一過性脳虚血発作(TIA)は脳梗塞の前兆でもあり、極めて危険な状況であることは(「危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(1)」「危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(2)―急性脳血管症候群とは?」)を通して説明してきました。それでは、一過性脳虚血発作の原因はどのように分類されるのでしょうか? また、特徴的な症状はどのようなものなのでしょうか? 山王病院の内山真一郎先生に詳しくお話し頂きました。
TIAは脳梗塞と連続する概念であり、原因も脳梗塞と類似します。以下が代表的な3つの原因です。
動脈硬化により頸部や脳内の動脈にできた血栓(特に頸動脈にできるものが有名です)が、脳の血管を詰まらせることが原因となります。TIAの原因としてこれはとても多く、TIA患者全体のうち3分の2程度の割合になります。
心房細動という不整脈や心臓疾患が原因となり、心臓にできた血栓が脳に流れていき、脳血管を詰まらせることにより起こります。TIAの原因の残りほぼ3分の1がこれです。「心原性脳塞栓症」と呼ばれます。
血圧低下が原因となることは稀ですが、太い動脈に高度の狭窄や閉塞がある状態で急激な血圧の低下が起きると、脳の血流が大きく下がってTIAが起こることがあります。
TIAの症状の特徴は「突然症状が出現して、突然症状が消失すること」です。症状の持続時間は、最長でも24時間です。
しかし、多くのケースでは数分から数十分程度で、長くともほとんどが1時間以内には消えます。もし1時間を超えると、脳梗塞のリスクがさらに高まってしまうため、1時間を超えても症状が消失しない場合は緊急入院する必要があります。
代表的な症状は片麻痺(片側の手足が動かなくなる)と言語障害(急に言葉が喋れなくなる)ですが、一過性黒内障(一時的に片目が見えなくなる)や半盲(視野の半分が見えなくなる)といった目の症状が起こることもあります。
一過性黒内障とは、血栓が頸動脈から眼の動脈に流れていくことにより起こる「網膜の虚血症状」(網膜の血流が不足すること)を言います。もしこのような症状が起こったら、神経内科や脳外科を受診しましょう。眼の病気だと思って眼科に行ってしまうと時間をロスすることになるので注意が必要です。
TIAの症状は、「どこの血管が詰まるか」によって決まります。
脳に血液を供給している血管は左右の「内頸動脈」と左右の「椎骨動脈」の合計4本があります。左右の椎骨動脈は合流して1本の脳底動脈になります(下図)。
TIAの症状も、内頸動脈系と椎骨脳底動脈系のふたつに分けられます。
これらの症状の出方の比率は概ね内頸動脈系:椎骨動脈系=4:1です。内頚動脈系のTIAが椎骨脳底動脈系のTIAより多いのは、「内頚動脈系のほうが血液の供給量が多い」ことと、「脳を支配している領域が広い」ことによります。
内頸動脈は前頭葉・側頭葉・頭頂葉の3領域を支配しています。内頚動脈系のTIAで出現する代表的な症状としては以下の5つが挙げられます。
片側(右半身や左半身)の手足に力が入らなくなる症状です。手だけや足だけの麻痺が起こることもあります。
左右どちらかの身体半身の感覚が鈍くなったり、しびれたりします。
言葉が言えなくなったり、理解できなくなったりします。
片眼が見えなくなる症状です
左右どちらの目で見ても、両目で見ても片側の視野だけが見えなくなるという症状です。例えば、右の半盲ではどちら側の目でみても右側だけが見えなくなります。椎骨脳底動脈系のTIAでも起こる症状です。
椎骨動脈は後頭葉・脳幹・小脳の3領域を支配しています。椎骨脳底動脈系のTIAにより出現する症状としては、以下の5つが挙げられます。
天井がぐるぐる回るようなめまいや、体がゆらゆらするようなめまいが起こります。
ろれつが回らなくなったり、たどたどしいしゃべりかたになったりします。内頚動脈のTIAでもろれつ困難は出現します。
両目で見ると物が二重に見える症状です。片目で見ると複視はなくなります。
足は麻痺していないのに立てない、歩けないという症状です。
内頚動脈系と同じように身体半身に出現することもありますが、左右の手足にさまざまな組み合わせで生じる場合があります。
片麻痺や失語症、あるいは一過性黒内障や半盲はTIAに特有な症状ですが、めまいや感覚障害はTIAに特有な症状とはいえません。めまいは耳鼻科的疾患で起こることのほうが多く、手足のしびれは様々な原因で起こりますので、他の病気との鑑別が必要になります。
失神や意識消失発作があると、医師でさえTIAを疑いがちですが、TIAで意識を失うことはなく、失神があったら心臓を調べる必要がありますので、まず循環器内科を受診すべきです。
脳梗塞の啓発に使用されている「FAST」という標語があります。FASTはTIAにも当てはまりますので、その調べ方を紹介します。
「イー」といったときの口つきをさせたり、「チーズ」といわせたりすると、半側顔面の下半分が歪み、左右不対称になる。
両手を前方拳上させると、麻痺している側の手が上がらない、あるいは最初は挙げられるけれど、だんだん下がってくる。
特に、「らりるれろ」や「ぱたかぱたか」などの言葉がうまくいえない。あるいは、思った言葉が話せない、人のいうことが理解できない。
上に紹介した「FAS」の症状を一つでも認めたら、これはもはや一刻を争う事態です。すぐに病院を受診しましょうという意味が最後のTです。
この「FAST」に書かれた症状が、自分自身や身近な方に現れたら、迷うことなく神経内科や脳神経外科を受診しましょう。大切なのは、できる限り早く原因を特定し、治療を開始してもらうことです。
山王メディカルセンター 脳血管センター長、国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授、東京女子医科大学 名誉教授
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