院長インタビュー

「地域のみなさまと共に歩む病院でありたい」香川県済生会病院の概要と取り組み

「地域のみなさまと共に歩む病院でありたい」香川県済生会病院の概要と取り組み
若林 久男 先生

香川県済生会病院 院長

若林 久男 先生

この記事の最終更新は2018年05月25日です。

香川県高松市の中部に位置する香川県済生会病院は、明治天皇が1911年に発令した済生勅語を基に誕生した済生会病院のひとつです。 同年にはすでに医療機関として香川県内で活動し、長期にわたって地域のみなさまの健康に寄り添ってきました。伝統と歴史ある同院について、院長の若林 久男先生にお話を伺いました。

当院は、社会福祉法人恩賜財団 済生会を母体とする医療機関です。済生会は1911年に明治天皇の済生勅語を基に誕生しました。開設以来、「恵まれない人たちに施薬救済の済生の道を広める」ことをモットーとして医療提供を行なっています。

2004年に高松市多上町へ移転し、2018年現在では19の診療科と198の病床数(一般病棟148床・療養病棟50床)を持つ医療機関となりました。

病院外観(画像提供:香川県済生会病院)
総合受付(画像提供:香川県済生会病院)

整形外科は当院の看板診療科です。整形外科とは骨・関節・筋・神経などの運動器の障害や外傷に対して診断と治療を行う分野です。また、治療する場所によって専門の医師が異なるのも特徴です。当院の整形外科は手の外科・肩関節外科およびスポーツ障害に精通した専門医が診療を行い、上肢に対する手術が80%を占めています。

整形外科オペ風景(画像提供:香川済生会病院)

手術件数は2015年が982件、2014年は1,002件でした。なかでも野球肘に対する手術治療や肩関節に対する関節鏡手術が多く行われ、患者さんは県外、遠くは九州からも来院いただいています。これからも一人でも多くの患者さんを助けるべく、当科は成長を続けていきます。

整形外科医集合(写真提供:香川済生会病院)

地元の皆さまとの交流を図り、病院をさらに身近に感じてもらうため、2017年9月に「済生会フェア」を開催しました。当日は日頃の健康チェックを行う無料健康診断や、子どもたちを対象にしたお仕事体験など、大人から子どもまで参加できるラインナップを取りそろえました。

活気づく済生会フェアのようす(写真提供:香川県済生会病院)

特別講演には済生会本部理事長や、教育評論家の尾木 直樹氏(尾木ママ)が登壇し、済生会のこれからや尾木ママ流の生き方論について熱く語っていただきました。

お子さんを対象にしたお仕事体験では、実際の手術室を使用して、腹腔鏡手術体験や救急隊の心肺蘇生訓練をご提供いたしました。本格的な医療体験をできるのも病院ならではです。当日は2,000名ほどの地域のみなさまがご来場され、「来年も開催してほしい」など嬉しいお言葉を頂き、大盛況のもと終了しました。

救急隊との肺蘇生訓練(画像提供:香川済生会病院)
子どもたちのお仕事体験(画像提供:香川済生会病院)

済生会組織のなかでは規模が小さい当院ですが、「小さな病院で高い医療を提供する」ことを目標としています。中でも優秀な人材を育成することには特に力を入れ、職員のみなさまには当院の魅力を伝えるように努力してきました。自分の働く病院に魅力を感じ自負を持つことが、日々働くモチベーションや自信につながると考えたからです。

若林院長と外科医のみなさま(画像提供:香川済生会病院)

今回の取材を受けるにあたり、職員数名に「当院の強みや特徴は何だと思いますか」と質問をしてみました。即座に「地域で急速に存在感を増している小規模病院」「小さいがゆえに、職員同士の関係が良くアットホームな病院」などの意見があがり、驚きと喜びを覚えました。当院が目指していたものが少しずつ実り、働くみなさんが誇れる病院に変化を遂げてきているのかもしれません。

病棟看護師のお二人(画像提供:香川済生会病院)

当院は無料低額診を行う病院です。無料低額診療とは、生活保護を受けている方や生計困難者など、医療費の自己負担が難しい方を対象とした診療制度であり、無料あるいは低額料金で診療を受けることができる社会福祉事業のひとつです。

無料低額診療の対象となるものは当院における医療費と食事代です。詳しくは一階の総合受付でご相談ください。専門の医療ソーシャルワーカーがお話を伺い、患者さんの所得から減免額を一緒に考えていきます。また、医療ソーシャルワーカーは医療費以外にも患者さんの悩みをサポートしています。以下のような相談事がありましたら、お気軽にいらしてください。

  • 医療費、生活費など経済的な悩みを聞いてほしい
  • 介護保険、年金制度など社会福祉制度について質問したい
  • 退院後の生活に不安がある
  • 入院や転院について相談したい

みなさまは海をわたる病院「済生丸」をご存知でしょうか。済生丸とは、瀬戸内海を巡回する国内で唯一の診療船です。高松港を母港とした済生丸は、乗船した医療スタッフと共に海をわたり、瀬戸内の島々へ医療提供を行っています。

島々を駆け巡る済生丸(画像提供:香川済生会病院)

そんな済生丸の歴史は古く、事業の始まりは1961年まで遡ります。

当時、創立50周年を迎えた済生会は、支部である岡山市済生会総合病院の大和院長が考案した「診療船」事業に乗り出しました。ちょうど政府がへき地への保険医療対策に注力していたこともあって、時代のニーズに即した取り組みとなったのです。

事業考案から翌年の1962年には運航を開始し、以来、瀬戸内の高齢化・過疎化した島々をわたり歩く病院として広く活躍しています。

瀬戸内海の島々

瀬戸内海には700あまりの島が存在していますが、そのうち有人島は84島で、医療機関のある島はわずか39島しかありません。済生丸の活動は、関係市町や島民の要望を盛り込んだ年間計画と共に始まります。岡山・広島・香川・愛媛の4県にある済生会病院のスタッフが乗り込み、10日間のサイクルで各県の島々を回航していきます。乗船するスタッフは4〜12名程度で、医師・薬剤師・保健師・看護師・放射線技師・臨床検査技師・理学療法士・管理栄養士・MSW・事務職員とさまざまです。

船内には多くの医療設備が備わっており、レントゲン撮影・マンモグラフィ検査・心電図検査・腹部超音波検査などが可能です。乗船するスタッフが年間で診察・診療をする患者さんは約9,000名にのぼります。

済生丸スタッフ集合写真(画像提供:香川済生会病院)

災害援助診療船として

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の際、済生丸はいち早く被災地に駆けつけ、災害援助船としての役割を努めました。余震の不安が続く中、済生丸の医療スタッフは41日間にわたって支援活動を続け、復興へのサポートに貢献しています。

同年の1月18日には岡山県の保健福祉部を通じて兵庫県から要請があり、神戸に救援の医療班を派遣しました。震災によって寸断された陸路を使用せず、海路を使って支援物資を届け、医療スタッフは船と現地の仮設診療所を行き来しながら対応し続けました。こういった震災を受けて、2013年に就航を開始した新型船の「済生丸100」では海水から1日3トンの清水を造れる造水装置を設置しています。今後予想される震災への対策と支援活動を視野にいれ、万が一の場合に備えています。

地域医療研修の場として

済生丸は島々をわたり、患者さんの診療をするだけでなく、医療関係者の学びの場としての役割も担っています。研修医や看護学生を積極的に受け入れ、済生丸の見学会や看護実習も行っています。こうした研修の場が地域医療を考える機会となり、次世代の人材を育成する場になると考えているからです。

研修医診察風景(画像提供:香川県済生会病院)

新専門医制度が2018年に全面的にスタートします。医師の人数が都市部に集中するという課題もありますが、医療現場に大きな変化がもたらされようとしていることは確実です。大学病院や中核病院と異なり、地域に密着した当院のような市中病院では、あらゆる症状の患者さんが来院されます。そのため、「専門性」を磨くことはもちろん大切ですが「汎用性」を身につけることが何よりも重要となります。若手医師のみなさんには、これからも色んな経験を通して、幅広い医療知識を身につけてほしいです。

昨今のスマートフォンの普及に伴い、近年当院にはWi-fiをご所望されるお問い合わせが増加していました。そのお声は若い方だけに留まらず、ご高齢の方からも上がっていたため、現在は当院でもWi-fiを導入しています。こうした時代の変化やニーズに合わせるように、これからの医療も変化を遂げていくでしょう。たとえば、今の若い人たちが年齢を重ね、高齢者と呼ばれるようになったとき、彼らのITリテラシーは今の高齢者よりも高いはずです。インターネットで情報収集をすることが当たり前の世代に対して、病院はどのようなサービスを提供していくべきか。私は、今よりさらに快適で質の高いサービスや医療レベルの提供が必要となるのではと考えています。それこそ、病院で出される食事の美味しさや病室の快適さなど、細かな配慮が求められていくでしょう。

そういった時代の流れやニーズを汲み取り、「香川県済生会病院でよかった」といわれるような満足度の高い病院づくりが今後の目標です。また、医療の提供だけではなく、街づくり・人づくりに協力できるような場を提供していくことも当院が目指す先のひとつです。

今後も地域のみなさまと共に歩む病院として、満足のいく医療の提供と、地域の拠り所になるような環境づくりに、最大限の努力をしてまいります。

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