前の記事「脳卒中の予後を改善するための一歩」で、脳卒中後の神経機能の再生には造血幹細胞移植による血管再生治療が有効である可能性についてご説明しました。過去の脳卒中発症後の治療法開発において、今までどんな問題点があり、今後はどのように取り組むべきかを、公益財団法人 先端医療振興財団 先端医療センター研究所 再生医療研究部 部長の田口明彦先生に引き続きお話しいただきました。
脳卒中後の神経機能再生に関する治療開発において、いままで世界で成功例がなかった理由は以下の3点であると考えています。
これまでの記事で上記2つの理由に関して述べました。脳の再生を完全に否定したカハールの呪縛からは既に解放され、また脳梗塞患者さんの病態を反映した再現性が良いモデル動物も開発されました。以下では、3つ目の臨床試験について述べていきます。
臨床試験は通常、臨床試験に登録された患者さんが最終的にどのような状態になるかを評価し、その治療法の効果を評価します。つまりどのような患者さん(重症度や症状、年齢など)を臨床試験に登録するか、また最終的にどのような評価方法で評価するかが非常に重要なのです。これが臨床試験設計です。
まず患者さんの登録に関してですが、脳梗塞発症すぐの時点では、その患者さんに将来どの程度の麻痺が残るかの予想が困難な場合も多くあります。発症した時は重症でも、特別な治療もなしに急速に症状が改善し、ほとんど麻痺の残らない方もいます。逆に、発症時は軽症でもその後病状が悪化し、重篤な麻痺が残る方もおり、一般的には発症後時間が経過するほど予後が予測しやすくなります。今まで研究されてきた細胞死の防止の治療法とは違い脳の再生を促進する治療法は、必ずしも早ければ早いほど高い効果が期待できるというわけではなく、患者さんの予後がある程度判明してから比較的均一な予後が予測される患者さんをエントリーしてもらうことが可能ですので、効果判定の感度は格段に上昇すると考えられています。
一方、患者さんの評価方法に関しても、様々な議論が始まっています。評価方法には機能障害評価(例:手がどの程度動くか)と能力評価(例:自分でご飯が食べられるかどうか)の2種類があり、今までは治療効果の判定には能力評価が用いられてきましたが、神経機能再生が促進されるとかえって能力評価が下がるという矛盾が発生することもしばしばありました。例えば、右手が完全に麻痺して全く動かなくても、左手で器用に食べられる方は、能力評価では満点の評価ですが、一方、治療により右手の麻痺がかなり良くなったものの、少しまだ介助が必要な方は、完全麻痺の患者さんよりも低い評価になってしまいます。これらの矛盾を解決する適切な評価方法の設定に関しては、現在作成中の脳梗塞の再生医療のガイドラインにおいても、様々な議論がなされていますので、今後は有効性がしっかりと評価できる臨床試験が進んでいくものと期待されます。
現在、MRIなどの画像診断の技術の進歩にはめざましいものがあります。次のような技術が開発されています。
拡散テンソル画像では解剖学的な繋がりを、安静時機能的MRIでは機能的な繋がりを評価できますので、治療により、各部位の解剖学的/機能的なつながりがどのように変化したかが、将来わかるようになると考えられています。このように、脳の状態を客観的指標で測定できる技術開発が進んでいます。今後は神経機能の評価に加え、画像評価が脳梗塞後の治療の評価にも用いられると考えられています。
日本の脳卒中患者は、およそ124万人(厚労省平成23年調べ)といわれます。その治療の最先端をゆく脳血管内カテーテル治療は、現在国内で約2万5千件行われています。外科手術では治療が困難だった特殊な病気をも治療可能にした脳血管内手術は、どのように始まったのでしょうか。
日本では2008年から、片麻痺を改善させて脳卒中リハビリテーションをスムーズに進めるために“rTMS治療”が用いられるようになっており、すでに良好な治療成績がもたらされています。
社会全体の高齢化が進み、脳卒中治療の需要は増加の一途を辿っています。現在、脳卒中の治療の第一選択は、頭部に切開を加えず、血管内にカテーテルを通して行う脳血管内治療に移行し始めています。
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