パソコンやインターネットが普及した現代の日本において、日頃から頭痛持ちだという方は増えてきているようです。そのなかでもとくに「片頭痛」は発作的に出現することが多く、激しい痛みが突然起こることで悩まされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この片頭痛は果たして治る病気なのでしょうか? どのように治療を進めていくのでしょうか? 国際医療福祉大学三田病院予防医学センター長・神経内科教授の桂研一郎先生にお話をお伺いしました。
片頭痛は「コントロールするもの」であり、「治る」ことは残念ながらありません。仮にストレスが全くない環境で永遠に平和な生活を送ることができれば治るかもしれませんが、生きていくうえでそのような状況に身を置くことはほとんど不可能でしょう。つまり、過度にストレスを受け続けている限りは治らないということです。
多くの片頭痛は、前述したような適切な処理をすることで一時的に治まりますが、毎日のように片頭痛が起きてしまう方やあまりにも長く痛みが続き、日常生活に支障が出るほど症状の重い方は治療が必要です。
また、整体やカイロプラクティックが頭痛治療に効くと宣伝している媒体もあるようですが、これらは片頭痛ではなく緊張型頭痛に効くものです。整体やカイロプラクティックなどで過激に首を弄りまわされると、血管を痛めてしまう可能性があり脳動脈解離(脳動脈の血管が裂けてしまう病気)やそれに伴う脳梗塞をおこしてしまうこともあります。ですから、自分のできる範囲でストレッチをする程度にとどめておきましょう。
「たかが片頭痛」と思われるかもしれませんが、片頭痛はれっきとした「病気」です。きちんと医師の診察を受けて、適切な治療を受けましょう。
頭痛専門外来というものが、近年増えてきています。その認定頭痛専門医に診てもらうのが確実ですが、片頭痛と思っていたら実は脳卒中など重大な病気の前兆であったという可能性もありますので、心配な方は神経内科、または脳神経外科を受診することをお勧めします。
(参考:日本頭痛学会ウェブサイト)
薬物は対処療法としては有効ですし、前述した適材適所の薬物使用は症状を緩和するためにも有効活用しておきたい手段です。しかし、手っ取り早いからと言ってむやみやたらに市販の痛み止めを服用してしまうのはお勧めできません。
最近は片頭痛持ちの患者さんが「薬物乱用頭痛」と呼ばれる状態に陥っているケースも増えています。これは、頭痛薬を過剰に服用することが原因となって、頭痛が起きる頻度が増えたり、痛みが増したりする状態のことを言います。市販薬の過剰服用から陥る症例も少なからずあり、注意が必要です。
・日ごろからストレスを過剰に溜め込み過ぎないようにすること(解放された時、反動で片頭痛が起こるため)
・食生活・生活習慣に気を付けること、
・飲酒、喫煙をほどほどにすること
以上のように、生活習慣で気を付けられることは多々ありますが、大事なことは「たかが片頭痛で病院に行くなんて恥ずかしい・面倒くさい」と思わず、片頭痛を感じたら病院を受診してしっかりと検査を受け、診断をしてもらうことです。
これにはきちんとした理由があります。片頭痛は致死的ではない病気ですが、他の重大な病気である可能性を除外する必要があります。つまり、片頭痛はまず診断をしっかりしてから薬を飲まないと、危険な病気を見逃してしまう可能性があるということです。まず生命に関わる可能性がある二次性の頭痛(脳血管障害、くも膜下出血、脳動脈解離、脳腫瘍など)でないかどうかを鑑別診断し、それを否定した後に、一次性の頭痛(片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛など)の鑑別診断を行うことが重要なのです。
前述した片頭痛の特効薬・トリプタン系薬剤は血管を収縮する作用があるため、脳血管障害などには逆に危険な薬です。このように、二次性頭痛を除外診断することで、安全で適当な処方をすることができるのです。
基本的に最初は通常の痛み止め(消炎鎮痛薬:NSAIDなど)で様子を見ながらMRI、MRA検査を行い、血管や脳実質に異常がないかどうかを確認したうえで、しっかりと除外診断をしてからトリプタンなどの片頭痛治療薬を処方したほうがよいと私は考えます。
最後に私から、患者さんへのメッセージをお伝えします。まず、なによりも片頭痛は片頭痛であるとしっかり診断してもらってから薬を飲んでください。前述したように、片頭痛と言ってもなかには危険な片頭痛がある程度含まれている可能性があります。ですから、それらの疾患ではないことを、MRI・MRAなどの検査を受け、はっきりと明確化させたうえで、必要であれば薬を飲むようにしてください。決して自己判断でトリプタン系薬剤などの薬を飲んではいけません。
また、比較的若い女性に多いため、患者さんが低用量経口避妊薬を服用されている場合がありますが、前兆がある片頭痛の場合、経口避妊薬の服用は脳梗塞を起こしやすくなるため原則として禁忌となっています。
片頭痛はいまだにそのメカニズムが解明されておらず、専門の医師にとっても適切な診断・治療をすることは簡単ではなく、頭痛は苦手と感じる医師が多いのが現状です。ですから、もしもあなたが今片頭痛に悩んでいるのならば、近くのお医者さんではなく、しっかりと片頭痛に対する知識を蓄えている頭痛の専門医か神経内科、または脳神経外科を受診することをお勧めします。
国際医療福祉大学三田病院 予防医学センター長/神経内科、国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター教授
国際医療福祉大学三田病院 予防医学センター長/神経内科、国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター教授
日本神経学会 神経内科専門医・指導医日本脳卒中学会 脳卒中専門医・脳卒中指導医・評議員日本頭痛学会 認定頭痛専門医・指導医日本内科学会 認定内科医・指導医日本医師会 認定産業医
日本医科大学を卒業後、スウェーデン王国ルンド大学実験脳研究所助教授、日本医科大学神経内科准教授、同大学多摩永山病院脳神経内科部長を経て、現在は国際医療福祉大学三田病院予防医学センター長・神経内科教授を務める。2017年4月よりは、成田の医学部にて医学教育統括センター教授を兼ねている。神経内科全般、特に脳卒中、頭痛を中心に長年第一線の診療、教育、研究に携わってきた脳神経分野のスペシャリスト。予防医学から現場の臨床へのスムーズな連携を目指している。また、日本脳卒中学会評議員を始めとして、日本頭痛学会評議員、日本脳ドック学会監事、日本神経治療学会理事、日本脳循環代謝学会幹事など、様々な学会においても幅広く精力的に活躍している。
桂 研一郎 先生の所属医療機関
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