インタビュー

脳卒中の後遺症とリハビリが必要な症例

脳卒中の後遺症とリハビリが必要な症例
二瓶 太志 さん

大泉学園複合施設 ねりま健育会病院 リハビリテーション部

二瓶 太志 さん

この記事の最終更新は2016年02月20日です。

最近ではカテーテル治療などが発達し、もし脳卒中を発症してもすぐに亡くなってしまうことが少なくなりました。しかしその代わりに、後遺症に苦しむ患者さんも少なくありません。リハビリを必要とするかどうかの判断は、手足の麻痺をはじめ言語障害や視覚障害、感覚障害、高次脳機能障害など、患った部位と障害の程度によります。脳卒中を発症するとどのようなことが起こるのか、大泉学園複合施設 ねりま健育会病院 リハビリテーション部 作業療法士の二瓶太志先生にお話をうかがいます。

参考記事:酒向正春先生「脳卒中とは―3種の脳卒中『脳出血』『脳梗塞』『くも膜下出血』とはどのようなものか

脳卒中は、脳の血管がつまったり破れたりして身体に大きな影響を与える病気です。脳は、身体機能を司る重要な機関のため、一度トラブルを起こしてしまうと、トラブルの大小に関わらず心身機能を低下させます。リハビリが必要な後遺症を発症しやすい脳卒中は、大きく3つに分けられます。

脳の血管がつまって血流が流れない部分ができてしまい、その部分の機能を失ってしまうという病気。

脳の大きな血管である動脈にこぶ(動脈瘤)ができてしまい破れる病気。動脈瘤が破れるとくも膜下出血を引き起こす。出血が広がると脳が圧迫され、血流が脳に十分に行き届かなくなってしまう。出血量も多いため、一気に意識障害などを起こしたり重症化しやすい。

くも膜下出血と同じく血管が破れる病気。ただし、くも膜下出血に比べ瘤のできる場所が細い血管で、脳内で出血するため出血量は多くない。

脳卒中発症により何らかの障害を呈し、日常生活活動や役割、仕事など、生活関連動作に支障をきたす可能性のある患者さんは、全てリハビリテーションの対象となる可能性があります。大きな後遺症がない場合も、急性期の廃用症候群を予防するため、早期からリハビリテーションを開始することが望ましいです。

積極的に脳卒中急性期医療を行っている医療機関のデータバンクでは、全体として30~40%の回復期リハビリテーション適応の方がいらっしゃいます。再発も含め、全国で年間20~30万人が脳卒中を発症すると言われているため、回復期リハビリテーションを必要とする方は6~12万人ということになります。

※廃用症候群…寝たきりの状態が長く続いたことによって起こる、心や身体機能の低下。体力低下や筋力低下をはじめとして、心肺機能や痴ほうなどの精神面での影響もある。

リハビリが必要となる症状を具体的に見てみましょう。

手足に麻痺が起こる状態。上下肢、手指の麻痺とともに、非麻痺側も体幹機能の低下が起こることがあり、バランス制御能力も低下してしまう。脳画像や年齢、発症時の麻痺の状態からある程度の予後予測が可能。6ヶ月でプラトー※といわれるが、それ以降も適切なリハビリと自己管理にて回復が継続する症例も多く報告されている。

プラトー…学習や作業の進歩が一時的に停滞する状態。心の余裕のなさや疲労などが原因で起こる。

ウェルニッケ失語

言葉を聞いて理解する力が衰え会話が難しい。側頭葉(聴覚・嗅覚・味覚)が障害を受けたことにより、情緒や感情の中枢、言葉を聞いて理解する感覚性言語中枢の機能が阻害される。障害を受けた脳の場所によって症状に違いがある。

ブローカー失語

頭では言葉を理解できているのに話そうとすると言葉にならない。前頭葉(思考、判断、計算)が障害を受けるため、言葉を話すための機能を調整する運動性言語中枢が阻害される。

全失語

言葉を理解することも話すことも出来ない。

健忘性失語

言葉は理解できるが簡単な単語を忘れてしまう。

麻痺性構音障害

舌や喉などの発音に必要な筋肉に麻痺が出てろれつが回らなくなり、言葉がつっかえてしまう。

失語症の有無や種類に合わせたコミュニケーション方法、対応方法を工夫することが重要。言語のみではなく、ジェスチャーや状況判断、環境の工夫など、非言語的なコミュニケーション手段の活用が有効。

視野の片側半分が見えにくくなる「半盲」がおもな症状。慣れるまでは見えない部分にある壁などにぶつかったり、ものを書いたり読んだりすることが不自由になる。

麻痺のある手足がしびれたり、痛み、熱さや冷たさ、圧迫感などを感じにくくなる。痛みを感じないため、包丁やハサミで指を切ったり、熱いお湯に触ってやけどをしても気づかないことがある。手足のしびれは発病から何ヵ月もたってから表れることがある。

感覚にはさまざまな種類があり、どのような感覚がどの程度障害されているかの評価が重要。また、特にリハビリの制約になりやすいのは異常感覚で、視床が障害されたことによって視床痛が起こることがある。

左半側空間失認

家に帰る途中、左側を認識できないために、左に曲がらなければならないのに左側の道を認識できずいつまでも家に辿り着けないなど。また、食事の際に左視空間の食べ物に気づかずに食べ残してしまうこともみられる。

注意障害

必要なことや重要なことに意識を集中させることができなかったり、2つのことへ注意を適切に配分することが困難になってしまう、など。

遂行機能障害

論理的に考えて計画、推察、行動することができないなど。

失行症(観念失行、観念運動失行、指節運動失行、更衣失行、構成失行など)

服の表裏や上着とズボンの区別がつかなくなる、箸やはさみなど道具が使えない、「お茶をいれる」という一連の動作ができない、運動機能的な反応が遅い、視覚でとらえたことを模倣できないなど。

病識低下

自分の障害を否定したり、障害をうまく認識することができない。

視覚失認

懐中電灯やはさみなどを見て、「これは何ですか?」と聞くとそれが何か答えられない。しかし、実際にはさみに触ると認識できる。

地誌的失見当識

道順が記憶できない、目印が見えても認識できない、目印を見落としてしまうなどの原因から道に迷ってしまう。自宅周辺なのに自分のいる場所がどこなのかわからないなど。

相貌失認

家族など熟知している顔を見ても誰だかわからなくなってしまう。

劣位半球症状

感情が平板化したり、逆に固執をしてしまったり、社会的な交流が拙劣になってしまう。

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