頭痛全体の9割強にあたる一次性頭痛の大部分を占めるのが片頭痛と緊張型頭痛ですが、両者が合併することもめずらしくありません。ただし、頭痛のタイプによって対処法・治療法が異なるため、どちらのタイプの頭痛なのか、あるいはどのような形(重症度を含む比率)で合併しているのか、正確に見極める必要があります。
片頭痛と緊張型頭痛の見分け方とそれぞれの対処・治療法、これらが合併する際に留意すべき点について、北里大学北里研究所病院・頭痛センター長の飯ヶ谷美峰先生に伺いました。
片頭痛は、①拍動性の痛み、②吐き気をともなう、③光や音、においに敏感になる、という3つのキーワードであらわされます。
患者さんはしばしば①拍動性頭痛の特徴を、「脈を打つような」とか「心臓が頭の中に入って来たよう」と表現されますが、片頭痛の多くはドックンドックンと血液の拍出に合わせて痛みが起こります。また、②は症状が重いと吐き気だけにとどまらず、嘔吐を繰り返してトイレから出て来られなくなることもあります。③は、通常であれば気にならない「光」や「音」、香水や洗剤、食べ物などの「におい」を不快に感じたり、過剰に反応することで痛みを悪化させたりします。なかには「拍動性の痛みではない」という方もおられますが、片頭痛の患者さんの多くがこの3つの特徴を併せ持っています。ただし、一人の患者さんでも、各頭痛発作のパターンは一様ではありませんし、めまいや耳鳴りをともなうこともあります。
また、キラキラした光が次第に視界全体に広がり、視野が白く抜ける視覚前兆や手足のしびれ、失語性言語障害は片頭痛の発作に先行してあらわれる「前兆」の代表例ですが、こうした前触れも片頭痛全体の2割程度にしかみられません。
生理周期に連動してあらわれる片頭痛発作(月経関連片頭痛)を生理痛の一つだと勘違いしている人は少なくありません。市販の「生理痛のための鎮痛薬」が効かなくて苦しんでおられる方も少なくないようですが、腹部の痛みと頭痛は分けて考える必要があります。月経中の頭痛のコントロールは非常に難しく、生理痛を抑えるために服用する鎮痛薬とは別に、片頭痛に効果的な治療薬を併用することでもっと楽に過ごせるようになることが多いのです。
緊張型頭痛では、「圧迫されるような」「しめつけられるような」あるいは「重い」痛みが特徴的です。吐き気が起こることもありますが、嘔吐するまでひどくなることはまずありません。緊張型頭痛は「なんか頭が重いな」と思いながらも、日常の生活がかろうじて続けられる範囲の痛みであることがほとんどです。
緊張型頭痛を誘発する因子として、以下のものが挙げられています。
・ストレス、精神的な緊張、疲労、
・不安・抑うつ
・姿勢異常、ストレートネック
・顎関節の異常
・視力低下 などです。
<参考記事> 「日常生活に支障のある「繰り返し起こる頭痛」その種類や原因、特徴は? 頭痛のタイプを見極めることが重要」
一次性頭痛の大半を占める緊張型頭痛と片頭痛ですが、これらが合併することもめずらしくありません。ただし、両者は対処法・治療法が異なるため、本当に合併しているのか、どのように合併しているのかを見極めておく必要があります。両者を見分けるために、頭痛ダイアリーを用いて頭痛を記録することが有用です。
頭痛の起こり方、自身の行動や置かれた状況を記録することは診断に役立つだけでなく、「このときは緊張型頭痛だったんだな」とか「片頭痛が起こっていたんだ」などと発症パターンを客観的に振り返ることができ、その学習成果を発作への対応や薬の使い分けに反映させることができます。
片頭痛もかつては正しい診断が下るまでに何年もかかったり、効果的な治療法がなく鎮痛薬を飲んで寝ているしかありませんでした。しかし、10年程前に片頭痛に有効な治療薬であるトリプタン系薬剤が登場し、片頭痛についても積極的に治療しようという機運が高まり現在に至っています。実際、正しい治療薬を選択し、薬剤の使用過多に陥らなければ、いまや「片頭痛は治せる病気」です。とくに女性は閉経後に頭痛発作が治まることも多いのです。
一般に、片頭痛の治療に用いられる薬剤は以下の通りです。
・トリプタン(スマトリプタンコハク酸塩など)
・アセトアミノフェン
・非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)
・制吐薬(メトクロプラミドなど)
また、10分から20分、人によっては1時間近くも続く不快な「前兆」ですが、残念ながら前兆そのものに対する治療法は確立されていません。ただし、ある種の漢方薬が奏効する人もいますので、主治医に相談してみてください。
一方、緊張型頭痛には以下のような鎮痛薬、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を用います(頓用)。
・アセトアミノフェン
・アスピリン
・イブプロフェン
・ジクロフェナクナトリウム
・ロキソプロフェンナトリウム水和物など
なお、片頭痛に著効するトリプタン系薬剤は緊張型頭痛には効きません。使っても害はありませんが、薬価が高いので、今起きている頭痛がどちらかを見極めて薬を使いこなすことが重要です。
頭痛薬を服用し過ぎることによって起こる「薬剤の使用過多による頭痛」には注意が必要です。痛みが起こる恐怖と不安から、市販の鎮痛薬や、トリプタン系薬剤などの処方薬を使い過ぎてしまうことが意外に多いのです。急性期の治療に用いる薬を予防的に服用するのは避け、市販薬・処方薬を問わず頭痛薬は指示通りの回数と用量を守りましょう。実際、痛みの渦中にいると自分がどのくらい薬を飲んだかおぼえていないことも多いので、服薬管理という意味でも頭痛の記録(頭痛ダイアリー)をつけることは重要です。
頭痛学会では、薬剤使用過多による頭痛を防ぐために、「頭痛薬の服用が月10日を超えたら要注意」という啓発活動を行なっています。月10日を超えるほど薬の効きが悪ければ、治療法の再検討が求められます。
服薬が月10日を超える、頭痛が起きてからの治療では効果が十分ではなく、月に何回も学校や会社を休んでしまう-このような状況であれば、予防療法を考慮します。予防療法は、①発作の頻度や重症度を軽減する、②発作時の治療への反応を改善する、③QOL(生活の質)の向上 をおもな目的としています。予防薬は原則として、毎日服用します。
●片頭痛の予防療法に用いられる薬
・抗うつ薬(アミトリプチリン塩酸塩など)
・降圧薬(プロプラノロール塩酸塩、ロメリジン塩酸塩、高血圧の合併があれば、リシノプリルやカンデサルタン シレキセチルなど)
・抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム、トピラマートなど)
●緊張型頭痛の予防療法に用いられる薬
・抗うつ薬
・抗不安薬(エチゾラム)
・筋弛緩薬(エペリゾン塩酸塩)
薬の元々の適応症をみると驚くかもしれませんが、薬の作用は多面的であり、たとえば、三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)は、痛みの域値を上げる作用が望めます。域値を上げるとはつまり、「これくらいで痛いと感じていた」のを「これくらいでは痛くない」と感じるようにすることです。
今のところ予防薬の選択基準はなく、主治医の判断で使い分けていくことになります。たとえば、抑うつ傾向のある人には抗うつ薬を処方することで頭痛の頻度が減ることがありますし、血圧が高い人には降圧薬を用いることで併存疾患の治療を兼ねることもできます。
誰にでも効く薬は残念ながらありません。その人に合った、随伴する症状を見ながら効果が得られる薬を試行錯誤しながら見つけていきます。予防療法をいつまで続けるかについても決まりはありません。治療がうまくいって病態がある程度落ちついてきたら、薬を減らす提案をします。また、妊娠中は片頭痛の発作が治まることが多いので、最初に「妊娠したら予防療法は一旦やめます」とお話ししています。
片頭痛と緊張型頭痛が合併している場合には、まず、それぞれがどのくらいの比重で合併しているかをみます。たとえば、片頭痛の発作が頻繁に起こっていて、緊張型頭痛はたまにしか起きない人もいれば、ベースに緊張型頭痛があって、月に1回程度片頭痛発作が起きるという人もいます。発作のパターンに応じてどこに重きを置いた治療にするかを決めていきます。
また、片頭痛にも緊張型頭痛にも適度な運動は有効です。運動、とくに水泳や、ジョギングなどの有酸素運動は、脳内のセロトニンを増やす効果があることが知られており、片頭痛の予防につながるからです。緊張型頭痛はデスクワーク中心の人に多くみられ、ストレスや運動不足が誘因になることがあります。そうした方にも、有酸素運動で体をほぐすことは有効です。短時間でも毎日行うことができるラジオ体操もおすすめです。それで軽快しない場合には、筋弛緩薬や抗うつ薬などを用いた予防療法を検討します。
どの病気についても同じことがいえると思いますが、不安は痛みや症状を悪化させます。したがって、頭痛診療においては、「いかに不安を軽減するか」がポイントの一つだと考えています。頭痛に対する正しい知識を得ることで、漠然とした恐怖を減らすことができます。自分なりの対策を打つことで頭痛の恐怖に支配されない生活につながるのです。さらに、「この薬を飲むと効く」という体験をすると、その薬がお守り代わりとなり、「持っているだけで頭痛が起こりにくい」とおっしゃる方もいます。そのためにも、「これを飲めばよくなる」という自分の病態に合った正しい薬、相性のいい薬を見つけることが重要です。
北里大学北里研究所病院 脳神経内科部長
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