片頭痛とは、原因となる疾患がないにもかかわらず、頭の片側にドクドクと脈打つような激しい痛みが生じる疾患です。片頭痛には客観的な診断の指標がないので他者から理解されにくく、病院を受診することをためらってしまい市販の鎮痛剤で症状を紛らわしている患者さんも少なくありません。しかし、鎮痛剤の過度な使用はかえって頭痛を悪化させてしまう恐れがあり、よい方法とはいえません。
片頭痛に対しては、非常に効果的な治療薬(トリプタン製剤)があります。これをタイミングよく服用することで、症状をかなり改善させることができるのです。ですから片頭痛を治療する場合は、まず専門医のもとで診断を受け、服薬のタイミングや予防法を医師と相談することが大事になります。記事1に引き続き、慶応義塾大学病院神経内科教授の鈴木則宏先生に、片頭痛の治療法と対処法についてお話しいただきます。
記事1『その頭痛は本当に片頭痛?片頭痛のメカニズムから原因、症状、見分け方まで』で、片頭痛の患者数は840万人ほどいるにもかかわらず、治療を受けている方はほとんどいないとお話ししました。では、なぜ患者さんは治療を受けられないのでしょうか。これには理由があります。
片頭痛の患者さんの多くは、「ただの頭痛ではきちんと診てもらえないだろう」と思ってしまい、病院にいらっしゃいません。ですからそもそも頭痛を主訴に外来を受診する方が少ないのです。これに加えて、日本には頭痛の専門医が少なく、正しい診断をできる医師があまり多くいません。実は片頭痛などの一次性頭痛よりも、脳出血や脳梗塞といった原因疾患に伴う二次性頭痛を発見するほうが容易で、専門医以外の場合は検査でこうした重大な病気の所見が何も見つからなければ「異常なし」と診断して返してしまうこともあるほどです。痛みを治してほしいと病院に行ったのに、鎮痛剤を処方されて終わりでは患者さんは納得がいかないでしょう。このような悪循環によって、片頭痛の治療を受ける方は少なくとどまっているのです。
片頭痛を治療せず放置することで生じる最大の問題は、社会的影響だと考えます。
記事1『その頭痛は本当に片頭痛?片頭痛のメカニズムから原因、症状、見分け方まで』でご説明したとおり、一次性頭痛は他の原因疾患を伴わない、頭痛本体を病態とした特殊な疾患であるため、頭痛以外にはどのような異常も見当たりません。また、痛みとは主観的な感覚ですから、他者は客観的に容態を確認できません。このため、片頭痛は周囲の方々の理解を得にくいのです。
こうした状況下に置かれてしまうと、患者さんは人に理解されないことが苦しくて徐々に引きこもりがちになり、ついには会社や学校に行けなくなってしまいます。こうして、患者さんの人間関係や雇用に支障をきたすことが、片頭痛を治療しないと起こりうる最も大きな問題です。
片頭痛は薬物治療によってその症状を劇的に改善することができます。現在では、トリプタン製剤という薬が片頭痛治療の第一選択薬とされています。トリプタン製剤は脳のセロトニン受容体(脳内の神経伝達物質であるセロトニンを受け取る器官)に作用して、血管拡張性物質(calcitonin gene related peptide:CGRP)という物質によって拡張した血管を収縮させ、さらに血管周囲の炎症を抑制します。この結果、片頭痛の症状が改善するのです。
かつてより片頭痛の改善にはセロトニンが関与しており、セロトニンを注射すると片頭痛の症状が治まるとされてきました。しかしその一方で、注射によって高血圧や頻拍などの危険な症状も起こるので、治療には長らく使えなかったのです。ところが1990年代に、数種類あるセロトニン受容体のうち5-HT1の中には1型から7型の亜型がみられ、このうち1型の中の1Bおよび1Dの受容体は脳血管内に多く、脳血管の収縮に作用して鎮痛効果をもたらすことが判明します。セロトニン投与によって1B、1Dの双方を活性化させれば、血管拡張が収縮して痛みが止まることになります。
この仕組みが解明され、2000年代には実際にトリプタン製剤が片頭痛の治療に適応となり始めました。現在においても、トリプタン製剤は一般的に片頭痛の治療に対して幅広く使用されています。
トリプタン製剤は、適切なタイミングで服用しなければ効果がありません。片頭痛による痛みを自覚し始めた直後に服薬すると最も高い効果を得られます。目がちかちかしてくる(視覚前兆)、肩こり、吐き気などの予兆の段階で服用しても効かないので注意が必要です。
その他、患者さんによってはてんかん抑制剤であるバルプロ酸やβブロッカー、三環形抗うつ剤が効くことがありますが、この理由はよくわかっていません。
ただ、バルプロ酸は女性が服用すると催奇形性(妊娠した場合、胎児に奇形が現れる)をもたらす恐れがあり、βブロッカーは血圧が下がり脈拍数が減るので、注意が必要です。
しかしながら、トリプタン製剤による治療は対症療法(片頭痛の症状を緩和する治療法)であり、根治治療ではありません。そのため、現在は片頭痛の根治治療の確立に向けて、様々な臨床研究が行われています。
片頭痛を根本的に治療する方法を見つけるため、世界各地で活発に治験が行われている最中です。特に現在では、ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体を用いた血管拡張性物質(calcitonin gene related peptide:CGRP)ブロック治療が注目を集めています。
片頭痛の根治治療を考えるにあたっては、なぜCGRPによって後頭葉が興奮し片頭痛の前兆を呈するかを考える必要があります。後頭葉自体に何らかの機能的な問題があるという説や、脳の深い部分にある神経細胞の機能が異常をきたしていて、それが何かのタイミングで興奮して症状が出るという説など、様々な仮説が提唱されています。片頭痛の前兆が、頭痛を引き起こす脳の異常現象を解明するにあたって鍵になることは確かです。そのため、血管拡張性物質を抑制する治療法が根本的な治療になるという仮説に基づき、現在の治験が行われています。
このように、片頭痛は根治治療の可能性がみえてきている状況であり、今後のさらなる治療の発展が望まれます。
頭痛外来では、トリプタン製剤を服用する適切なタイミングを見定めるために、患者さんに頭痛の日記をつけていただいています。診察時には医師と一緒に日記をみて相談しながら、いつ・どのタイミングで薬を服用すべきかを判断していきます。適切なタイミングでしっかりと薬を服用できていれば、片頭痛の症状は飛躍的に改善します。
日記は頭痛学会のホームペーシからダウンロードが可能です。患者さんには、片頭痛で病院を受診する前に、数週間ほどご自身で頭痛の日記をつけることをお勧めしています。
朝・昼・夜の時間帯のうち痛む時間、痛みの種類(どのような痛みか)といった情報に加え、月経開始日や低気圧の日、台風の日、風邪をひいた日など、診断のポイントになりうる情報をなるべく細かく記載すると、初診時の診断がスムーズにいきます。病院を受診する際は、この日記を持参するようにしてください。
頭痛の日記の記載方法
1. 1枚が4週間の記録となっており、月曜日からスタートします。頭痛が起こった日付を入れてください。
2. 月経期間に線を引いてください。
3. 一マスが1日で、午前・午後・夜に分けてあります。頭痛の起こった時間帯に合わせて、頭痛の程度を3段階(重度 +++・中等度++・軽度+)で記載し,下段に使用した薬剤名と効果(効いたかどうか)を記載してください.効いた場合は薬剤名の略称を○、やや効いたら△で囲んでください。
4. 影響度のところへは日常生活にどれくらい影響があったかを3段階で記載してください。
5. MEMOの欄にはずきんずきんとした痛みかどうか、光や音に過敏になったか、吐きけがあったか、などを記載してみてください。頭痛を引き起こしたと考えられること、たとえばイベント、外出、天気、寝すぎ、など気がついたことを書いてください。
(日本頭痛学会より引用)
頭痛の日記のダウンロードはこちらから http://www.jhsnet.org/pdf/headachediary.pdf
日本人の場合、赤ワインを飲むと片頭痛が悪化することが多いのでなるべく控えましょう。海外ではチーズやチョコレートなどの食品でも片頭痛が助長されると報告されていますが、日本ではこうした食品の摂取量が海外と異なるためか、これらによって片頭痛が誘発される方は多くありません。
片頭痛の悪化因子は個人の体質によって異なり、朝に起床してカーテンを開けた途端に頭痛を起こす方もいれば、ストレスから解放された瞬間に頭痛が訪れる方、香水の匂いが頭痛の悪化因子になる方など様々です。
患者さんご自身がどのようなときに症状が悪化するかを知っておき、その悪化因子を避けるように心がけることも片頭痛の対処法の一つといえます。
片頭痛の患者さんの多くは、市販の鎮痛剤を常用しています。仕事や学校を休んで病院を受診せずとも、薬局に行けば鎮痛剤を買えるからです。また、頭痛が酷くなる前段階で予防的に服用することが多いので、無意識のうちに服用量が増えていきます。
確かに市販の鎮痛剤は片頭痛の急激な症状を一時的に和らげる効果がありますが、やみくもな服用は推奨されません。片頭痛または緊張型頭痛の患者さんが2週間以上にわたって規定量以上の鎮痛剤を服用すると、薬物乱用頭痛という鎮痛剤の使用過多による頭痛を引き起こす恐れがあるからです。片頭痛を和らげる目的で薬を飲んでいるのに、頭痛が悪化することになってしまいますから、むやみに市販の鎮痛剤を使用しないようにしましょう。
片頭痛や群発頭痛などの一次性頭痛の専門外来を行っている病院は各地にあります。日本頭痛学会のホームページから、片頭痛の治療を行っている全国各地の病院を検索することが可能です。
まずはご自分の頭痛が、いつ・どのようにして起こるかを振り返ってみましょう。記事1『その頭痛は本当に片頭痛?片頭痛のメカニズムから原因、症状、見分け方まで』でご紹介した通り、ドクドクと脈打つような痛みがあり嘔吐を伴う場合や、前述した悪化因子との関連がある場合は片頭痛である可能性が高いといえます。この場合は、たかが頭痛と考えずに病院を受診してください。片頭痛の治療薬は薬局では買えませんが、病院で医師の診断を受け、適切な薬物療法をすれば症状は劇的に改善します。人間の恐怖である「痛み」を患者さんから取り除くために、我々頭痛専門医がしっかりとサポートしてきます。ですから頭痛に苦しむ方には、ためらわずに病院に来ていただきたいと考えます。
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