脳梗塞に対する効果的な治療の1つに、血栓回収術という外科的な方法があります。症状が現れてから、いかに早く・いかに安全に治療を受けられるかが、脳梗塞治療においては非常に重要です。
本記事では脳梗塞における血栓回収術のメリット・デメリットや、具体的な治療前後の流れについて解説します。
脳梗塞の診療にあたっては、まず脳梗塞であるかどうかや、脳梗塞であった場合にどういった原因で血管が詰まったのかを診断するため、可及的速やかに以下の流れで検査を行います。
診察と血液検査を終えた段階で、脳梗塞なのかどうか、脳のどのあたりがどれくらいの大きさで障害されているか、ある程度の予測を立てながら次の検査を検討・実施していきます。
また、脳の画像診断としてCTまたはMRIのいずれかを行います。どちらを選ぶかは緊急度によります。
重症で大きな脳梗塞になる可能性が高く、血栓回収術を行う患者さんは、1分でも1秒でも早く治療を行うことが、治療後の生活や機能を維持改善することにつながります。CTはMRIよりも検査にかかる時間が短いので、これらの治療につながる可能性が高い場合は、治療開始を少しでも早めるためにCTを選択することがあります。
血栓回収術は、ステントやカテーテルといった道具を血管内に挿入し、血栓(=かさぶたのようなもの)を網に引っかけて取り除く(ステントリトリーバー)、または掃除機のように吸引(血栓吸引カテーテル)して、血流を再び開通させる治療です。
症状が出て6時間以内(一部は24時間以内)、かつ脳の中でも大きな動脈(前方循環系の主幹脳動脈)が原因の場合に行うことが推奨されています。
そのため、ラクナ梗塞のように小さな血管が詰まって発症した場合は適応外となります。
脳梗塞の急性期治療の目標は、詰まった血管の先に届かなくなっていた血液の流れを回復させることにあります。
これに基づき、脳梗塞治療の効果を評価する指標の1つに“再開通率(血管を塞いでいた血栓が取り除かれ、滞っていた血流が再開する割合)”が用いられることがあります。
血栓回収術ではこの再開通率が70~90%と高く、その後の経過がよくなる可能性を示しています。
以前は、大きな血管の閉塞は90%以上が重症になると想定されており、そのまま寝たきり状態になることが分かっているのに、なかなか治療ができないことがありましたが、この血栓回収術では、太い血管ほど血栓を取り除きやすいというメリットもあります。
血栓回収術は外科的な治療、つまり手術の一種であるため、合併症を起こす可能性があります。
合併症の例には、血流が開通した後の脳出血や、治療器具による血管損傷、穿孔(血管の壁に穴が開くこと)、くも膜下出血などがあります。
患者さんの予後をよくするために、治療までの時間が1分1秒でも早いほうがよいことはすでに明らかにされています。さらに速く治療を行うことができるよう、治療法の研究、道具の発展や手順の見直しが常に進められているといえるでしょう。
また血栓回収術は適応条件が厳しく限定されているため、今の時点では受けることができる人が限定されるのが実状です。今後、治療の適応範囲を広げていくためには、血栓回収術を実際に行った方のデータを数多く集める必要があると考えられています。
血栓回収術を行った後は、患者さんの全身状態の管理が重要となります。
特に気を付けるべきこととして、血圧の管理が挙げられます。
治療後の慢性期では収縮期血圧160mmHg以上の状態が続くと脳梗塞の再発リスクが上がるといわれているため、160mmHg未満を維持できるよう管理を徹底します。
手術の後に体を動かさない状態が続くと、肺炎や尿路感染症などの合併症が起こるリスクが高くなります。
そうした合併症を防いで早期に回復できるよう、患者さんの状態を見ながら、基本的には手術翌日から段階的にリハビリを進めていきます。
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