ロボットや機能的電気刺激(FES)を使う技術は、従来のリハビリテーションに対してハイテクリハビリテーションと呼ばれます。機能的電気刺激(FES)とは、麻痺した手足をコンピューターで動かす技術です。ロボット技術と組み合わせることで、より効果的なリハビリテーションの提供が可能になります。
今回は、機能的電気刺激(FES)を利用したリハビリテーションロボットについて、秋田大学医学部整形外科教授 島田洋一先生にお伺いしました。
機能的電気刺激(FES)は、体の麻痺している部分をコンピューターで動かす技術です。コンピューターが電気神経をコントロールすることで、自分の意思とは関係なく手足を動かすことが可能になります。
機能的電気刺激(FES)を利用したリハビリテーションは、主に脳卒中や脊髄損傷の患者さんが対象となります。
脳卒中と脊髄損傷は、脳や脊髄が損傷して、自分の意思では手足に力が入らなくなる(麻痺が残る)ことのある疾患です。
しかし、脳と脊髄以外の神経である末梢神経(まっしょうしんけい)の機能が妨げられているわけではないため、損傷した脳や脊髄に代わってコンピューターが神経の役割を果たせば、電極を通じて筋肉を動かすことができます。
脳卒中とは、脳の血管がトラブルを起こす疾患です。手足の運動をつかさどる領域の機能が妨げられた場合、後遺症として体の片側に麻痺やしびれが現れることがあります。
脊髄損傷とは、脊髄が損傷した状態のことで、背骨の骨折や脱臼などによって起こります。背骨のなかに通っている脊髄神経が損傷すると、後遺症として四肢や体幹が麻痺してしまう可能性があります。
機能的電気刺激(FES)を活用すれば、脳卒中や脊髄損傷の患者さんが真っすぐ歩いたり、山道を登ったりすることができるようになります。転ばないように調整するため、補助がなくても安全に一人での歩行が可能です。
また、自分の意思とは関係なく日常動作を行いますが、運動により心肺機能や代謝の低下を防ぐことができる点に意義があります。
機能的電気刺激(FES)を利用したロボットリハビリテーションでは、筋肉が収縮して硬くなったり痙攣(けいれん)したりする「痙性(けいせい)」を軽減することができます。
首の脊髄損傷などが原因で麻痺が生じている患者さんは、運動訓練の最中に痙性が引き起こされて、自分の意思では動作が制御できなくなるような危険な状態にみまわれることがあります。従来は薬物治療,ボツリヌス注射*などで対処します。
一方、機能的電気刺激(FES)を利用したロボットリハビリテーションでは、患者さんの動作がコンピューターで適切にコントロールされるため、痙性を制御しながら訓練することが可能です。
ボツリヌス注射……薬を注入して筋肉の収縮などを和らげる注射。
ロボットリハビリテーションには、ロボット技術と機能的電気刺激(FES)技術を組み合わせた手段が適しているといえます。
ロボット技術の長所は、従来のリハビリに比べて練習量をより多く稼ぐことができる点です。しかし、ロボットによって足を動かされるだけでは、自分自身の筋肉が収縮するわけではないため、筋力を増強させたり筋肉を太くしたりすることはできません。そこで機能的電気刺激(FES)を取り入れることで、単なる動作のアシストにとどまらず筋肉の再教育を行うことが可能になり、より高い訓練効果につながると考えられます。
機能的電気刺激(FES)とロボットを組み合わせた治療法について、研究や開発が進められています。
下肢装具と機能的電気刺激(FES)を組み合わせることで歩行をアシストする治療法が研究されています。下肢の筋に電気刺激を与えて足を動かす仕組みのロボットです。筋肉の収縮を促すため、寝たきりの状態を予防する効果もあると考えられています。
ごく一般的なパワーアシストスーツは主に高齢者や介護従事者を対象としていますが、機能的電気刺激(FES)を応用することで、筋力低下や麻痺によって歩けない状態の方も利用できることが期待されます。
装着することで筋力を補助するリハビリテーションロボットです。主に体の負担を軽減することが目的で、医療・介護・産業などの分野で応用が期待されています。
歩行訓練装置と機能的電気刺激(FES)を組み合わせた、片麻痺者用の歩行リハビリテーションロボットがあります。
歩行訓練装置に機能的電気刺激(FES)を応用することで、麻痺している側の足に、動かせるほうの足の動きをコピーして、患者さんが本来持っている自分の歩き方を再現しながらリハビリテーションを行うロボットです。コンピューターで設定された歩行よりも自然な歩き方ができるという考え方に基づいています。
機能的電気刺激(FES)は、ロボットリハビリテーション以外にもさまざまな場面で応用が可能な技術です。たとえば、トレーニング器具の1つであるローイングマシンにも機能的電気刺激(FES)が応用されています。
ローイングマシンは、ボート漕ぎの動作を取り入れたトレーニングマシンです。
元々欧州では、リハビリテーション訓練としてボート漕ぎが行われていました。
筋力増強・心肺機能向上・代謝改善に効果的で、転倒の危険がないことから、脊髄損傷者や筋力が低下した高齢者に適した訓練だと考えられています。
機能的電気刺激(FES)を応用したローイングマシンは、下肢の機能的電気刺激(FES)とローイングマシンの組み合わせにより、ボート漕ぎの動作が困難な患者さんが使用できるトレーニングマシンです。麻痺した下肢を電気刺激で動かすことで健常者とほぼ同じような運動が可能になるため、脊髄損傷で下肢が麻痺している方に有用です。
ボート漕ぎ運動は全身運動であるといえます。力こぶを作る上腕二頭(じょうわんにとう)筋や、太もも前面の大腿四頭(だいたいしとう)筋、太もも裏面の筋肉であるハムストリングスなどの機能を改善させます。
また、ボート漕ぎ運動は筋力を増強させる効果があります。自分の意思では手足が動かせない脊髄損傷者は、機能的電気刺激(FES)により筋力を発生させてトレーニングすることで筋肥大(きんひだい)*がみられるようになります。
その他、全身運動によって血糖値の改善が見込めることから、糖尿病の患者さんにも適しています。
筋肥大……筋肉を構成する筋線維(きんせんい)が太くなること
日本脊髄障害学会では現在、2020年パラリンピックに向けてさまざまな取り組みが行われています。患者さんができなかったことを実現させる新しいリハビリテーションを作り出していこうという「クリエイティブなリハビリテーション」をテーマとし、リハビリテーションロボットの開発・普及に努めています。
ロボットリハビリテーションは世界の流れです。高齢者の急増により、ますます需要が伸びていきます。今後は、日本人向けの小型化されたロボットや、機能的電気刺激(FES)と組み合わせた先端テクノロジーを応用した機器などの開発を進めていくつもりです。
秋田大学大学院 整形外科外科学講座 教授
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