一歩一歩進むことで、見える世界が広がった

DOCTOR’S
STORIES

一歩一歩進むことで、見える世界が広がった

臨床・研究・患者さんの死。すべての経験が今に生きる南野徹先生のストーリー

順天堂大学 大学院医学研究科 循環器内科教授
南野 徹 先生

最初に抱いた夢は開業医

祖父や叔父の医師の姿に憧れて

私は石川県金沢市に生まれました。もともと祖父と叔父が開業医で、身近な親族が地域の方に頼られる姿をみて、いつも「医者ってかっこいいなぁ。」と思っていました。その原体験もあるのでしょう、私は幼い頃から漠然と医師を志すようになっており、祖父や叔父と同じ開業医になりたいというのが私の最初の夢でした。

医師人口の少ない千葉へ

地元・金沢市は地方には珍しく医学部が2つもあり、医師の数には事足りている数少ない地域でした。私は医師が十分足りている地域で働くよりは、医師の少ない地域に赴き、その地域の方々に貢献したいと思いました。

そんな中、千葉県は首都圏にありながら医学部を有する大学が県に1つしかなく、医師不足も深刻だと知りました。そこで、私は千葉大学医学部を受験し、無事、進学することになります。

循環器内科を志したのは、治療によって患者さんが目にみえて元気になるところに魅力を感じたからです。特にカテーテル治療は、救急で運び込まれた重症度の高い患者さんを低侵襲で治すことができ、当時感動を覚えたことを今でもよく覚えています。

「よし、循環器内科医としてバリバリと臨床をやっていろんな患者さんを助けるぞ!」

千葉大学医学部第三内科教室への入局を決意した私でしたが、思いがけず研究の道を歩み始めることになります。

予想もしなかった研究の世界へ

東京大学第三内科での研究

千葉大学医学部第三内科教室に入局し、千葉大学病院やその関連病院で診療を進めていくなかで、今の医療や医学では治療できない疾患や解明できない疑問がたくさんあることを知りました。

なかでも印象的だったのは、家族性拡張型心筋症の患者さんとの出会いでした。家族性拡張型心筋症では家族や兄弟が同じ機序で重症の心不全を引き起こすケースがあり、なぜ兄弟が同じ病気になってしまうのだろうと不思議に思うようになりました。

「遺伝について見識を深めたい!」

と、当時から遺伝子の研究が盛んであった東京大学医学部第三内科へ研究生として所属することにしました。

もともと開業医を目指していましたので、研究は全く新しい世界でした。東京大学医学部第三内科の研究風景は熱心そのもので、刺激的に映ったものです。臨床の現場で育った私からすると、循環器領域の研究を行っている医師がこんなにも存在すること自体にとても驚きました。

東京大学では「エンドセリンと動脈硬化」についての研究を行い、このテーマで学位も取得しました。東京大学第三内科での経験は非常に濃厚で、右も左もわからなかった私を「医師」から「医学者」へと成長させてくれた有意義な3年間でした。その時お世話になった方々やともに頑張った仲間とのつながりは今でも大切にしています。

生涯のテーマを求めてハーバード大学へ

研究の面白さに味をしめた私は次第に「自分が一生かけて取り組むテーマを研究したい!」と思い至るようになりました。そこでハーバード大学へ留学し、「低酸素と血管新生」「テロメア・テロメラーゼと血管老化」をテーマに「老化」についての研究を3年間行いました。

初めての留学であったこともあり、ハーバード大学での経験は生活面も含め毎日が刺激的でした。それも研究だけに専念できるありがたい環境だったので、朝から晩まで、さらには休日までも研究に没頭していました。

しかし、私の研究人生は順風満帆だったわけではありません。新しい切り口をテーマにしていたこともあり、医学界になかなか受け入れられず、残念ながら留学中には表立った成果を残すことはできませんでした。非常に苦い経験ではありましたが、幸い、留学先のボスが私の研究を買ってくださり、私が帰国したあとも粘り強く研究を続けてくださいました。私自身も日本から粘り強く論文を投稿し続け、最終的には正式に学術雑誌に受理されることになります。

東京大学とハーバード大学で行ってきた研究は、内容や成果という側面だけでなく、私の人生に大きな影響を及ぼしました。

当時研究していた「老化」の研究は現在、文字通り私にとって、生涯をかけた研究となっています。

生死に向き合う循環器内科医の仕事

循環器内科医は取り扱う臓器が心臓ということもあり、患者さんの命が尽きる過程やその瞬間を目の当たりにすることが多々あります。患者さんの死は何度経験しても決して慣れることはなく、その都度さまざまなことを考えさせられます。

循環器内科医は患者さんご本人やご家族の意見を汲みつつも、最終的には自分の裁量で、そう遠くない未来に死が迫っている患者さんをどう治療していくか決めていかなければなりません。医師とはいえども死を経験したことのない生身の人間が、一人の人間の終末に介入していくこと自体、とても難しいことだと感じます。

そこで、私は患者さんの終末期を考えるとき、主に2つの視点から治療を考えるようにしています。

1つめは、「自分に死が近づいてきたとき、どう感じるか」です。私自身、かつて命に関わる疾患の疑いがあり、検査の結果が出るまでの間、何事にも変えたがい不安を抱えた経験があります。

人は誰も経験したことのない「死」を迎えるにあたって恐怖や不安を抱えているはず。患者さんの気持ちを100%理解できるとは思いませんが、自分自身を重ね合わせることで患者さんにとってベストな方法を模索する努力を欠かしません。

2つめは「患者さんが自分の両親なら、自分の奥さんならどうしたいか」と考えることです。循環器疾患の患者さんの中にはすでにご本人の意識がなく、今後の治療方針にご家族のお考えを尊重することが多々あります。この場合もご家族の気持ちに100%応えられるとは思いませんが、ご家族と同じ立場になって一緒に考える姿勢が必要だと考えています。

死生観は患者さんから学ぶ

今まで数多くの患者さんの最期を見送ってきました。私が今持っている死生観は患者さんを見送るなかで学んできたように思います。

循環器疾患はご高齢の患者さんが多いこともあり、死や人生について達観している患者さんに数多く出会います。そして、その都度考えさせられます。ご高齢の患者さんに病状や予後の説明をすると、ご家族以上に患者さんご自身が比較的すんなりと自分の置かれている状況を受け入れられることに、本当に驚きます。

自分の人生を俯瞰し、死をもポジティブに受け入れる患者さんの姿勢をみていると、「人生の先輩はきっとみえている世界が違うのだろう」とも感じるのです。その一方で、重症心不全などの若い患者さんが人生を振り返る力も時間も与えられず突然亡くなってしまう瞬間に立ち会うと、その無念さを考えさせられます。

人は変化とともに見える世界が変わってくるもの

すべての経験が無駄ではなかった

人生は、自分の年齢や立場が変わればみえる世界も変わっていきます。今の視点で自分の人生を顧みると、最初に見えていた風景と大きく様変わりしていることに驚きます。

駆け出しの助手だった私と、教授になった今の私。自分に子どもが生まれ、親になってみてはじめて感じることがあるように、教授になったからこそ感じられること、みえるようになったものがあります。これはいくら言葉で説明しても実際に経験しなければ会得することができないでしょう。また、研究をしたからみえるようになったもの、留学をしたからみえるようになったものもたくさんあります。

「すべての経験が無駄ではなかった」

今、胸を張ってそう言い切ることができます。

これから先の私のミッションは私が教鞭をとる新潟大学循環器内科教室から、如何に多くの優れた医学者を輩出するかです。医局員となる後進の医師にも、ぜひさまざまな経験をして、みえる世界を広げていってほしいと思います。

新潟大学循環器内科で学び育った優秀な医師が全国に羽ばたき、医療の世界に足跡を残していけるよう私も全力を上げて勤めあげる所存です。当教室でのすべてのミッションを果たした暁には、いよいよ開業医としての人生が待っているのかもしれません。

 

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  • 順天堂大学 大学院医学研究科 循環器内科教授

    1989年 千葉大学医学部卒業。1994年より東京大学医学部第三内科にて「エンドセリンと動脈硬化」についての研究で学位取得。1997年にハーバード大学へ留学。留学中...

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