つらいときを乗り越えた先に、外科医としてのやりがいは必ずある

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つらいときを乗り越えた先に、外科医としてのやりがいは必ずある

一人ひとりの患者さんに誠実に対応するとともに、これまでに培った技術や考え方を後進に伝えることに力を注ぐ小濵 和貴先生のストーリー

京都大学 医学研究科外科学講座(消化管外科学) 教授
小濵 和貴 先生

つらい状況があっても、患者さんのよくなる経過を糧に乗り越えてきた

私が医師を目指したのは、小さい頃から理科が好きだったことによると思います。なかでも、生物学が好きで、体の仕組みであったり解剖学であったり、生物学に対する知識を深めるたびに、どんどん生物学の魅力にひき込まれていきました。この生物学の知識を将来的に生かすことができる職業を考えたとき、必然的に医師という仕事が浮かんだのです。そして、医師の中でも外科医であれば、患者さんの体に直接アプローチを行う分、生物学の知識を直接生かすことができそうだと考え、外科医を目指すことにしました。それと同時に、外科医はシンプルにカッコいい、という純粋な憧れもあったのです。

念願の外科医になってからは、その責任の大きさにめげそうになることが幾度となくありました。時には手術がうまくいっても、病気が進行してしまっている場合には救うことができない患者さんもいて、自分の無力さを痛感する場面に直面することもあります。それでも、手術後によい経過を辿っていく患者さんが喜ぶ顔を見ていると、外科医になってよかったと心から思います。

患者さんを自らの手と技術で治療し、その結果を自分の目で確かめ、患者さんと共に喜びあえることが、外科医としての私のモチベーションになっています。

恩師の影響を受けて、腹腔鏡手術とロボット支援手術の領域へ

自分の専門性を、胃の腹腔鏡手術とロボット支援手術という専門的な領域に絞ったことは、尊敬する坂井(さかい) 義治(よしはる)先生の影響が大きかったように思います。

私が研修医になったときには、専門分野を絞らずに、なんでも手術できる外科医になりたいと思っていました。当時は、一般的な外科で上部消化管、下部消化管、肝胆膵の消化器だけでなく、甲状腺や副腎、末梢血管まで診ていました。しかし、2007年の夏頃に、坂井先生から“京都大学医学部附属病院の胃のグループに戻ってきてほしい”という一本の電話があり、2007年10月に京都大学医学部附属病院に戻りました。この電話をきっかけに、胃の腹腔鏡手術とロボット支援手術の技術習得を目指し、新たな道をスタートさせることとなりました。

坂井先生は、大腸がんの腹腔鏡手術を専門としている方で、「外科医は精緻(せいち)な手術を心がけねばならない」とよくおっしゃっていました。その言葉どおり、坂井先生の手術は、手術手技が正確、かつ丁寧で、私はその技術の高さを目の当たりにして「私の目指す手術もそこにある」と強い感銘を受けました。

そして、それからしばらく経った2010年7月、ロボット支援手術を学ぶために、私は韓国のヨンセイ大学へ渡ることとなりました。

日本に“ロボット支援手術”という新たな風を吹き込むために

私の外科医人生の中で大きなターニングポイントとなったのは、韓国のヨンセイ大学へロボット支援手術を学びにいったことです。知識の習得だけでなく、実際の手術にも数多く術者や助手として参加し、大変貴重な経験となりました。

しかし、海外で学ぶことは、たやすいことではありませんでした。私がヨンセイ大学に渡ったのは、39歳のとき。日本に家族を残したまま、単身で韓国に渡り、日本語はもちろん英語もなかなか通じないなかで、自分で身の周りの全てのことをやらなくてはならない状況でした。病院のドクターに対してはもちろん英語が通じましたが、一歩外に出るとほぼ韓国語しか通じない。正直、とても大変でした。散髪に行ったときに自分の希望の髪型が伝わらず、当時韓国で流行していたアシンメトリーな髪型になってしまったこともありました。

そのような状況のなかで、私の支えになっていたのは、アメリカ人と韓国人フェローの2人でした。その2人とは、仕事終わりの飲みの場でも胃がんの手術について熱く語り合ったのを覚えています。今思えば、そのような時間を通して、海外での外科医療の実際を学びあう貴重な時間になっていたのでしょう。

私は、日本に帰国後、同僚や先輩方と一緒に、ロボット支援手術を行う診療体制を立ち上げました。このように、これからの医療を担う若手の医師が、新しい考え方や知識、技術を、どんどん取り入れたり、生み出したりして、日本に新しい風を吹き込んでゆく。そうして消化器外科の世界が、これからも発展していってほしいと切に願っています。

“教育”ではなく、上級医と研修医が共に高め合える関係に

私がまだ若かった頃は、“先輩の手技を見て学ぶものだ”とか、“1回で覚えなさい”という教育スタイルが主流でした。しかし、今はそういう時代ではありません。私たちが若手の医師の皆さんを育てていくにあたり大切にしていることは、私たち京都大学外科の診断・治療に対する考え方を、日々の診療の中の対話を通して理解してもらうことです。1回の説明で分からなければ、何回でもきちんと説明します。

たとえば、当院では、夕方の回診の前に必ず上級医と研修医で患者さんの電子カルテを元にレビューを行い、患者さんの状態や検査の結果、その後の治療方針などについて共に考えディスカッションする時間を設けています。ほかにも、チームごとに週に1回集まって、その週に行われた手術のビデオを皆で見て、改善すべき点やよかった点などのディスカッションをしています。そのように、上級医が積極的に若手医師に接して多くの対話を行うことにより、私たち上級医の持っている知識やノウハウを、しっかり伝えようとしています。

また、最近の研修医の先生方は、さまざまな診療科をローテートするため、消化器外科以外の知識も豊富で、研修医の先生方から私たちが学ぶことも多くあると感じています。このように、私は、“教え諭す”という意識で若手医師と接するのではなく、上級医と若手医師が共に高め合える関係になることが大切だと思っています。

ベテランの医師たちが習得した“精緻な手術”を最短距離で身につけてほしい

若手の外科医の皆さんには、“精緻な手術”を提供できるエキスパートになって欲しい。そして、最短距離でエキスパートになれるような仕組みを作りたい。これが、今の私が力を注いで取り組んでいる“新しい内視鏡手術の教育システム”の開発です。

この新しい内視鏡手術の教育システムの内容は、ベテランの医師たちが時間をかけて習得した“精緻な手術”の言語化できない“コツ”を若手の医師の皆さんに効率的に伝え、そしてそれを現場で生かすことができるようにトレーニングを行う教育システムのことです。このシステムでは、上級医の手術映像を見ながら、自分も映像を追いかけるように手を動かして実際に練習を行います。これにより、言語化できないコツの伝達を行います。また、言語化できるコツについては、映像に合わせてコツやポイントを音声で流すこともできる仕様で、その音声がリアルタイムに映像に組み込まれています。

この教育システムは、まだ開発の段階にあります。しかし、近いうちに、若手の医師の皆さんがスピーディに成長できる環境を提供できるよう、開発に励んでいます。

どれだけつらい思いをしても、目の前の1回1回の治療に全力を尽くす

今までたくさんの患者さんを診てきました。もちろん、治療がうまくいった患者さんも印象に残っているのですが、やはり結果的に助けることができなかった患者さんのほうが強く印象に残っています。何日も、何年も時間が経っても、「こうしていればよかったかも」と後悔や反省をすることがあります。そして、その気持ちは、外科医としての原動力になっています。

私がこれまでにもっとも落ち込んだ出来事は、私が主治医であった医学部時代の友人を亡くしてしまったことです。症状を緩和する手術自体はうまくいったのですが、もともとの病状が深刻で刻一刻と進行していき、ついには帰らぬ人となってしまいました。大切な友人を失い、そのときはこれまでにないくらいに落ち込みました。今でも当時のことを思い出すと気持ちが揺さぶられます。

しかし、医師である以上は、ずっと落ち込み続けているわけにはいきません。彼が亡くなった次の日も、またその次の日も、ほかの患者さんの手術があります。手術を受ける患者さんにとっては、1回きりの大切な手術。私たち医師は、気持ちを奮い立たせて、常に全力を出し切るつもりで手術に臨みます。

おそらく、これからもつらい思いをすることがあるでしょう。それでも、これまでの悔しさや反省を糧にして、目の前の1回1回の治療に全力を尽くしていきたいと思います。

医師は、技術や知識の習得だけではなく、人間性を磨き続けることが重要

これまでに、外科医としてのテクニカルスキルやモチベーションの大切さについて述べてきましたが、それと同じくらい私が大切にしていることは、コミュニケーション能力・リーダーシップ・プロフェッショナリズムの3点です。

不安を抱えていらっしゃる患者さんに対して、限られた診療時間のなかで、患者さんの話をしっかり聴いて、それを正しく理解したうえで、患者さんが必要とする情報をどれだけ分かりやすく伝えられるかということは、医師にとって非常に重要な能力です。この患者さんとのコミュニケーション能力は、日々の診療のなかで、自分自身が意識して習得しなければならない能力です。

また、手術や日々の診療にあたっては、いつも自分がチームの一員であるという“当事者意識”を持ち、責任の一端を担っているという考えを持つことが重要です。これが外科医に必要なリーダーシップだと私は考えます。他人をぐいぐいと引っ張るだけのリーダーシップでは、チーム医療はうまくいきません。

そして、医師としてのあり方、医師の社会的役割をまっとうするために必要なプロフェッショナリズムを、若いときから意識して学ぶことが大切だと思います。

私はこれからも、技術的にも精神的にも自分を磨き続け、一人ひとりの患者さんに誠実に対応していける医師でありたいと思います。

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  • 京都大学 医学研究科外科学講座(消化管外科学) 教授

    早い時期からロボット支援胃がん手術を手掛け、ロボット手術に精通している。胃がんや食道胃接合部がんのロボット支援手術を専門としており、多忙な臨床・研究・教育の合間をぬ...

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