院長インタビュー

障害をかかえる方々の社会復帰を手助けする吉備高原医療リハビリテーションセンター

障害をかかえる方々の社会復帰を手助けする吉備高原医療リハビリテーションセンター
德弘 昭博 先生

独立行政法人労働者健康安全機構 吉備高原医療リハビリテーションセンター 院長

德弘 昭博 先生

この記事の最終更新は2017年12月24日です。

岡山県加賀郡吉備中央町にある、独立行政法人 労働者健康安全機構 吉備高原医療リハビリテーションセンターは、県内外から障害をかかえる方々の受け入れを行ってきたリハビリテーション専門の医療機関です。特に脊髄損傷のリハビリテーションに関しては全国トップクラスの症例数と成績を誇ります。社会復帰のためのサポートにも力を入れ、質の高いリハビリテーションを提供しています。中四国エリアだけでなく全国レベルのリーディングリハビリテーションホスピタルをめざす同センターの取り組みについて、院長の德弘昭博先生、副院長の古澤一成先生にお話を伺いました。

当センターは、リハビリテーション科を中心に8診療科と150病床を有し、外傷や疾病によって発症した肢体の障害をかかえる方々を県内外から受け入れてきました。基本的な機能回復の支援に加え、就労支援や障害者スポーツの推進などを通して患者さんの社会復帰を積極的にサポートすることで高い実績をあげています。

当センターが設立されたのは1987年(昭和62年)のことです。設立以降、一貫して患者さんの社会復帰を第一とする質の高いリハビリテーションを提供してきました。「すべての患者さんのよりよい生活の実現」を理念に、リハビリテーションの分野において中国・四国エリアのリーディングホスピタルとなることをめざしています。

障害をかかえている方々が、それぞれに自立した日常生活を送っていけるよう手助けするのが当センターの役目です。また当センターでは、より多くの患者さんが就労し、社会的な自立を果たしてもらうためのサポートも積極的に行っています。

当センターでは、自立した日常生活を送るための訓練から、職業やスポーツなどを楽しめるようになるための訓練まで、患者さんの状態に合わせた幅広いリハビリテーションを提供していました。日常生活の基本的な活動が行えるようになった患者さんで、適応のある方には職業訓練など次のステップへスムーズに移行していただいています。

社会復帰するためには、理学療法や作業療法で、日常生活を送るための基本的な動作の訓練を行い、さらに実際の生活に則した応用的な動作の訓練を行う必要があります。

障害の度合いは患者さんによって様々ですが、当センターでは可能な限りすべての患者さんに社会参加していただくことをめざしています。患者さんに質の高いリハビリテーションを提供し、よりよい社会生活を送っていただくことが当センターの使命であると考えているのです。患者さんにとって最善の生き方を当センターが全力でサポートしてまいります。

脊髄の障害をもつ患者さんに医療としてできることは、急性期の外科的な処置によって損傷箇所を保護し、脊椎の安定性を確保した後はリハビリによって筋力強化と機能回復を図ることです。機能の回復や改善に対するリハビリ訓練は、一般的に行われているリハビリ医療においても提供されていますが、実際に、患者さんの社会復帰までお手伝いをしている医療機関はそれほど多くありません。

障害をかかえる方の社会復帰のサポートを、どこで行うのかということは今後、社会全体で考えていかなければならない課題です。当センターでは、障害の度合いに応じた生活環境の提案や職業・学校などのコーディネーション、ご家族や介護者へのサポート、スポーツや余暇活動への道付といったサポートを医療の一環として提供することで、そのような課題に取り組んできました。

障害の程度に応じて最適な機能を発揮することは患者さんの幸福につながります。さらなる機能回復が期待できるにもかかわらず、リハビリが不十分であるために最大限の機能回復に至らないということは大変、残念なことです。生き甲斐を見つけられない患者さんのなかには、せっかく回復した機能を維持できなくなり、再入院される方もいらっしゃいます。

そのような患者さんを生みださないために、当センターでは障害の程度からどれ程の回復が可能であるかを見極め、最善のリハビリテーションが提供できるよう努めています。ですから、患者さんやそのご家族は当センターを信頼していただき、分からないことや不安なことがあればなんでもご相談ください。リハビリテーションスタッフはもちろんのこと、患者さんやご家族も一丸となって最良の回復をめざすことが、患者さんのよりよい生活につながります。

全国的にみると、日常生活動作などの改善が期待できるのに、十分なリハビリ治療が提供されずにそこに至らない脊髄損傷の患者さんもおられ、非常に残念なことです。

患者さんの障害の程度に応じたリハビリ治療を提供し、持っている機能を最大限に発揮できるように努めることが患者さんの幸福につながります。当センターでは、患者さんの障害からどの程度の改善が可能であるかを見極め、ゴールを設定し、最適なリハビリ治療を提供できるように努めています。常に、患者さんやご家族にとっての最良な社会生活をイメージして取り組んでおりますので、是非、当センターを信頼していただき、分からないことや不安なことがあればなんでもご相談ください。

当センターでは、患者さんのリハビリに対する意欲の向上と退院後の生活の質の向上を目的に障害者スポーツの推進を行ってきました。障害者スポーツは、障害をかかえる方の健康を維持すると共に退院後の生活に喜びを与えてくれます。

統計的に、障害をかかえる方は健常者の方よりも生活習慣病のリスクが高まる傾向にあります。障害をかかえる方が、血液中の余分な脂質が増加する脂質異常を起こす確率は健常者のおよそ10倍とする報告もあり、心筋梗塞糖尿病高血圧などのリスクもそれぞれ増加します。残念ながら生活習慣病発症のリスクを現在の医学で完全に取り除くことはできません。生活習慣病のリスクを下げるためには、日々の食生活や生活習慣を改善し、運動習慣を身につけることがもっとも効果的です。医学では補えない部分を障害者スポーツが補ってくれるのです。

自身の生活に不安を抱く患者さんのなかには、せっかく回復した機能が維持できなくなり再入院される方もいらっしゃいます。そうならないためにも、当センターでは生活に喜びや活力をもたらす障害者スポーツへの取り組みを多くの患者さんに推奨してきました。

毎週木曜日には、併設する体育館でスポーツの時間を設けています。健康づくりの習慣を身につけると同時に、スポーツを通して社会復帰の意欲向上につなげたいと考えています。

また、第四木曜日には、車椅子ツインバスケットボールのチームにも参加してもらい、患者さんが選手たちと交流する機会を設けています。大小ふたつのゴールで行うツインバスケットボールは、重度の障害を負った頸髄損傷者を対象とした日本発祥の障害者スポーツです。同じ障害をかかえる方が選手としてスポーツに取り組んでいる姿は、患者さんのよい刺激になっています。

さらに、当センターは車椅子で参加できるロードレースの大会を年に一回開催してきました。「岡山吉備高原車いすふれあいロードレース」と名付けたこの大会では障害をかかえる方と健常者の方が一緒に走ります。普段なかなか交流することのない、障害をもつ車椅子ランナーと一般のマラソンランナーがふれあう貴重な機会として、今後もこの大会を継続していくつもりです。

当センターの患者さんだけでなく全国の障害をかかえる方に障害者スポーツの素晴らしさを知ってもらい、気軽に楽しんでもらいたいと考えています。今後もセミナーや講演会を通して障害者スポーツの情報提供を行っていきます。

当センターは、より多くの患者さんに就労意欲や生活の喜びをもって社会に復帰していただけるよう努めてまいりました。しかし、現実には退院するすべての患者さんが社会的に自立した生活を送っていける訳ではありません。

患者さんの障害に応じた適切なゴールを設定することからリハビリは始まります。就労が可能な段階まで回復が見込める患者さんには社会的自立をゴールとして設定していただき、そこまでの回復は見込めないまでもご家庭のなかであれば日常生活が送れるだろうという方には家庭内自立を、ご家庭のなかでご家族の介助が必要になるだろうという方には家庭内介助をそれぞれゴールとしていただきます。また、自宅のつくりに問題があったり、介助をうけられるご家族がいらっしゃらなかったりする方は施設内自立や施設内介助をめざしていただいています。

もちろんこれらのゴールは、当センターが一方的に定めるものではなく、きちんとした説明のうえで患者さんの同意をいただいています。当然、当センターは全力でサポートしますが、共にゴールをめざすという意識がなければ、質の高いリハビリの提供が大変難しくなってしまうのです。

患者さんの同意をいただければ、職業・学校のコーディネイトやそれを実現するためのさまざまなプログラムの実施に加え、家のつくりや家庭内介助へのアドバイスなどを通して、あらゆる面から患者さんをバックアップいたします。スタッフ・患者さん・ご家族が力をあわせてゴールをめざしていくことが当センターの理想とするリハビリです。

当センターには、県外からも多くの患者さんがいらっしゃいます。その割合は全体の40%以上です。他府県からいらっしゃる患者さんのほとんどは脊髄を損傷されている方です。全体でみても当センターにいらっしゃる患者さんの脊髄損傷が占める割合は高く、外傷性・非外傷性をあわせるとおよそ70%の方は脊髄の損傷による障害をかかえています。

重度の障害が残りやすい脊髄損傷者を多く受け入れながら、当センターを退院された80%以上の方が職業復帰や家庭復帰などを果たしています。もちろん患者さん本人の努力や協力が不可欠ですが、我々はそれも含めてリハビリ治療の成果として誇りに思っています。

現在、日本の医療制度では疾患別にリハビリテーション料の標準的算定日数が決められており、脊髄損傷の場合は基本的には受傷後180日までそれを算定できるように定められています。しかし、現実にはこの期間を過ぎてもまだリハビリ医療の途中であったり、社会復帰の準備ができていなかったりする方が多くいらっしゃいます。

当センターにいらっしゃる脊髄損傷の患者さんの20%程度は、ほかの医療機関で180日を経過されてから紹介された方です。当然そのような方であっても当センターは全力で回復のお手伝いをいたします。しかし、結果だけをみれば、損傷後早い時期に当センターへいらした方と比べてどうしても回復の度合いに差が生じてしまいます。

過去5年間の外傷性脊髄損傷の方のデータをみてみると、特に下半身にのみまひがある方が早期に当センターでリハビリを開始された場合の職業・家庭復帰率は約93%ですが、180日を経過してからいらっしゃった方の復帰率は60%程度です。そのため、できるだけ多くの方に当センターの存在を知り、当センターを頼っていただきたいと考えています。早い時期から当センターのリハビリを開始すれば、必ずよい結果をもたらすことができると自負しています。

当センターには、医師や看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャル・ワーカーのほかに4名のリハビリテーションエンジニアが在籍しています。リハビリテーションエンジニアは、工学的な知識をいかした合併症の予防や住環境の整備、就労支援など通して患者さんのサポートを行う専門のスタッフです。

リハビリテーションエンジニアは合併症の予防として、患者さんが座ったり寝たりした際に、体にかかる圧力の測定を行っています。その結果をもとに最適なクッションなどを選定することで床ずれをはじめとした合併症予防につなげているのです。また、コンピューターグラフィックスを利用して社会復帰後の住環境のシミュレーションを行い住環境整備の支援をするのも彼らの仕事です。さらに、職業的アプローチの一環として障害をかかえる方用のパソコンを選定・設置したり、ソフトウェアを実際に使用するための講習をしたりしています。

彼らの仕事のなかには障害をかかえる方をサポートするための製品開発も含まれます。車椅子をこいだ回数を計測する歩数計のような装置や、在宅酸素療法を行っている方のための酸素ボンベのキャリーなど、さまざまな製品の開発を行い、工学的な見地から幅広く支援してきました。

加えて、全国の労災病院関連施設でリハビリ治療を受けた脊髄損傷者に関する情報を集めたデータベース(全国脊髄損傷データベース)の事務局も行っています。このデータベースは、全国の医療機関が情報を共有することで、さまざまな症例の症状やリハビリ治療結果の移り変わりをみていくことを目的としたものです。このデータが、これからリハビリ治療を開始する患者さんがどの程度までの回復を見込めるか、判断する基準にもなります。

当センターは、スタッフ一人ひとりがやりがいをもって仕事に取り組めるよう、良好な職場環境の整備に努めています。医師が治療やリハビリの方向性をすべて決定していくのではなく、スタッフそれぞれの役割を尊重し、協力し合いながら医療の提供を行ってきました。スタッフがやる気に満ちあふれていれば、その姿を見た患者さんの職業復帰への意欲も高まり良好な社会的アウトカムにつながると考えます。

特に社会経験がない10代の患者さんには、我々が職業人としてのお手本となれるよう、いきいきと仕事にあたっている姿を見せたいと考えているのです。

当センターはすべての患者さんが自立した生活を送っていけるよう全力でサポートしています。日常生活を送れるよう基本的な機能の回復をお手伝いすることはもちろん、社会のなかで自立した生活を送るための支援も積極的に行ってまいりました。

当センターの患者さんのなかには、首から下にまひを残しながら福祉系企業の社長をされている方もいらっしゃいます。また、障害をもってからも趣味のサーフィンを続けていらっしゃる方もおられます。生活に希望をもち、自分らしい人生を歩んでいる方が大勢いらっしゃるのです。そのような方々の笑顔が、日本一多いリハビリテーション病院となれるよう、当センターはこれからも全力で患者さんをサポートしてまいります。

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  • 独立行政法人労働者健康安全機構 吉備高原医療リハビリテーションセンター 院長

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