埼玉県富士見市にあるさくら記念病院は、腎臓病分野に強みを持つ病院です。日本腎臓学会認定の腎臓専門医が多く在籍し、透析をはじめ網羅的な治療を提供していると同時に、病気の予防の重要性を伝える取り組みにも注力しています。
そんな同院の地域での役割や今後について、院長である黒澤 明先生に伺いました。
当院は1992年に開設した、この周辺ではめずらしい腎臓病を専門とする病院です。内科全般を診る総合診療科、外科、泌尿器科、整形外科など全10科を有し、さらに腎臓病センター、透析シャントセンターなど専門的な医療を提供するセンター機能を備えています。2020年には新病棟を開設し、現在は全136床の病院となりました。
特に注力しているのは、腎臓病の治療です。1999年に透析センターを開設し、透析設備を備えました。腎臓専門医による外来は毎日行っており、栄養指導から透析、手術、腎生検など幅広い診療を提供しています。2006年から2015年にかけては、アクセスのよい場所に透析治療が可能なサテライトクリニックを3件開設し、患者さんがより治療を受けやすい環境づくりを行ってきました。
現在、成人の多くが罹患するといわれる腎臓病ですが、痛みなどの自覚症状を伴わないため、治療の必要性の認知や意識がまだまだ浸透していないのではないかと感じています。腎臓病は予防と早期発見が非常に重要です。当院では、疾患に対する患者さん自身のリテラシーを高め、病気の予防につなげていただくよう、治療だけではなく情報提供にも積極的に取り組んでいます。
腎臓の働きが低下する慢性腎臓病を患っている人は、現在国内に約1,300万人以上いるといわれており、成人の8人に1人が罹患している計算です。さらに、70代では3人に1人、80代では2人に1人にまで上昇します。
当院の腎臓病センターでは、腎臓移植手術以外の全ての腎臓病の診療に対応しており、早期発見・治療を目指し腎臓専門医の外来を毎日行っています。また、医師や看護師をはじめ薬剤師、管理栄養士、臨床工学技士、医療相談員がチームとなり、腎臓病専門チーム(CKDチーム)として患者さんをサポートしています。
透析治療を行う設備も充実しており、血液透析や腹膜透析だけでなく、長時間透析や在宅透析なども実施しています。また、透析シャントセンターでは内シャント造設術、人工血管移植術をはじめ、動脈表在化法、長期留置カテーテル挿入術、経皮的血管拡張術(PTA)など幅広い治療に対応し、透析シャント治療を数多く手がける病院として専門性の高い治療を提供しています。
血液透析が必要になる場合は通常週3日、1回あたり4時間程度を確保しなければいけません。仕事をしている人はもちろん、家事や育児などで忙しい方にとってこの時間を毎週割くことが困難であることは想像に難くありません。
そのため、当院では2017年から夜間透析を開始し、24時間対応を実施しています。透析のベッドは90床あり、その多くが個室で64床あります。夜間や深夜の時間を活用し、寝ている間に透析を受けることができることが最大のメリットで、現在、近隣だけではなく群馬県や茨城県からくる方も含め、多くの患者さんが利用しています。仕事をしながらでも治療を受けていただきやすい点で評価いただいており、現在はキャンセル待ちとなっています(2024年12月時点)。
透析治療に関わる医師や看護師、技師など全スタッフを対象に、知識の底上げを図る目的で毎週勉強会を開催しています。透析治療には腎臓専門医のほか、看護師、看護助手、臨床工学技士、メディカルアシスタントなど多くのスタッフが関わっています。それぞれがどの病棟、どの患者さんを担当することになっても、均一に質の高い医療を提供できるよう、情報や知識の共有に努めています。
当院では、腎臓病についての正しい知識を地域の皆さんに広めるため、定期的に勉強会を開催しています。腎臓病は、初期段階では自覚症状が少なく進行に気づきにくいため、予防と早期診断が非常に重要です。
特に、この富士見市では高齢化が進んでおり、慢性腎臓病(CKD)の患者さんも増加することが予想されますが、CKDへの理解は不足している現状があります。当院ではこうした地域課題に対応し、早期発見・治療へつなげるため数か月に1回のペースで市民向けの勉強会を開催しています。
腎臓病予防の大切さを広める活動はこれからも続けてまいりますので、勉強会にもぜひご参加ください。
人工透析には病院で行う血液透析と、在宅で行うことができる腹膜透析の2種類があります。スタッフに任せることができる血液透析と異なり、自分自身で透析液の交換などを行わなければいけない腹膜透析を選択する人の割合はまだまだ少ない状況です。
しかし、近年では特に高齢者の方の間で腹膜透析のニーズが高まっています。患者さんがご自身のペースで治療に取り組める点をメリットと感じられるようで、在宅で過ごしたいというご希望をお持ちの方が腹膜透析を選択する傾向にあります。
対応可能な医療機関や医師はまだまだ限られているものの、腹膜透析を希望する患者さんのニーズに応えるため、当院では24時間体制で患者さんのサポートを行っています。現在、当院では40名近い腹膜透析患者さんに対応しており、経験を重ねたスタッフが個々の状況に応じたケアを提供しています。
地域の透析医療の中心を担う存在として、高齢化社会に対応した柔軟で質の高い医療体制を構築し、患者さんのQOL(生活の質)向上に貢献してまいります。
腎臓病は痛みなどの自覚症状を伴わないため、健康診断で異常値が出ても残念ながら放置してしまう方が多いのが現状です。しかし、腎臓病は進行してからでは治療が難しく、予後が悪い場合もあります。
腎臓専門医の数は全国的に少なく、埼玉県でも300人程度なのですが、尿検査で異常を指摘された際には必ず、専門医の診断を受けてほしいと思います。当院では腎生検を含む専門的な検査が可能です。診断名を明確にし、適切な治療につなげることが腎臓病治療の第一歩です。早期の対応で、自身の未来を守りましょう。
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*写真提供……さくら記念病院
*腎臓専門医とは、日本腎臓学会認定の専門医を指す。
*医師や提供している医療の内容、および記事内の数字は全て2024年12月時点のものです。
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