脳梗塞の治療法には、主にt-PA静注療法と脳血管内治療があります。脳梗塞を発症すると半身麻痺などの後遺症が現れることがあるため、後遺症を残さない、あるいは軽度で抑えるためには、早期の治療が大切になります。
今回は、手稲渓仁会病院で脳卒中の治療に携わっていらっしゃる髙田達郎先生と内田和希先生に、同病院の脳梗塞に対するt-PA静注療法と脳血管内治療の特徴についてお話しいただきました。
脳梗塞の治療法には、主にt-PA静注療法と脳血管内治療があります。
t-PA静注療法とは、血栓(血の塊)を強力に溶かす効果が期待できる薬を点滴によって全身に投与することで、血管を再開通させる治療法です。t-PA静注療法は、日本では2005年に保険適用となりました。比較的大きくなっていない血栓を溶かすのに適した治療法で、4時間半以内の治療が推奨されています。
脳血管内治療とは、足の付け根から血栓でつまった血管までカテーテルを挿入し、血栓を回収し血管を再開通させる治療法です。ステントという網状の筒を血栓の中で広げて回収したり、カテーテルで吸引して回収したりする方法があります。
なお、脳血管内治療はt-PA静注療法より適応時間が長く、発症から24時間以内まで行うことが可能です。
t-PA静注療法は、時間との勝負です。t-PA静注療法は発症から4時間半以内までしか投与が認められていないので、発症から時間が経過してしまうと治療ができないからです。当院では、脳梗塞の可能性のある患者さんが搬送された場合には、速やかに検査を行う体制を築いています。
救急科と連携をとり、脳梗塞が疑われる患者さんが搬送されることが分かった時点で、連絡をもらうようにしています。搬送され次第、すぐに診察と採血を行い、MRIを受けていただきます。患者さんが搬送された時点でMRIをすぐに受けていただけるよう、検査室に事前に連絡をするようにしています。
また、検査後にt-PA静注療法の適応が決定したら、すぐに治療を開始することができるような体制を築いています。
t-PA静注療法と同様、脳血管内治療も、病院に到着してから1時間以内に治療を開始することが推奨されています。そのため、脳梗塞が疑われる患者さんが搬送されたときには、血管内治療の可能性を考え、脳血管内治療で使用するカテーテル室をすぐに使用することができるよう病院全体で連携をとりながら、早期に治療を開始することができる体制を築いています。
当院には、脳血管内治療を専門とする医師がそろっています。脳血管内治療の経験を積んだ医師が、安全で確実な治療ができるよう努めている点も、当院の大きな特徴であると思います。
脳梗塞の治療では、チームで治療にあたることが大切であると考えています。それは、脳梗塞を発症する方には、糖尿病などほかの病気をかかえる方が少なくないからです。
当院は総合病院ということもあり、診療科同士の連携体制が充実しています。たとえば、感染症を起こすことがあっても、すぐに内科の医師が診てくれるような体制が築かれています。このような連携体制により、どのような状態の患者さんでも受け入れて対応することができることは、当院の強みのひとつであると思います。
当院には、欧米型のER(救命救急病棟)があります。ERでは、最初に救急科の医師が患者さんを選別するトリアージを行った後、外傷や原因不明の意識障害などを判断したうえで、各診療科に治療の担当を振り分けるようにしています。このような救急科の医師との連携も、脳梗塞の早期の治療につながっていると思います。
また、当院は、ドクターヘリの基地病院であり、遠方の救急患者さんを受け入れることもあります。救急車で搬送すると時間がかかってしまうような遠方の患者さんであっても、ドクターヘリであれば短時間で搬送でき、通常の救急搬送では時間的に治療適応外となるような患者さんも治療が可能となります。
ほかにも、救急隊へ向けた勉強会を開催することで、脳卒中の患者さんを早期に治療できる体制を地域全体でつくるよう尽力しています。
髙田先生:
手足を動かすことができない、話すことができないなど、脳卒中が疑われる症状があれば、放置することなく早めに受診していただきたいと思います。脳卒中は回復を諦める病気ではありません。早期に治療を受けることができれば、発症前の状態に戻ることができる可能性もあります。元通りに元気になれる機会を自らなくすことがないよう、放置することなく受診してください。
当院には、新たに脳卒中の治療に特化した脳卒中センターが設立され、私はセンター長に就任しました。スタッフ一丸となり、患者さんの治療に迅速に取り組むことができるよう努めていきます。
内田先生:
当院では、病院全体で連携をとりながら、常に迅速な治療を行うことができる体制を築いています。繰り返しになりますが、脳梗塞の治療は時間との勝負です。なるべく早く治療を受けることが後遺症の軽減や抑制などにつながり、その後の生活に大きな影響を与えます。
当院は病院全体で連携をはかりながら、チームで脳梗塞の治療にあたっています。どのような状態の患者さんにも対応できる体制を築いていますので、安心して治療を受けていただきたいと思います。
内田 和希 先生の所属医療機関
医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院 脳卒中センターセンター長/脳血管内科主任部長
日本神経学会 指導医・神経内科専門医日本脳卒中学会 脳卒中専門医・脳卒中指導医日本脳神経血管内治療学会 脳血管内治療専門医・脳血管内治療指導医日本内科学会 認定内科医日本脳神経外科学会 会員日本心血管脳卒中学会 会員
1990年、北海道大学医学部神経内科に入局し、神経内科医としてキャリアをスタート。1994年より国立循環器病センター(現国立循環器病研究センター)脳血管内科で3年間の研修を行い、脳卒中医の道を歩み始める。特に急性期脳卒中の治療を専門とし、国立循環器病センタ一時代にカテーテルによる選択的血栓溶解療法の研究 (MELT japan)やt-PA静注療法の国内治験 (J-ACT) に参加。t-PA静注療法のガイドライン作成メンバーの一人となった。2008年より、璧マリアンナ医科大学東横病院脳卒中センターで主に脳血管内治療を主体とした急性期脳卒中診療を担ってきた。
髙田 達郎 先生の所属医療機関
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