パソコンやインターネットが普及した現代の日本において、日頃から頭痛持ちだという方は増えてきているようです。そのなかでも特に「片頭痛」は発作的に出現することが多く、激しい痛みが突然起こることで悩まされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この片頭痛とはいったいどのような病気なのでしょうか? 国際医療福祉大学三田病院予防医学センター長・神経内科教授の桂研一郎先生にお話をお伺いしました。
片頭痛は、脈に合わせて「ズキン、ズキン」と拍動性のある痛みが頭の片側や両側、後頭部など部分的に激しく発作的に生じるもののことを言います。悪化するとやがて頭部全体に痛みが広がり、吐き気や嘔吐など頭痛以外の症状も現れることがあります。
日本人の約800~900万人が片頭痛に悩まされているというデータもあり、片頭痛に苦しむ患者さんの数が非常に多いことが伺えます。
片頭痛に悩まされる方のうち、約20~30%の方が訴えるものとしては、「片頭痛には「前兆」がある」というものです。しかし残りの7、8割の方は前兆を感じません。すなわち片頭痛は「前兆がある」ものと「前兆がない」ものの2種類に分類することができます。比率でいえば、前兆がある片頭痛が1なのに対して前兆のない片頭痛は3といったところです。
この2種類の片頭痛は、ともにそこまで大きな危険性があるわけではありませんが、前兆がある片頭痛の場合、脳卒中など別の重大な病気を引き起こす可能性もあるため注意が必要です。
※前兆のない片頭痛の診断基準
A. B~D を満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
E. その他の疾患によらない
※典型的前兆に片頭痛を伴うものの診断基準
A. B~D を満たす頭痛発作が2回以上ある
B. 少なくとも以下の1項目を満たす前兆があるが、運動麻痺(脱力)は伴わない
C. 少なくとも以下の2項目を満たす
1.同名性の視覚症状または片側性の感覚症状(あるいはその両方)
2.少なくとも1つの前兆は5分以上かけて徐々に進展するか、および・または異なる複数の前兆が引き続き5分以上かけて進展する
3.それぞれの前兆の持続時間は5分以上60分以内
D.「前兆のない片頭痛」の診断基準B~Dを満たす頭痛が、前兆の出現中もしくは前兆後60分以内に生じる
E. その他の疾患によらない
(日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会 訳:国際頭痛分類 第2版 新訂増補日本語版 医学書院:3, 2007より抜粋)
なお、前兆としてよく知られている症状は、激しい痛みの起こる30分~数時間前あたりから目の前にチカチカと輝く光のようなものが視野の中心に見え、目が見えにくくなることです。
これは「皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)」といいます。皮質拡延性抑制が起こると脳内細胞が興奮してじわじわ脳の表面を広がっていき、ギザギザしたものが視野に現れてくるような現象がおこります。皮質拡延性抑制の波は脳の後頭葉から出てきやすく、視野が欠けて見えない部分がだんだん広がるように感じます。
「偏頭痛」というものは実際には存在せず、「片頭痛」が正しい漢字での表現の仕方です。よく誤って偏頭痛とかかれているものがインターネット上などには流布していますが、片頭痛と偏頭痛の違いというのは「正しい漢字表記」と「誤りの漢字表記」ということになります。
なぜ「偏頭痛」がまかりとおってしまったのでしょうか。これには、ワープロやスマートフォンの予測変換機能が大きくかかわっていると考えられます。たとえば「へんずつう」を検索キーワードに入れて変換してみると、最初に出てくる変換は「偏頭痛」です。これをそのまま修正せずに使っている方が非常に多いということです。これは医師ですら間違って使っているケースもあり、間違いを修正していくのには時間がかかりそうです。
ですから、今回の記事では「片頭痛」に表記を統一して話を進めていきます。
国際医療福祉大学三田病院 予防医学センター長/神経内科、国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター教授
国際医療福祉大学三田病院 予防医学センター長/神経内科、国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター教授
日本神経学会 神経内科専門医・指導医日本脳卒中学会 脳卒中専門医・脳卒中指導医・評議員日本頭痛学会 認定頭痛専門医・指導医日本内科学会 認定内科医・指導医日本医師会 認定産業医
日本医科大学を卒業後、スウェーデン王国ルンド大学実験脳研究所助教授、日本医科大学神経内科准教授、同大学多摩永山病院脳神経内科部長を経て、現在は国際医療福祉大学三田病院予防医学センター長・神経内科教授を務める。2017年4月よりは、成田の医学部にて医学教育統括センター教授を兼ねている。神経内科全般、特に脳卒中、頭痛を中心に長年第一線の診療、教育、研究に携わってきた脳神経分野のスペシャリスト。予防医学から現場の臨床へのスムーズな連携を目指している。また、日本脳卒中学会評議員を始めとして、日本頭痛学会評議員、日本脳ドック学会監事、日本神経治療学会理事、日本脳循環代謝学会幹事など、様々な学会においても幅広く精力的に活躍している。
桂 研一郎 先生の所属医療機関
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