インタビュー

危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(2)―急性脳血管症候群とは?

危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(2)―急性脳血管症候群とは?
内山 真一郎 先生

山王メディカルセンター 脳血管センター長、国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授、東京女子...

内山 真一郎 先生

この記事の最終更新は2015年07月17日です。

前の記事「危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(1)」では、一過性脳虚血発作TIA)は脳梗塞の前兆であり、極めて危険な状況であることについてお話ししました。今回の記事では、TIAがどうして危険な状況なのかについて説明していきます。

TIAは、自然に症状が完全に「消えてしまう」ため、現状として救急疾患とはなかなか捉えられていないようです。
そこで、発症後早期のTIAと急性期の脳梗塞を包括し、「急性脳血管症候群(ACVS)」として両者を一連の病態として捉えようという世界的な動きがあります。このふたつの疾患は「連続した概念」であり、発症後間もないTIAがいかに危険であるかを啓発するのが「ACVS」の狙いです。
「急性脳血管症候群」を標語として提唱している国際共同研究グループの一員でもある山王病院の内山真一郎先生に引き続きお話をお聞きしました。

TIA脳梗塞の前兆であり、極めて危険な状態です。しかし前述したとおり、症状が自然に消えてしまうために、医師でさえもつい「緊急を要しないだろう」と捉えてしまいがちです。
このような現状の中、発症後早期のTIAと急性期の脳梗塞を「連続した概念」として捉えるための考え方が「急性脳血管症候群 Acute Cerebrovascular Syndrome(ACVS)」です。これは私も参加している国際共同研究(TIAregistry.org)の標語として提唱しています。

かつて、心臓専門医は、「不安定狭心症」(心筋梗塞になりかけている極めて危険な状態)と「急性心筋梗塞」をまとめて「急性冠症候群:Acute Coronary Syndrome (ACS)」と命名することにより、救急疾患として診療体制を整備した結果、、救命率が著しく向上したという実績があります。
同じように、我々がACVSという概念を提唱している目的は、発症後早期のTIAを急性期脳梗塞と同様に救急疾患として対処することにより、脳梗塞の発症を水際で阻止しようという考え方に基づいています。

ここで、なぜTIA脳梗塞が「連続した概念」であり、ACVSとして捉えるべきなのかをお話ししていきます。
TIAの原因として最も多いのは動脈硬化(動脈が硬くなること)です。長年動脈硬化にさらされた頸動脈にはプラーク(コレステロールなどのゴミ)がくっついています。あるときそのプラークを覆っている表面の皮膜が破れてしまうと、プラークの中身と血液が接触することにより血栓が形成され、その血栓が血管からはがれて脳の中に流れていき脳内の血管で詰まることにより、脳梗塞に似た症状が現れます。

しかし、TIAの状態はあくまで「一過性」です。その血栓が分解したり溶けてしまえば、血流が再開します。それとともに症状も、24時間以内(多くは数分〜数十分で)にあとかたもなく消えてしまうのです。

このように、TIA自体は24時間以内に軽快してしまいますが、安心してはいけません。なぜなら、脳の血管を詰まらせる原因そのものがなくなるわけではないからです。つまり、元となる原因(特に動脈硬化)はまったく解消されていないのです。TIAを起こす患者さんは、一過性とはいえ脳の血管を閉塞させるくらいの動脈硬化があると考えることができます。その後にもっと深刻な脳梗塞を起こす可能性は、当然否定できません。

TIAはいわば黄色信号の状態です。これが赤信号、つまり脳梗塞になってしまうと、もはや元に戻らなくなります。今や脳卒中のうち4分の3は脳梗塞です。脳梗塞になると片麻痺(片側の手足が麻痺すること)や言語障害が後遺症として残ることも多く、重症な発作が起きて、迅速な治療が施されなかった場合は、寝たきりになってしまう可能性もあります。このように重症な脳梗塞を発症すると社会復帰はまず不可能となります。

しかし、あらかじめTIAが脳梗塞の前兆であると知っていればどうでしょうか。さらに言えばTIAを起こした直後こそが重要であり、早期診断・早期治療が必要なことを知っていたらどうでしょうか。
100%脳梗塞を予防できるわけではありませんが、私は、このことを知っているか知らないかは人生の分かれ道になると考えます。繰り返しになりますが、TIAと脳梗塞を別物と考えてはいけません。両者はACVSとして連続した病態であり、TIAは直後に脳梗塞が起ころうとしている危険信号だと捉えるべきなのです。

私は、発症後間もないTIAが非常に危険であることは、一般生活者の方にも認識して欲しいですし、医療従事者の方にももっと認識を深めてもらいたいと思っています。私はいつも研修医には「発症したばかりのTIAは絶対に家に帰さずに入院してもらい、直ちに検査を行って原因に応じた治療を開始する必要があります。何かあったらまた来て下さい、ではダメです。何かあったときには取り返しがつかなくなります。」と教育してきました。

私が患者さんやご家族にそう尋ねられたならば、「100%予防することはできませんが、予防は十分に可能です」と説明します。実際に、早期診断・早期治療により脳梗塞の発症率を大きく減らすことができます。

TIAの原因を検索(「一過性脳虚血発作(TIA)の検査―原因を明らかにするために」参照)し、頸動脈や脳動脈由来の場合には抗血小板薬を飲んでもらう、心房細動がある場合には抗凝固薬を飲んでもらう、生活習慣病高血圧糖尿病、脂質異常など)の管理をする、内科的治療で再発が抑えられない場合には血管内治療や外科治療を行う……などさまざまな治療法があるのです(「一過性脳虚血発作(TIA)の治療―脳梗塞を予防するためには」参照)。ですから、TIAを発症してしまっても、TIAの段階で迅速に治療を開始すれば脳梗塞の予防は十分可能なのです。

記事1:危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(1)
記事2:危険な脳梗塞の前兆「一過性脳虚血発作」(2)―急性脳血管症候群とは?
記事3:一過性脳虚血発作の3つの原因、その症状とは?
記事4:一過性脳虚血発作(TIA)の検査―原因を明らかにするために
記事5:一過性脳虚血発作(TIA)の治療―脳梗塞を予防するためには

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  • 山王メディカルセンター 脳血管センター長、国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授、東京女子医科大学 名誉教授

    内山 真一郎 先生

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