脳ドックは脳梗塞やくも膜下出血などの脳卒中、そして認知症を早期に発見し、予防するために行われる検査です。国際医療福祉大学三田病院予防医学センター長・神経内科教授の桂研一郎先生は、脳卒中を予防するために脳ドックの受診が重要だとおっしゃいます。脳卒中の概略を踏まえ、脳ドックの重要性について、桂先生にお話をお伺いしました。
脳卒中は脳血管疾患の総称であり、脳卒中にはいくつかの種類があります。大きくは「脳の血管が詰まる」「脳の血管が破れる」の2つに分けられ、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が脳卒中の三大病変です。
脳梗塞は血管が詰まることにより、脳出血・くも膜下出血は血管が破れることにより発症します。このなかで最も重篤なのはくも膜下出血ですが、未破裂の状態である動脈瘤を発見できれば予防できる可能性が高くなります。脳梗塞の場合も、無症候性のものや、過去に起きたごく小さな梗塞の跡があれば発見しやすいとされています。
脳卒中の患者さんは日本に約280万人いると言われており、そのうち4分の3が脳梗塞です。また、脳卒中はがん、心臓病(心疾患)、肺炎に次いで死因の第4位です。
高齢化社会や生活習慣病患者の増加により、まだまだ患者さんは増加していくと予測されています。日本の人口が減る一方で、脳卒中により介護が必要な方は増えていき、まだしばらくは患者さんが減ることはないといわれています。
脳血管疾患に対して、日本は莫大な医療費(心疾患の倍以上)を費やしているともいうデータもあり、早急に脳卒中の予防対策をすることが求められています。
脳卒中は発症してから治療を受けても、病前の状態まで回復できないことが多く、発症を防ぐために事前予防をすることが重要となります。
脳卒中を予防するためには、脳卒中を引き起こす危険因子の早期発見が可能となる健康診断や脳ドックを定期的に受けることが有用です。それらで指摘された生活習慣を改善し、必要な場合は薬物療法を開始することで危険因子をコントロールすることも大切になります。
脳卒中は無症状で発症していることもあり、無症候性脳梗塞などと診断されます。無症候でも過去に脳梗塞を起こしている場合は、脳梗塞の再発の恐れは大きくなりますので、脳ドックなどの検査によって古い病変を発見できれば、再発予防の治療を開始することができ、すなわち脳卒中の予防につながります。
脳ドックは何度もできるものではありませんが、日常生活で日ごろからできる脳卒中の対策も数多くあります。
最も基本的で脳卒中に関連付けられる因子は血圧です。高血圧は脳卒中の危険度・有病率ともに圧倒的に高く、それだけに最も注意すべき因子といえます。塩分を控える(推奨は一日あたり6gです)、水分を意識して摂るなど、生活習慣を見直すだけで血圧が安定することもあります。日本人は塩分過多の傾向にあり、男性で一日11.1g、女性で9.4gを摂取しているといわれています。高血圧を予防するために、自分がどれくらい塩分を摂取しているか計算してみるのもいいでしょう。
また、白衣高血圧(医者の前でだけ血圧が上がる)や仮面高血圧(医者の前では正常血圧だが、自宅で測定すると高血圧)など、自分の高血圧のタイプを把握しておくことも大事です。特に仮面高血圧は、診察時は正常血圧に近いため、高血圧であることを発見しづらいことが多いため、自分が仮面高血圧だと知っている方は事前に医師に申告しておくと診断がスムーズになります。
近年日本人間ドック学会では、いままでより緩和された血圧の基準を提唱しており、高血圧学会のガイドラインも以前の130/85から140/90に緩和されました。しかしながら、脳卒中の予防に関しては、血圧は低い程発症の予防につながることが報告されています。
事実、140/90未満で血圧をコントロールしている方でも、9年間で5%近くの方が脳卒中を発症していますが、130/85未満でコントロールしている方はほとんど脳卒中を起こしていないという報告もあります。基準値ぎりぎりの値で安心するのはおすすめできません。
不整脈の中の心房細動も、高血圧に比べると有病者の頻度は低いものの、脳梗塞のひとつの病型である心源性脳塞栓症(心臓にできた血栓が動脈から脳の血管に流れ、脳の中の大きな血管を詰まらせてしまう病気)の原因となりますので、こちらも早期にみつける必要があります。脳ドックの受診時は正常心電図と診断されても、ある日突然心房細動を引き起こす発作性の心房細動をもっている方もいます。そのような方は気づかないうちに脳梗塞(心原性脳塞栓症)を発症してしまう恐れもあるため、心房細動などの不整脈を持病に持つ方は病院を受診して、脳卒中を引き起こす恐れがないか確認した方がよいでしょう。
その他、水分を十分摂取することも重要です。日本人は水分の取り方が少ない方が多く、気候の変動などで脱水になりやすく、血栓ができやすくなり、脳梗塞に至るケースがあります。実際、脳梗塞は一年のうちで6月に一番多いことが報告されています。水分をとるとき、カフェインを適量に抑えた方がよいと考えます。緑茶やコーヒー、栄養ドリンク、風邪薬など、多くのものにカフェインは含まれているため、これらの飲み物などを多く撮る方は、カフェインを摂りすぎていないか振り返ってみることをお勧めします。
脳ドックは今の自分が正常であると安心するために来るのではなく、将来起こりうる病気を予防するために重要な検査です。そのことを頭において、積極的に脳の病気を予防していきたいというお考えのもとで脳ドックを受けていただければと思います。
「あなたは正常です」と医者に診断されて、そこで安心して自分の健康状態を放っておいては、脳ドックの良さが活かしきれません。
そもそも脳ドックは、脳の病気を初期段階で発見し、予防や進行を防ぐために作られた検査です。そのため、脳卒中を未然に防ぐために脳ドックを受けることは非常に重要だといえるでしょう。
脳ドックを受けることで、受けた方ご自身が脳卒中を予防するための意識が上向きになり、健康に対してより意識が高まるという効果も期待できます。
とくに家族に脳卒中で倒れた方がいる場合や、糖尿病などの生活習慣病を患っている方の場合は、脳卒中から身を守るために一度脳ドックを受けてみるといいでしょう。
記事1:脳ドックとは。脳ドックで何が分かるの?
記事2:脳ドックの費用はどれくらい?施設によって異なるため自分に合ったコースを
記事3:脳卒中の予防のために。脳ドックの重要性
脳卒中は高齢化や食生活の変化などが原因で年々増加傾向にある疾患です。脳卒中は発症後数時間以内の早期治療ができなければ命にかかわる危険性もあります。
国際医療福祉大学三田病院 予防医学センター長/神経内科、国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター教授
国際医療福祉大学三田病院 予防医学センター長/神経内科、国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター教授
日本神経学会 神経内科専門医・指導医日本脳卒中学会 脳卒中専門医・脳卒中指導医・評議員日本頭痛学会 認定頭痛専門医・指導医日本内科学会 認定内科医・指導医日本医師会 認定産業医
日本医科大学を卒業後、スウェーデン王国ルンド大学実験脳研究所助教授、日本医科大学神経内科准教授、同大学多摩永山病院脳神経内科部長を経て、現在は国際医療福祉大学三田病院予防医学センター長・神経内科教授を務める。2017年4月よりは、成田の医学部にて医学教育統括センター教授を兼ねている。神経内科全般、特に脳卒中、頭痛を中心に長年第一線の診療、教育、研究に携わってきた脳神経分野のスペシャリスト。予防医学から現場の臨床へのスムーズな連携を目指している。また、日本脳卒中学会評議員を始めとして、日本頭痛学会評議員、日本脳ドック学会監事、日本神経治療学会理事、日本脳循環代謝学会幹事など、様々な学会においても幅広く精力的に活躍している。
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