インタビュー

脳の可塑性―リハビリで期待できること

脳の可塑性―リハビリで期待できること
二瓶 太志 さん

大泉学園複合施設 ねりま健育会病院 リハビリテーション部

二瓶 太志 さん

この記事の最終更新は2016年02月19日です。

脳卒中が起きると、脳の血管に障害が起きて脳にダメージを与え、脳の神経細胞が死んでしまいます。死んでしまった脳細胞の働きがもとに戻ることは二度とありません。しかし、脳卒中のリハビリテーションは、機能回復を目指すための治療が重要です。脳の神経細胞の働きが失われたのに、機能回復を目指すとはどういうことなのでしょうか。大泉学園複合施設 ねりま健育会病院 リハビリテーション部 作業療法士の二瓶太志先生に脳の可塑性のメカニズムについてうかがいます。

脳の神経細胞は、一度死んでしまうと、もとに戻ることは残念ながら二度とありません。その神経細胞の働きによる脳機能も失われてしまいます。つまり、記憶を司る脳の領域が損なわれると記憶することができなくなってしまい、運動を司る領域が損なわれると手足を動かすこともできなくなってしまうということです。ですから、以前のリハビリは、麻痺した側の機能はあきらめて、ほかの動く部分を強化することを重点的に行う傾向がありました。

しかし、最近の脳科学の研究において、リハビリテーションによって損傷した脳領域周辺の細胞など新たな神経回路ができることが明らかになりました。学習や経験で脳細胞のシナプス結合が変わり、運動や行動に変化が現れるという神経可塑性が提唱されています。たとえば、脳梗塞で指を動かす神経細胞が死亡しても、訓練によって通常「手首」を動かす指令を出す神経細胞が「指」を動かす指令を発することができるようになります。再び指を動かすことが可能になるのです。このような脳の運動学習メカニズムが、麻痺した筋肉を動かすことによる麻痺した筋肉の治療を可能にするのです。

また、脳は脳梁を介して左右相互に抑制しあい、均等に働けるように調整し合うという特徴があります。たとえば、どちらかの脳が損傷を受けた場合、損傷を受けていないほうの脳による損傷を受けた脳への抑制が強くなってしまい、活動性が低下してしまいます。損傷を受けていない脳が余計にがんばってしまい、損傷を受けた脳の本来の力を抑制してしまうのです。したがって、左右の脳を調整するようなリハビリテーションも重要です。

このように脳は、損傷を受けても回復する力を持っています。特定の領域が損傷を受けてもその損傷を自らカバーしようとする機能がもともと備わっているのです。ですから、脳機能が失われても、適切なリハビリテーションによって機能回復することは可能なのです。

このような脳のしくみが明らかになったことによって、リハビリで使用される電気機器などにも大きな変化がもたらされました。以前は、使える部分を強化することを目的とし、動く部分を「筋トレする」ようなイメージでリハビリを行っていました。しかし、現在脳卒中のリハビリで使用される最新の電気機器は、患者さんの腕などに装着すると腕の筋肉の筋電を察知し、筋肉の収縮を促す刺激を送るというつくりになっています。私たち人間の身体は、動く時にわずかな電気信号を発しています。その電気信号を機器が察知してよりよい筋活動を促し、それによって生まれる感覚が脳の運動の学習を強化します。結果、腕をもっと大きくスムーズに動かせるように、脳の「腕を動かす」という指令を改善するようなしくみになっているのです。

また、電気機器以外にも、互いに抑制しあっている左右の大脳の神経活動のバランスを調整する機器もあります。磁気による刺激です。リハビリで目的としたいことは「損傷した脳の機能や信号をいかに適切に回復するか」ですから、損傷した脳にがんばってもらわなければなりません。その場合、大脳への磁気刺激の与え方によって、損傷していない脳の過剰な信号を少しだけ抑制し、両方の脳がより適切に働いてもらうように調整することもできます。損傷していない側と損傷した側、両方のリハビリをバランスよくすすめていくことが非常に重要なのです。

 

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