新型コロナウイルス感染症特設サイトはこちら
連載特集

ニューヨークはAll Hands on Deck(総力結集)で新型コロナウイルスに奮闘中、日本でも対策の準備が不可欠

公開日

2020年04月06日

更新日

2020年04月06日

更新履歴
閉じる

2020年04月06日

掲載しました。
63fa3956b1

写真:Pixta

JAMSNET会員リレーリポート~医師の目で見た海外の新型コロナ対策【2】

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が最初に報告された中国を抜いて、患者数が世界最多となってしまったアメリカ。中でもニューヨーク市は全米の死者の4分の1が集中する爆発的な感染の震源地になっています。海外居住経験を持つ医療・保健などのエキスパートが、国境をまたいで活躍する人々を支援する「JAMSNET」会員のドクターによる現地リポート第2回は、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学内分泌内科教授、柳澤ロバート貴裕 米国日本人医師会会長からです。

柳澤ロバート貴裕 米国日本人医師会会長

状況は日々悪化、市内は閑散

アンドルー・クオモ州知事は毎日、感染者数などCOVID-19に関する情報を州政府のウェブサイトなどで発信しています。3月末時点で州全体の感染者数は約7万6000人、そのうち半数以上にあたる約4万3000人がニューヨーク市に集中しています。患者数は現在、爆発的に増加していますが、政府の政策と医療機関の懸命の努力で、今のところ医療崩壊は免れています。ただ、この状況がさらに悪化していけば、崩壊も起こりうるぎりぎりの状態と言えます。状況は日々変化しており、今後の見通しは立てにくいのが現状です。

クオモ知事は以前から深刻な状況になる可能性を危惧していました。そして、そうした状況が切迫し危機的状況になった3月22日、「必要不可欠な業種を除くすべての事業体、非営利団体は可能な限り在宅勤務を活用し、雇用主は原則として業務現場で勤務する人員を100%削減する」ことを命じる行政命令が発効しています。州全体の学校も閉鎖されています。これらの措置は4月15日まで2週間延長されています。また、州民に対しても「可能な限り自宅待機し、不要不急な公共交通機関の使用を控える」ことなどを連日、要請しています。

ニューヨーク市はアメリカ経済の中心、かつ観光名所でもあり、普段は大勢の人でごった返しています。ところが、行政命令の発効以降、ブロードウェイの劇場や美術館、五番街の高級デパートやブランドショップ、多くのレストランも営業を休止して人影もまばらになり、様相が一転してしまいました。

医療従事者などが通勤できるよう、今でも市のすべての地下鉄やバスは運行していますが、利用者はまばらです。

COVID-19という病気が切迫した危機と感じられる前にはどこか「人ごと」ととらえ面倒がっていたニューヨーク市民も、現在ではほとんどの人がこの目に見えない危機に大変な恐怖感を持ち、外出を控えて政府の施策に従っています。必要な外出の際でも、道では他人と距離を保とうと、自然と歩道の端によってすれ違うように歩いています。

「病床倍増計画」が進行中

私が勤務するマウントサイナイ・ヘルスシステムの病院はニューヨーク市内に8つあり、勤務医師が約7000人、合計3000床からなります。現時点でCOVID-19患者が1679人以上、うち302人がICUに入っておられます(4月4日現在)。3月後半で入院患者数も激増し、このペースで重症患者数が増え続けると、間もなく人工呼吸器が足りなくなる恐れもありましたが、新たに400台の人工呼吸器が導入されています。

州政府、連邦政府が、対策として病院や病床数の拡充を図っています。ニューヨーク市でもすべての病院で一時的にベッド数を倍増する計画も急ピッチで進み、3月最終週からはそれに近い体制で稼働しています。ベッド数を増やすだけで問題が解決するわけではなく、それだけの患者数を治療できる医療チームが必要となります。病棟の患者さんのケアを担う病棟担当のチームを準備しています。私も普段の内分泌の専門医から一転し、内科指導医の一員としてCOVID対応に参加しています。

COVID-19にはまだ認定された治療薬がなく、治療方法も確立されていません。現時点では抗マラリヤ薬のヒドロキシクロロキンが主に使われています。他に我々のマウントサイナイ医科大学では、患者さんを救うためにさまざまな対処方法を検討しています。可能性の1つとして、最近回復された患者さんの抗体を集めて重症化した患者さんに投与し、抗COVID-19の免疫治療とする試みなども行われ、その効果が注目されています。

ニューヨークの爆発的感染拡大を「他山の石」に

国民皆保険の日本とは違い、アメリカではさまざまな保険制度があります。公的医療保険制度としてメディケア(主に65歳以上、または身体障害者や透析などを必要とする人に対する制度)と、メディケイド(低所得者を対象とする制度)があります。それ以外の人たちは民間保険で、勤務する企業による団体保険や個人で契約する保険などがありますが、低所得者などには無保険の人も少なくありません。2014年に通称「オバマケア」と言われる国民皆保険制度が始まりましたが、トランプ政権下でその先行きは不透明です。

例えばCOVID-19の検査は無料ですが、その後入院などになれば、治療費はそれぞれが契約する保険が適用になり、もし医療保険がなければ自費になります。そして、アメリカの医療費は高額なため、医療保険がない人たちの中には、持病を放置しているケースも多くみられます。そして、コロナウイルスに感染しても、本当に重症化するまで医療機関にアドバイスを求めない事が懸念されています。

ニューヨークでは、あっという間に深刻な状況まで爆発的な感染が広がっていく過程を目の当りにしました。これを他山の石として、他の都市で爆発的な感染による医療崩壊の危機を防ぐためにも、皆さん一人ひとりが協力し合って、感染拡大に繋がる行動を自粛することが不可欠です。もし日本でも感染が爆発的に拡大すれば、急遽感染者の対策が必要になります。まずは軽症な患者さんを入院させずに自宅療養とビデオ診療によるその経過観察の実施が必要です。また入院患者さんの急増に対応するには病院のベッド数や医療物質の準備だけではなく、それだけの感染者をマネージできる医療チームの急増が必要になります。例えば退職した医療従事者の現場復帰をしやすくするなど政府、自治体、医療機関が協力し合って柔軟な対策の準備が不可欠です。みんなでコロナウイルスに打ち勝てるよう努力して頂きたいと思います。

特集の連載一覧