西福岡病院は、福岡市西区生の松原で医療提供という形で地域の皆さんの健康を守っています。同院は地域に求められる病院を追求し、地域のニーズをくみ取り、柔軟に変化してきました。1955年に開院してから60年以上の長い歴史のなかで、同院はどのように変化してきたのでしょうか。理事長である安藤文英先生に同院の取り組みや、若手医師への思いを伺いました。
当院は1955年に長垂療養所として開院しました。開院当時は結核患者さんの療養施設で、私の父が院長に就任する形で開院されたと聞いています。父は当時、長垂療養所の近くにあった九州大学医学部の胸部疾患研究所に勤めていました。当時はまだ結核患者さんも多く、抗結核薬は既に開発されていましたが高価であり、一般的普及に至らず治療はまだ大気、安静、栄養が主体であったことから、療養環境として適当なのどかなこの地が選ばれたのだと思います。
開院から60年以上の歴史のなかで、大きなターニングポイントは結核療養所から外来診療を開始し、一般病院として地域医療を提供するようになったことです。1970年代に入ると、当院の周辺にも家屋が建設され人口も増加したことで、結核以外の病気や外傷などの外来診療や一般病棟での入院治療を必要とする患者さんが増加しました。そのため当院は、地域に求められる形をベストな状態で提供するための体制変更が必要となり、一般病院化を行ないました。その後、病床数や診療科も拡充し、地域に求められる医療を提供できる体制を整えました。
当院は結核療養所から始まった病院であり、現在も呼吸器内科の診療に力を入れています。地域の高齢化も進み、糖尿病など生活習慣病を持っている方も増加傾向にあります。そのため、呼吸器内科の診療だけでなく糖尿病内科や消化器内科、整形外科なども提供することで生活習慣病の患者さんの診療にも対応できる体制を整えています。
また、皮膚科、眼科、泌尿器科などもそろえ、ワンストップで外来診療を受診できるようにしています。当院でワンストップ診療を行う体制を取ることで、地域の皆さんにとってかかりつけ病院として頼っていただけるような存在になると思います。当院のようにコンパクトな病院は今後、かかりつけ医としての機能を持ち、さらに地域医療を担うことを役割として担ってゆかなくてはならないと考えています。
当院は一般病棟のほか、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病床、緩和ケア病床を開設しているため、呼吸器疾患の急性期治療から回復期、慢性期、看取り期まで切れ目無く提供することができます。緑に囲まれ海にも近く自然豊かで、空気も清浄であり、療養環境としては最適のロケーションだと思います。
福岡大学病院で病院長を務めたこともある故曽田豊二先生の蔵書約3万冊を、地域の皆さんへ曽田豊二文庫として2019年1月14日に開設し、開放しました。
曽田先生は九州大学に入学直後、肺結核を発症したため長期療養をされていました。その療養期間中に数学や物理などさまざまなジャンルの本を読みふけっていたといわれています。その後、曽田先生は福岡大学耳鼻咽喉科教室の初代主任教授、病院長を務め、名誉教授の称号を得られました。福岡大学を退官後は当院の診療に携わってくださいました。曽田先生が亡くなられたあと、妻キミヨさんから「蔵書を保存したい」という思いを聞き、曽田豊二文庫の開設に至りました。
曽田豊二文庫を地域の皆さんだけでなく若手医師、医学部生にもぜひ利用していただき、先輩医師が育んできた豊かな心を学ぶきっかけにしてほしいと思います。
若手医師の皆さんには、何のために医学そして医療があるのかを、どこにいてもどんな場面においても思い出せるよう、さまざまなことを考えてほしいと思います。医学の原点を踏み外すことがないように、そして患者さんの求める医療を提供するために、その気持ちを汲み取ることができるように、多くの教養を身につけてください。
医師は数学や化学、物理など理系の職業と思われがちです。実際には理系のマインドだけでなく、文系の知識やマインドが必要になる場面が多くあるのではないでしょうか。特に、外来診療を担当する医師は、同じ病気でも症状もバックグラウンドも異なる患者さんを診療します。患者さんの心を理解しようとするマインドや、寄り添おうとして相手の気持ちを考えるためには、医療に関する知識や経験とはまた違った人間性(教養)が必要です。
医師は理系の頭脳を持つ人として解を求めますが、患者さんは一人ひとり症状も、今まで歩んできた人生もまったく違うため、ただ一つの解は存在しないと思います。相手の気持ちを汲み取り、寄り添う心を育むために、さまざまなジャンルの本を読み、豊かな心を養ってほしいと思います。
当院のモットーは、実力に応じ地域の要請に応じた医療の提供です。開院から60年以上の歴史におけるターニングポイントは、地域の要請に応じて、求められる医療を提供するために柔軟に適応、変化してきたことです。今後も地域に求められる医療を提供していくために、さまざまな面から地域医療を支えていきます。
安藤 文英 先生の所属医療機関