地方独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立医療センター中央市民病院は、2024年に100周年を迎える歴史ある病院です。地域に求められる医療の提供を目指し、大規模な災害や新興感染症を乗り越えながら歴史を築いてきました。高度急性期病院として、救急医療や高度専門医療で地域を支え続ける同院について、院長の木原 康樹先生にお話を伺いました。
当院は、1924年に神戸市長田区で開設され、2024年に100周年を迎えます。神戸市民の“最後の砦”として機能すべく、また地域の医療福祉への期待に応えるためさまざまな医療提供を行っています。
当院は、救命救急センターとしてより緊急性の高い三次救急を中心に広く救急医療に対応し、地域での重要な役割を担っています。またそれと同時に、地域災害拠点病院や第一種・第二種感染症指定病院にも指定されており、大規模な災害や未曽有の事態にも備えています。さらに、地域がん診療連携拠点病院としての指定も受けているため、がん診療にも力を入れ取り組んでいます。
当院の救命救急センターは、救急医療体制整備(1976年実施)において、当時の厚生省より指定された最初の4つの救命救急センターのうちの1つであり、開設から50年近い歴史を持ちます。
当院では救急専用の病床を1階に集約しており、より迅速な対応ができるよう整備しています。また、初期から可能な限り専門的な対応を行えるよう、各専門医師の当直人数を多く配置しています。さらに、E-ICU(救急集中治療室)やMPU(精神科身体合併症病棟)も備えており、重症・重篤な患者さんを広く受け入れられるよう努めています。
当院ではさらに、NICU(新生児集中治療室)やmFICU(母体・胎児集中治療管理室)といった、新生児や胎児、母体向けの集中治療室も備えています。そのため、合併症のある妊娠や早産などリスクの高い分娩を積極的に受け入れています。こうした体制もあり、当院は総合周産期母子医療センターとしての指定も受けています。
当院の大事な使命の1つとして、高度専門医療の提供があります。当院では、高度専門医療センターを新設し、医師や看護師、薬剤師、技師など複数の職種が集まりチームで治療に取り組んでいます。
当院では手術支援ロボットのダヴィンチを2台、さらに国産のロボットhinotoriも1台導入しており、計3台を稼働させています。泌尿器科をはじめ、外科や産婦人科など広く手術適応があり、今後も順次拡大していく予定です。
当院では、循環器内科と心臓血管外科による緊密な連携で患者さん一人ひとりに適した治療を目指しています。体への負担が少ない治療を心がけており、TAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)やMICS(低侵襲心臓手術)といった手術を積極的に行っています。また、24時間365日体制で循環器内科医・心臓血管外科医が当直を行っており、緊急手術を含め迅速な対応ができるようにしています。
脳卒中センターでは、“脳卒中になっても困らない町 神戸”という目標を掲げ、脳神経外科と脳神経内科を中心にチームで、24時間365日体制の脳卒中診療を実施しています。
当院は、地域がん診療連携拠点病院として検査から治療、緩和ケアまで一貫したサポートが可能な体制を整えています。前述の手術支援ロボットを活用した手術はもちろん、各領域で体への負担が少ない低侵襲な治療を心がけています。また、外来化学療法センターや放射線治療センターも備えているので、一人ひとりの患者さんに適した治療を検討することが可能です。さらに、緩和ケアセンターやがん相談支援センターといった部門もあり、治療にとどまらず患者さんの心にも寄り添ったケアを実施しています。
当院では調剤部でもロボットの活用を進めています。2017年より抗がん薬調製ロボットを導入し、さらに2021年にはロボット調剤室を導入しました。これにより、今まで調剤の仕事に時間を取られていた薬剤師が、退院支援など患者さんと向き合う仕事に時間を使えるようになっており、業務の効率化向上にもつながっています。
AIを利用した病床管理システム“ボリュームコントロールセンター”の導入により、病床の稼働状況を簡単に可視化できるようにしました。これにより、どの病棟がどれくらい稼働しているのか、またどの病棟にどれだけ負荷がかかっているかなどがリアルタイムに把握できるようになりました。病床稼働の適正化を図ることで、患者さんにスムーズなサービス提供が可能となり、また職員の働き方の観点からも負荷がかかっているところをすぐに調整できるというメリットがあります。
当院では、臨床だけでなく研究にも力を入れている医師が多く、論文の発表数も少なくありません。病院としても、臨床研究を支えられるような環境づくりを意識しており、医療の発展に貢献できるような病院でありたいと考えています。この先の100年を見据えたときに、病院の実力を作っていくには、新しいものを自分たちで発信していく力も必要です。高度で最新の治療を提供したいという気持ちをもって診療の現場に立ったり、研究を進めたりすることが地域の皆さんの期待に応えることにもつながっていくのではないかと思います。
新型コロナウイルス感染症の流行初期には、病院の全機能を停止しなければならない事態に追い込まれた時期もありました。しかし、そこから学んだことも多くあります。感染症の診療に大きくシフトして体制を立て直し、重症患者さんに対応できる専用の臨時病棟を全国で初めて設置して、非常に多くの患者さんを受け入れてきました。この経験を通して病院全体のチーム力も向上したと感じます。自分の専門領域にとらわれない可塑性が生まれ、コロナの診療にどう関わるかをそれぞれの立場から考え行動しました。たとえば、耳鼻咽喉科の先生であれば、鼻の中の粘膜を取るのが得意だからPCR検査を率先して引き受けるなど、診療科の枠を超えたさまざまな協力体制が生まれたのです。このように、病院が1つになりレジリエンスの高いチーム力が生まれたことは、当院の大きな財産となっています。
100年の歴史を振り返ったときに、やはり地域に求められる・期待される医療を提供しようと努力してきたことは大きく、だからこそ当院は神戸市民の“最後の砦”と呼ばれているのだと考えます。当院は、社会の状況に応じた適切で高度な医療を提供できる実力のある病院だと自負しています。今後も神戸市民の“最後の砦”という言葉を裏切らない病院であり続けられるよう、自分たちのミッションを意識しながら地域医療を支えていきたいと念じています。
地方独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立医療センター中央市民病院 病院長
日本内科学会 功労会員・認定内科医・総合内科専門医日本循環器学会 名誉会員・循環器専門医日本心臓病学会 名誉会員・FJCC日本心不全学会 名誉会員日本超音波医学会 功労会員・超音波専門医日本脈管学会 特別会員American College of Physicians(ACP) FellowFellow of the American College of Cardiology(FACC) 会員European Society of Cardiology(ESC) fellow日本学術会議 会員
木原 康樹 先生の所属医療機関