一過性脳虚血発作(TIA)は脳梗塞の前兆として極めて危険な病態です。TIAを発症したら、原因を明らかにし、脳梗塞へと進まないようにきちんと治療を開始しなくてはなりません。その原因を明らかにするためにはどのような検査をしていくのでしょうか? 山王病院の内山真一郎先生にお話をお聞きしました。
頭部のMRIで脳の状態を調べる必要があります。MRIで古い脳梗塞が見つかることがあります。脳梗塞が小さいと脳卒中症状が現れない場合があり、これを無症候性脳梗塞といいます。テレビや雑誌では「隠れ脳梗塞」と呼ばれるものです。さらに、「拡散強調画像」という特別なMRI画像では、発症早期の脳梗塞も見ることができるようになりました。
これまで、TIAは症状だけで診断をしていくものと考えられており、MRI画像での変化は診断の参考にはされていませんでした。しかし、実はTIAにおいても30~40%の確率で、MRI上に発症早期の脳梗塞と同様の変化が現れることが分かってきました。このことは、「TIAと脳梗塞を連続した病態として包括する急性脳血管症候群(ACVS)」(「危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(2)―急性脳血管症候群とは?」参照)という概念の妥当性を支持する証拠でもあります。このように、TIAに対するMRI検査の価値はとても高いと言えます。
MRIと同時にMRAを撮ることも重要です。MRAは脳の血管を調べる検査です。脳の血管に狭くなっているところがないかどうかを調べます。
CTはTIAや発症早期の脳梗塞に対して、実はほとんど無力です。それゆえ、CT検査を受ける意味はほとんどないといえます。
CTでは画像に変化が現れるまでに時間がかかり、TIAや発症早期の脳梗塞では異常があっても捉えることができません。もしもCTで画像変化が見えるときは、既に脳梗塞を起こしてしまった後のことです。したがって、「TIAを疑ってCTを撮りましたが異常なかったので心配ありませんよ」という説明は意味がないということになります。
ただし、TIAと類似の症状が小さな脳出血で起こるときがあり、それを見つけるときには役立つことがありますが、きわめてまれです。
頸動脈エコー検査は、TIAに対しては必須の検査で、頸動脈の状態を超音波により調べます。
頸動脈が狭くなっていたり、危険な不安定プラークがあると、それがTIAの原因になっている可能性があります。
心電図で「心房細動」が出ていないかを調べます。心房細動とは、心臓内(左心房、特に左心耳という部位)に血栓を作る可能性がある危険な不整脈です。
一度心電図をとれば、持続性(ずっとその症状が続いていること)の心房細動は分かります。しかし、「発作性の心房細動」という、一過性(スポット的)にしかおきない心房細動をお持ちの患者さんは診断が困難です。その場合は「ホルター心電図」検査をしなければならず、一日を通して体に機械を装着して心電図を連続記録します。心原性のTIAが疑われ入院した場合は、入院期間中ずっと心電図をモニタリングして発作性心房細動の発見に努めます。
心臓エコー検査では、超音波検査により心臓を調べます。この検査の際、心臓の動きだけでなく、心臓の弁や心房や心室の状態も確認できます。また、心臓に血栓がないかどうかや、左右の心房を隔てる壁(中隔)に穴が開いていないかどうかを詳しく調べるために、「経食道心臓エコー検査」という、食道に胃カメラのような器具(探触子)を入れて超音波検査を行うこともあります。
特に若年性の脳梗塞・TIAの方は、「卵円孔開存」(左右の心房を隔てる心房中隔に穴が開いている状態)という心臓の病気が原因のことがあります。そのため経食道心臓エコー検査は、主に卵円孔開存がないかどうかを確認したいときに行います。
ACVS(「危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(2)―急性脳血管症候群とは?」参照)では「抗リン脂質抗体症候群」などの血液凝固異常(血液が固まりやすく、血栓を作りやすいこと)が原因のこともあります。そのため、血液で抗リン脂質抗体の有無や血液凝固検査を行います。
「D-dimer」という血液凝固マーカーの数値が非常に高い場合は、どこかに「悪性腫瘍(がん)」が潜んでいる可能性があるため、全身の精密検査が必要となってきます。がんがある場合には血栓を作りやすいため、脳梗塞も起こしやすくなるからです。このような病態を「トルーソー症候群」と言います。
山王メディカルセンター 脳血管センター長、国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授、東京女子医科大学 名誉教授
内山 真一郎 先生の所属医療機関
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