この患者さんをどのように治療していくべきか」と自分で考えなければなりませんでした。まだ経験の浅い自分には難しかったのですが、非常にやりがいがありました。

そのときにお世話になったのが、外科医の河野(こうの) 幸裕(ゆきひろ)先生(現・若狭高浜病院病院長)です。これまでの豊富な経験に裏付けされた鋭い勘をお持ちの、いわゆる“感覚派”の先生でした。患者さんに対する最適な治療が何であるか、私がどうしても判断に迷ったときに、河野先生は的確なアドバイスをくださいました。

私が本当に苦しいときには必ず助けてくださった河野先生の姿に、自分がどのような医師を目指したいかという、目標のようなものが見えてきました。河野先生ほどの優れた感性を持つことは難しいかもしれないけれど、いざというときに周囲を助けてあげられるような力を私も持ちたい、と思ったのです。

臨床の現場を離れ、留学先で研究に専念した4年間

研修を終えて大学院を修了した後に、恩師の1人である川口(かわぐち) 義弥(よしや)先生(現・京都大学iPS細胞研究所未来生命科学開拓部門教授)にすすめられて、アメリカのテキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターに留学し、膵臓における外分泌機能の分化に関与する遺伝子のはたらきについて研究しました。

私は元々、臨床の研究室に在籍して主に臨床検体(人体から採取した被検査物)を用いたがんの研究をしていたため、アメリカで初めて学んだ遺伝子組み換えの実験手法や、遺伝子の組み換えに用いるプラスミド(核外遺伝子)の製作には、とても苦労しました。また、当時はノックアウトマウス*の製作に1年もかかっていたので、自分が思っていたよりも長期にわたる留学となりました。

それでも、1回目のスクリーニング(ふるい分け)のときに、組み換え遺伝子の入った細胞を一つ見つけることができたという幸運もあって、なんとか4年で論文を完成させることができました。また、ChIP(チップ)シークエンス**という新しい方法を導入したことで、留学先の研究室にも貢献できたと思っています。

留学から帰ってきて感じたことは、たとえ臨床の現場を一時的に離れても、研究に専念して得られたものは、後の診療に生かすことができるということでした。学校の勉強が社会に出てからの考え方の訓練となっているように、研究で必要とされる、データに基づいて筋道を立てる論理的な考え方は、患者さんに何が起こっているのかを推論していく臨床のプロセスを進めるにあたって大きく役立ちました。今では臨床の現場が自分のフィールドとなった私にとって、研究に打ち込んだ4年間は、そのような訓練をするうえでとても貴重な時間となりました。

*ノックアウトマウス:遺伝子組み換えにより一部の遺伝子を無効化させたマウス

**ChIPシークエンス:遺伝子のどの領域にたんぱく質が結合するのか調べる方法

外科医として後進の医師を指導するときに大切にしていること

私が後進の医師を指導するとき、特に手術に必要な技術を教えるうえで、剥離する、切る、結ぶといった基本的手技を高いレベルで行うこと、それから“自分の頭”で考えてマネジメントを行うようにしてもらうことを大切にしています。この基本技術の大切さは留学から帰学して、恩師の土井(どい) 隆一郎(りゅういちろう)先生(現・大津赤十字病院副院長)の精緻な手術を見て、たたき込まれたことが土台となりました。また、手術全体を考えたマネジメントの重要性は移植医療の診療、手術を通じて上本(うえもと) 伸二(しんじ)先生(現・滋賀医科大学学長)に教わりました。

基本手技を確実に行うこと、意識して自分の頭で手術をマネジメントすること以外に、診療において極めて重要なことのひとつとして、何か気になることがあってもなくても患者さんのところに行って直接自分の目で見て確認することが大事と考えています。まさに“事件は現場にある”といえ、見た目や雰囲気、いつもと違う体調などを聞き出すうちに、思わぬことが見つかることがあります。

研究においては、医師一人ひとりの個性を正しく見極め、得意な分野、好きな分野がある医師には、その医師の長所や能力を伸ばすことを心がけています。さらに、興味のない分野でもかじってみることをおすすめしています。自分の“幅”を広げるという意味で、若い医師は自分で自分の枠をはめてしまわず、何でも面白いと思う柔らかい頭を持つことが重要です。私自身、興味を持っていなかった分野でも関わってみると面白いと感じることが多く、経験の幅を広げてくれる指導を受けて成長したように思います。特に私と同じように、どのようなことにもやりがいを見出せるタイプの医師には、より多くの経験を積ませてあげたいと思っています。

膵臓腫瘍の患者さんに、医師としてできる限りのことをしたい

先生

私は、治療の難しい病気のひとつとされる膵臓腫瘍を専門とした外科医ですので、まず腫瘍学的に必要十分な手術を安全に行い、元気に退院されること、スムーズな術後の治療につなげることが治療の前提と考えています。そのうえで、放射線や化学療法を組み合わせて手術を行い、根治手術にて“治りきる”患者さんを増やすことを目指しています。その一方で、患者さんといろんな話をするなかで患者さん本人が納得できる形での治療の提示を心がけています。とりわけ、遠隔転移*のある患者さんは余命がある程度限られてしまうことも多いので、バランスを考えた治療を選択し、残された治療法がもうわずかというときでも、患者さんが治療をやっておけばよかった、あるいは、やらなければよかった、と後悔しないよう、医師としてできる限りのことができればと考えています。

膵臓腫瘍に限らず患者さんは、治療の手立てがなくなると、緩和ケアを専門とする病院に紹介されるケースが多いと思います。しかし、私の患者さんは、積極的な治療が難しくなった後も、私の診察室までよく話をしに来られます。私は“治りきる”根治手術を目指す外科医であるとともに、そのような患者さんの気持ちをしっかりと受け止め、患者さんの気持ちに寄り添った医師でありたいと思っています。

*遠隔転移:最初に発生した場所から離れたところにがんが転移すること

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