インタビュー

女性の頭痛――ライフステージごとに起こりやすい頭痛とその治療法

女性の頭痛――ライフステージごとに起こりやすい頭痛とその治療法
稲垣 美恵子 先生

社会医療法人 愛仁会 千船病院 産婦人科 主任部長

稲垣 美恵子 先生

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片頭痛緊張型頭痛は男性よりも女性に多く、その要因の1つに女性ホルモンの関わりがあると考えられています。そのため、ライフステージごとに症状の現れ方や重症度も変化していきます。また、年齢を重ねるにつれて脳卒中などの緊急性の高い病気が原因で頭痛を発症するリスクが高まるため、それらの症状を見逃さずに適切な診断・治療を受けることが重要です。

今回は、千船病院 産婦人科の主任部長である稲垣 美恵子(いながき みえこ)先生に女性に多い頭痛の特徴や治療、緊急性の高い頭痛を見逃さないための受診目安などについてお話を伺いました。

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頭痛は、はっきりとした原因疾患がみられない“一次性頭痛”と、原因となる病気が存在する“二次性頭痛”に大きく分けられます。

一次性頭痛の中で女性の有病率が高い頭痛には、片頭痛緊張型頭痛などがあります。女性に片頭痛が多い理由には、遺伝的要因や環境要因など複数の要因が関連しているといわれていますが、月経や妊娠、更年期に伴う女性ホルモンの変動が一番重要な要因だと考えられています。緊張型頭痛は20~50歳代においては男性の1.5倍程度女性に多いとされますが、その理由ははっきり分かっていません。

一方、くも膜下出血などが原因で起こる危険な二次性頭痛の中には男性よりも女性に多いものもあります。本記事では、女性に多い一次性頭痛である片頭痛と緊張型頭痛を中心にお話しします。

片頭痛はズキンズキンと拍動するような痛みが発作的に起こる頭痛です。片頭痛という病名のために頭の片側に症状が出ると思われている方もいるかもしれませんが、40%程度の患者さんは両側が痛むことが分かっています。日本における有病率は、男性3.6%、女性は12.9%です。特に女性は男性よりも片頭痛発作の頻度が高く、発作の持続時間や回復までの時間も長く、生活への支障度が高いことが知られています。

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成人の場合、中等度~重度の痛みが4~72時間持続し、日常的な動作により頭痛が悪化するのが特徴です。一方、お子さんの片頭痛では、両側の前面側頭部痛が2~72時間持続することが多いのが特徴です。

片頭痛に伴って吐き気をもよおしたり、光や音に過敏になったりする場合もあります。なお、片頭痛のある方の30%程度は、頭痛発作が起こる前に閃輝暗点(せんきあんてん)*やしゃべりににくくなる、ちくちくした嫌な感覚がするといった前兆症状がみられます。

*閃輝暗点:視野の中に突然ギザギザした光が現れ、見えない部分が拡大していく現象。症状が5~60分間続いた後に頭痛が始まる。

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緊張型頭痛は、頭の両側を締め付けられるような痛みが生じる頭痛です。症状の強さは軽度~中等度とされており、後頚部(こうけいぶ)(うなじ)や首の横を触診で押して痛みを伴うものと伴わないものに分類されます。

日本における有病率は男性18.1%、女性26.4%で、男性よりも女性に多い頭痛です。体を動かしたりお風呂に入ったりすると改善する方が多いようです。

若いときに発症した一次性頭痛は、ライフステージの変化とともに痛みの現れ方が徐々に変化していきます。以下では、思春期、性成熟期、更年期、老年期という女性のライフステージごとに現れる頭痛の特徴について解説します。

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思春期に起こる一次性頭痛は、片頭痛が多いといわれています。また、心理社会的要因から慢性連日性頭痛となり、不登校につながるケースもこの年代から増えてきます。ゲームや動画視聴など過度な電子機器の利用、睡眠リズムの乱れ、人間関係の悩みが発症要因になっている場合には、その問題が解決すれば頭痛の改善につながることもあります。

月経前や月経時に頭痛がある場合には、エストロゲンという女性ホルモンの急激な変動によって引き起こされる“月経時片頭痛”が疑われます。市販の痛み止めが効かない月経時の頭痛で困っている方は、医療機関で診療を受けましょう。また、思春期の子宮内膜症*と片頭痛に関連性がみられたという報告もあるため、月経時に片頭痛とともに中等度以上の心身の不調(月経困難症)を抱えている方は、子宮内膜症がないか婦人科で一度相談することをおすすめします。

思春期に二次性頭痛が起こるのはまれですが、起立性調節障害**やウイルス感染、アレルギー性鼻炎脳腫瘍(のうしゅよう)などによって頭痛が生じている可能性もあります。日ごとに悪化していく頭痛や立ちくらみなどを伴う頭痛がある場合は、早めの受診を考慮しましょう。

*子宮内膜症:子宮内膜などの組織が子宮以外の場所にできる病気。
**起立性調節障害:自律神経の乱れによりめまいや立ちくらみ、頭痛などの症状が現れる病気。

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性成熟期は片頭痛の有病率が高い時期にあたり、30歳代女性の20%程度に片頭痛があるという報告もあります。加えて、妊娠や出産、授乳などによっても片頭痛の病態は変化します。

特に性成熟期は月経周期が安定する時期なので、月経時片頭痛が問題になることが多いと考えられます。月経時の片頭痛発作はほかの時期の片頭痛発作と比べて、持続時間が長い、吐き気が出やすい、薬が効きにくい、再発しやすいといった特徴があるため、日常生活に重度の支障をきたす恐れがあります。

また、性成熟期は出産や育児などのライフイベントに加えて、仕事も忙しい時期といえます。長時間のデスクワークであったり、運動不足に陥っていたりすると緊張型頭痛を発症しやすくなると考えられるため、当てはまる生活習慣のある方は注意しましょう。

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更年期にはエストロゲンの変動が大きくなり、片頭痛発作が起こりやすくなります。片頭痛の特徴ともいえる血管の拍動性の痛みが目立たなくなり、どんよりとした重苦しい痛みに変化する場合があります。また、更年期は肩こりやストレスを原因とする緊張型頭痛が悪化しやすい時期にあたると考えられます。したがって、片頭痛と緊張型頭痛との鑑別が難しくなるといえるでしょう。なお、更年期は二次性頭痛にも注意が必要となる時期にあたります。更年期になって初めて急に頭痛を発症した場合には緊急性の高い頭痛である可能性を考え、すぐに病院を受診ください。

更年期には薬剤の使用過多による頭痛が増えることが知られていますので、頭痛の薬を飲んでいるにもかかわらず頭痛が悪化している場合には、なるべく早く医師に相談しましょう。また、更年期障害の治療のために閉経の周辺期にエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)を行うと、それによって片頭痛が悪化する例も報告されているため、経過を観察しながら治療を進めていくことが大切です。

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閉経すると片頭痛の患者さんの70%弱で症状の改善がみられますが、閉経後も10%弱は片頭痛の患者さんがいます。一方の緊張型頭痛は高齢になって発症することもあり、症状の悪化を訴える患者さんも多いのが特徴です。これには、運動不足や筋肉が凝り固まりやすいといった要因が関係していると考えられます。

また、更年期から老年期にかけては二次性頭痛に気を付ける必要があります。二次性頭痛につながる緊急の対応が必要な頭痛のこともありますので、普段と異なる頭痛や突然の強い頭痛を発症し、手足のしびれや麻痺、物が二重に見える、ろれつが回らないなどの症状を伴う場合にはすぐに病院を受診しましょう。

1.緊急性の高い頭痛の特徴

これまでに経験したことのないような重度の頭痛や雷鳴頭痛(激しい痛みが急激に生じる頭痛)が出現したり、外傷後に頭痛を発症したり、50歳以降に初めて頭痛を生じたりした場合には二次性頭痛が疑われます。また、今までとは頭痛の症状の出方やその経過が異なる場合にも、二次性頭痛の可能性があるため注意が必要です。

2.二次性頭痛に伴う症状

頭痛とともに以下の症状が出ている場合には二次性頭痛が疑われます。

  • 発熱
  • 一過性の意識消失
  • 痙攣(けいれん)
  • 運動麻痺
  • しびれ
  • 感覚障害
  • 姿勢の保持困難
  • 吐き気
  • めまい
  • 言語障害
  • 視野障害

3.受診すべき診療科――日中は脳神経内科や脳神経外科、夜間は救急外来へ

上記に当てはまる症状がある方は、日中であれば脳神経内科や脳神経外科、かかりつけの病院をすぐに受診ください。夜間に発症した際には、救急外来を速やかに受診することがすすめられます。

市販の解熱鎮痛薬ですぐに楽になり、動くことができるようであれば様子を見てもよいでしょう。慢性頭痛の場合、痛みが現れていなくても診断することは可能ですので、症状が落ち着いてから受診してもよいと思います。ただし、薬を服用しても症状が改善せず、日常生活に支障をきたしているのであれば、脳神経外科や頭痛外来などを受診しましょう。

まず問診で症状を伺い、二次性頭痛が疑われる場合にはCTやMRIなどの画像検査を行います。症状によっては脳波を確認したり、甲状腺機能や貧血、炎症の有無などを血液検査で調べたりすることもあります。

片頭痛の治療は薬物療法と薬物療法以外の治療(非薬物療法)に大別されます。それぞれの治療法の特徴は以下のとおりです。

薬物療法――急性期治療、予防療法について

薬物療法には急性期治療と予防療法があります。どちらの場合にも患者さんの症状や合併症、薬の副作用、職業などを考慮したうえで治療薬の選択を行います。

  • 急性期治療:鎮痛薬などを用いて痛みを和らげ、機能回復を図る治療。
  • 予防療法:急性期治療だけでは十分な効果が得られない場合に、発作の頻度や程度の低減のために行う薬物療法。

具体的には、片頭痛の発作が月2回以上起こっている場合には、予防療法の適応となります。予防薬の中でも2021年に新たに承認された抗CGRP関連抗体製剤は、重度の片頭痛に悩む方の新たな治療として期待されています。従来の内服薬を用いた予防療法では、効果判定をするために最低3か月間は毎日服用が必要で、治療効果がみられないためにそれ以前に服用を止めてしまい、元の状態に戻ってしまう例が多いとの指摘もありました。一方、抗CGRP関連抗体製剤は効果の発現が早く、症状が改善して卒薬するケースもあります。しかし、費用負担が大きい薬ですので、医師と相談のうえ適切に治療を進めていくことが重要です。

非薬物療法

片頭痛を正しく理解して行動を是正していくための“行動療法”や、片頭痛の予防につながるヨガや頭痛体操などの“運動療法”が代表的です。行動療法の一環として、就寝前にスマートフォンなどの電子機器の使用を控えたり、自身の頭痛の症状を記録したりするのもよいでしょう。

緊張型頭痛では、基本的にはアセトアミノフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬を用いて症状の改善を図ります。頭痛の回数が多い場合などは予防療法を行うこともありますが、いずれにしても内服薬による薬物療法が中心となります。

非薬物療法としては、数時間デスクワークをしたら体を伸ばしたり、マッサージや入浴、ストレスをためないように心がけたりすることがすすめられます。

一次性頭痛に対しては、漢方治療を行うことも可能です。漢方治療を行う場合には、頭痛以外に冷えや吐き気、むくみ、めまい、肩こりなどの症状があるか、どんなときに頭痛が出やすいかなどを確認します。それらをもとに、頭痛の原因と考えられる症状を改善する効果のある漢方薬を処方します。

漢方薬のみで症状が改善する場合もありますが、当院では前述の薬物療法と併せて処方を検討するようにしています。

頭痛の治療薬の中には、少ないものの胎児に影響を及ぼす可能性がある薬があります。したがって、妊娠を希望されている方は、事前に主治医に相談することをおすすめします。また、妊娠が判明した場合には服薬を中止し、主治医の判断を仰ぎましょう。

授乳中は、個々の薬剤について母乳への移行率などを検討し、赤ちゃんの月齢なども考慮したうえで、適切な薬を使用するようにしています。

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頭痛を予防するためには、まずは頭痛の悪化要因を知ることが大切です。具体的には、頭痛ダイアリーやアプリを用いて、いつ頭痛が起こりどのような痛みがあったか、生活への支障度はどの程度か、薬の内服の有無といった事項を記録することが有効と考えます。当院では患者さんがつけた記録をもとに頭痛を悪化させている生活習慣がないか確認し、大事な予定の前は悪化要因を避けるよう指導しています。

たとえば、光で片頭痛が悪化しているようであればサングラスをかけて光を遮る、血流が悪いことで緊張型頭痛が悪化しているようであればストレッチを行うなどの対策を事前に講じることができるでしょう。

片頭痛の発症には食事も関与していることが明らかになっています。欠食を避けてマグネシウムやビタミンBなどを多く含む食事を取ることを心がけましょう。なお、チョコレートやチーズ、アルコール、カフェインなどによって頭痛が誘発される方は、大事な用事の前などは避けることをおすすめします。

頭痛を悪化させないように好きな食べ物を一切断ってしまい人生の楽しみが減るようでは本末転倒ですので、スケジュールや体調などを加味して食事内容を上手に調整いただくのがよいでしょう。

頭痛は我慢するのが当たり前」「月経痛更年期障害の一種だから仕方がない」と思い込んでしまい、適切な診断や治療に結び付いていない頭痛患者さんが多くいらっしゃいます。近年、新たな頭痛の治療薬が開発され、患者さんの症状に合わせた治療ができるようになってきています。ですから、慢性的な頭痛に悩んでいる方は1人で抱え込まず、日本頭痛学会認定の頭痛専門医の一覧を参照したり、かかりつけ医に紹介してもらったりして、頭痛診療を専門とする医師に受診いただきたいと思います。

つらい頭痛を改善することで生活の質が向上し、人生をよりいっそう楽しめるようになるかもしれません。女性のライフステージを考慮した頭痛治療が可能な医療機関もありますので、頭痛に対する不安や悩みなどについて医師に気軽にご相談ください。

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