院長インタビュー

地域の「マザー・ホスピタル」となる病院を目指して――岡山赤十字病院の取り組み

地域の「マザー・ホスピタル」となる病院を目指して――岡山赤十字病院の取り組み
辻 尚志 先生

岡山赤十字病院 院長

辻 尚志 先生

日本赤十字社 岡山赤十字病院は、1927年に「日本赤十字社 岡山支部療院」として岡山市に開設されました。赤十字病院の使命である災害医療をはじめとした、救急医療やがん診療など、質の高い医療を幅広く提供しています。

岡山市など、7つの自治体からなる県南東部医療圏の中核を担う病院として、同院がどのような取り組みを行っているのか、院長である辻 尚志(つじ ひさし)先生にお話を伺いました。

当院は、全国に91か所ある日本赤十字社グループ病院のうちの1つです(2022年9月現在)。

当院の位置する岡山市は、全国各地と同様に高齢化が進んでおり、合併症などの対応が難しい症例も増えています。

患者さんのニーズに合わせて、さまざまな病気・症状に対応できるよう、36の診療科を構えて病院機能の充実を図っています。

当院は地域がん診療連携拠点病院に指定されており、がん診療においても質の高い医療の提供に努めています。そして当院の外科では体への負担が少ない鏡視下手術を積極的に行っています。鏡視下手術では、体への創が小さいため術後の体動時の痛みも少なく、術後早期から歩くことが期待できます。したがってご高齢の方でも適応がある場合には手術を受けることが可能です。

さらに、来年度(2023年)からはダヴィンチ手術も導入します。

2015年新築の「南館」では、薬剤師や管理栄養士なども交えた多職種で連携している「外来化学療法センター」や、強度変調放射線治療、体幹部定位放射線治療などの高精度の治療も可能となった「放射線治療室」、さらに母体搬送・産科救急にも24時間対応し、ハイリスク妊産婦の管理・分娩を行っている「地域周産期母子医療センター」などがコロナ禍の中でもしっかりと機能を発揮しています。

また、2014年に設立した「独立型緩和ケア病棟」は、緩和ケア専任の医師を中心に、看護師や薬剤師、管理栄養士やソーシャルワーカーなど、多職種で患者さんのサポートを行っています。がんの進行によって生じる体のつらさ、気持ちのつらさを和らげ、生きることを考える治療とケアを提供しています。また、地域の開業医との連携を大事に考え、病院と家の行き来ができる関係を作っており、体調がつらい時には入院し、症状が落ち着いたら家に帰り、その時々の体調に適した生活の場を一緒に考えていきます。暮らしやすい場所でその人らしく生きることを大事にして、地域住民の皆さんのよりよい生活を支えていくことを使命と考えています。

さらにコロナ禍で面会禁止の状況の中でも、窓越し面会ができるよう創意工夫して、患者さんの療養環境が少しでもよくなるように頑張っています。

そのほかにも、患者さんやご家族が利用できる「がん相談支援センター」、「がん専用図書室」を設置するなど、がん診療だけでなく、がん患者さんの生活も支援できる体制を整えています。

がん患者さんにとって必要なことは、まずは正しい情報を得ることです。

次に大事なのは、信頼のおける主治医を見つけることであり、分からないことや、不安なことがあったら相談できる、かかりつけ医の先生を見つけておくことが大切になります。

また、「仲間」を持つことも重要です。患者会など、がん患者さんやそのご家族のための集まりに参加して、同じ境遇の仲間を持つと、さまざま情報の共有ができるようになります。

そして最後に、地域の医療資源について知っておいてほしいと思います。医療資源とは、医師や看護師などの人材や医療設備、医療機器や医薬品、または医療施設などを指します。

お近くの病院の「がん相談支援センター」などで、お住いの地域ではどんな医療資源が利用できるのか、ぜひ聞いてみてください。

当院の強みの1つは、36診療科の総合力です(2022年9月現在)。それぞれの診療科が力を発揮し、患者さん一人ひとりに合った医療の提供に努めています。

そして、診療科間では密に連携を図っているため、さまざまな病気を持たれている患者さんの手術や、手術後の合併症への対応も可能です。

つまり、ご高齢の患者さんでも、手術ができるようになる方がいらっしゃるということです。特にがんの場合には、このような手術で対応できる初期に病変を見つけることができれば、より早く日常生活に戻れます。ぜひ、積極的に検診を受けていただきたいと思います。

また、ある程度進行した段階で病気が見つかったとしても、手術を含めた緩和医療が可能な場合もあります。

当院は、岡山県の基幹災害拠点病院に指定されています。常備救護班9チーム、DMAT(災害派遣医療チーム)3チームを編成しており、地震や大雨などの災害時に迅速にチームを派遣できるよう態勢を整えています(2022年9月現在)。

基幹災害拠点病院は、災害時に救命活動を行うことだけが任務ではありません。県内のほかの災害拠点病院の教育や調整なども、その役割の1つです。

2015年からは、「おかやまDMAT隊員養成研修」を行い、医療救護活動にあたるチームを養成する活動も実施しています。

また、2015年に完成した当院の南館は免震構造となっており、災害時にも医療機能を維持することが可能です。

当院は1983年から救命救急センターを開設しており、24時間体制で入院や手術の必要がない一次救急から、重篤疾患や多発外傷を伴う三次救急までを受け入れています。

2021年度(2021年4月〜2022年3月)は、救急車の受け入れ台数は年間4,466台を超え、自ら受診される患者さんは17,088名、ドクターヘリによる受入れは15名となっています。

救急搬送を受け入れるうえでは、病院に搬送されるまでのあいだに救急救命士が行う医療行為について、搬送先の医師が指示を行い、その質を保証するメディカルコントロール(MC)が重要です。

当院は県南東部MC協議会の中心的役割を担い、専用ホットラインを設けて救命処置への指示を行うほか、救命隊員の勉強会の開催や研修の受け入れなども行っています。

今後の課題は、入退院支援を強化していくことです。現在の医療制度は、地域で医療が完結することを目指しています。患者さんのためにも、退院後までを考えた治療を行わなければなりません。

そのためには、地域の医療機関との連携が重要だと考えています。当院は、連携強化のための研修会や市民公開講座を開き、開業医の先生方と顔を合わせる場を設けています。患者さんを紹介できるだけでなく、教育・知識・技術なども含めた連携が必要でしょう。

また、入院前から入院中、退院してからの経過など、患者さん一人ひとりの背景を把握できるシステムをつくる必要があり、その役割を「入退院支援センター」が担い、力を発揮しています。

当院が目指しているのは、地域の「マザー・ホスピタル」となる病院です。

マザー・ホスピタルとは前院長の造語で、文字どおり「母なる病院」という意味です。やさしく、信頼できる病院であるということだけではなく、医療従事者を育てるということも必要だと考えています。そういう意味で地域のマザー・ホスピタルになるのが、当院の目指す姿です。

そういった病院の責務を果たし、地域のマザー・ホスピタルを目指すためには、地域で必要とされる医療をしっかり理解していかなくてはなりません。

地域の医療機関とも、技術や知識、教育なども共有できる関係を目指していきたいと思います。

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