血管が詰まって脳に血液が行き渡らなくなる脳梗塞(のうこうそく)はどのような原因で起こるのでしょうか。東海大学医学部付属病院神経内科領域主任教授・診療科長であり、東海大学総合医科学研究所の所長を務めておられる瀧澤俊也先生に、脳梗塞の種類ごとの原因、そして発症のリスクを高める危険因子などについてお話をうかがいました。
脳の血管が破れたり詰まったりすることによって、脳に血液が行き渡らなくなり、脳の組織に損傷が起きることを脳卒中といいます。脳卒中には、血管が詰まる「脳梗塞」と血管が破れる「脳出血」および「クモ膜下出血」があります。血管が一時的に詰まるものは一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれ、脳梗塞とは区別されています。
脳梗塞は3つのタイプに分けられます。脳の細い血管が詰まるラクナ梗塞、比較的太い血管が動脈硬化で詰まるアテローム血栓性脳梗塞、そして心臓から血栓(血のかたまり)が血流に乗って脳の血管を詰まらせる心原性脳塞栓症です。
直径15mm以下の小さな梗塞で、高血圧が主な原因であるといわれています。細い血管が詰まるのが特徴です。
頭蓋内や頸動脈などの太い血管の内部がアテローム(粥状になったコレステロール)による動脈硬化で狭くなり、そこに血栓ができて詰まるものです。
心房細動で心房内にできた血栓が血流に乗って脳の太い血管に詰まるものです。
かつては脳出血が脳卒中の4分の3を占めていましたが、近年その割合は著しく減少しました。代わって脳梗塞が増え、2006年には60%を占めるようになっています。その理由として、高血圧対策の普及と生活習慣の変化による糖尿病や脂質異常症の増加が考えられます。日本では欧米に比べてラクナ梗塞の割合が多い傾向がありましたが、脂質異常症や糖尿病の増加にともない、アテローム血栓性梗塞が増えています。また、高齢化にともない心房細動の患者さんが増加しているため、心原性脳塞栓も増えています。
また季節別の変動では、アテローム血栓性塞栓症やラクナ梗塞など、血管が脳の中で詰まってしまう脳塞栓症の発生が夏に多いことがわかっています。これは脱水によって血液が濃くなってしまうことが要因であると考えられます。脳出血の場合は逆に冬が多くなっていますが、これは寒さのために血圧が高くなることが大きな要因ではないかといわれています。
脳梗塞を含む脳卒中の発症にはさまざまな危険因子が関わっています。最近では特に、食生活の欧米化や運動不足などを背景に増加しているメタボリック・シンドロームが重要な危険因子とされています。以下に示した危険因子が重なるほど、脳梗塞になる危険性が高くなります。
食生活の欧米化はずいぶん前から指摘されていますが、実はアメリカ人の総コレステロール値は以前に比べて低くなってきています。ところが日本人の総コレステロール値は年々高くなり、1990〜2000年代に入るとアメリカ人とほぼ重なりあっています。特に女性に限っていえば、むしろアメリカ人より高い数値になりつつあります。高血圧は脳卒中の最も重要な危険因子です。生活習慣の改善や薬物治療でしっかり血圧をコントロールしましょう。そのためにはまず、家庭でも毎日血圧を測ることをおすすめします。
飲酒量が増えるほど脳出血の危険性は上昇し、高血圧を合併するとさらに著しく高まります。一方、脳梗塞は少量のお酒をたしなむ方では少ないという傾向がみられますが、やはり高血圧を合併するとその危険性は高まります。したがって、お酒を飲んではいけないというわけではありませんが、量は控えめにして、くれぐれも飲み過ぎないようにしましょう。
タバコを吸う人は、吸わない人に比べて脳卒中を起こしやすくなります。1日21本以上吸うヘビースモーカーになると、脳卒中の危険性は男性で約2倍、女性では約4倍に高まります。しかし禁煙すると脳卒中の危険性は確実に下がり、禁煙後5年経過するとタバコを吸わない人と同程度になります。したがって、禁煙は最低でも5年間継続することが大切です。
神奈川リハビリテーション病院 脳神経センター長、東海大学 医学部内科学系神経内科学 所属主任教授、東海大学総合医科学研究所 所長
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