インタビュー

脳神経機能を再生させるための3つのステップ

脳神経機能を再生させるための3つのステップ
田口 明彦 先生

先端医療振興財団 先端医療センター 再生医療研究部 部長

田口 明彦 先生

この記事の最終更新は2015年12月08日です。

皮膚の傷の治癒には3つのステップがあることをご存知でしょうか。実はこれは脳でも同様で、脳梗塞治療では3つのステップに合った効果的な治療を行うことが重要だと考えられています。本記事では、この3つのステップについてこれから脳梗塞治療がどのように進歩していくのか、公益財団法人 先端医療振興財団 先端医療センター研究所 再生医療研究部 部長の田口明彦先生にお話しいただきました。

がんの治療は近年めざましく進歩しています。がんの治療については「建物を壊す」ことをイメージしていただければと思います。建物を壊すという目的だけを考えるのであれば、ショベルカーを用いても、炎で燃やしてもそれは達成されます。それと同様でがん細胞を壊すには薬剤や放射線、あるいは外科的に取り除いてもよく、壊すという目的のためにさまざまな方法が選択できます。しかし脳梗塞後の神経細胞の再生は「建物をたてる」イメージです。建物をたてるためには土台、骨組み、外壁、屋根など、多くのステップを踏むことになります。神経細胞の再生もステップを踏んで行う必要があるのです。

皮膚の傷の治癒と同様に脳の再生には3つのステップがあります。皮膚の傷の治癒を例に挙げてご説明します。

  1. 炎症期
    損傷部位では、炎症物質といわれるものが放出され、白血球などの炎症細胞が集まってきます。これらの細胞は損傷した細胞や組織、細菌など、皮膚の再生に障害となるものを取り除きます。
  2. 増殖期
    次に、線維芽細胞や肉芽細胞という細胞が損傷した血管や組織を再生していきます。この増殖期では血管再生が活発に行われます。
  3. 成熟期
    次に再生された組織がより丈夫なものへと成熟され治癒に向かいます。

これら3つのプロセスがスムーズに移行されれば傷が治癒します。

繰り返しになりますが、これと同様のステップ(炎症期・増殖期・成熟期)が脳梗塞後の脳にも起こっています。しかし脳梗塞の場合は以下のイラストの点線のように、炎症期は強い反応がおこるものの、増殖期と成熟期があまり活発に行われていないのです。血管再生に重要である増殖期の立ち上がりが弱い(=活発でない)ことで、成熟期も活発に行われません。この増殖期の立ち上がりを高める方法が、私たちが現在研究している造血幹細胞移植なのです。

脳の再生の3つのステップ

現在世界各国では、脳卒中後の神経再生の促進に向け、私たちが実施している増殖期における造血幹細胞移植だけでなく、炎症期の免疫細胞のコントロールを目的とした間葉系幹細胞移植、さらには成熟期における神経栄養因子の補充を目的とし骨髄由来幹細胞移植など、幹細胞を用いた臨床試験が行われています。さらに全ての時期での最適な治療を合わせて行えば、脳梗塞後の機能再生を最大限に促進できると考えられており、それに向けた研究開発も進められています。

脳梗塞治療法開発には、今まではなかなかうまく進んできませんでした。しかし、カハールの呪縛をはじめ、多くの問題点も解決されつつあります。脳梗塞後の3つの時期に対して様々な臨床試験も始まっていますので、今後は、脳卒中後の機能再生を促進する新しい治療法がどんどん開発されることが期待されています。

  • 先端医療振興財団 先端医療センター 再生医療研究部 部長

    日本脳卒中学会 脳卒中専門医日本再生医療学会 再生医療認定医日本内科学会 認定内科医日本医師会 認定産業医

    田口 明彦 先生

    米国コロンビア大学、国立循環器病研究センターを経て、現在は先端医療振興財団 先端医療センター 再生医療研究部の部長を務める。脳卒中後の機能回復治療に関する研究のトップランナーであり、世界に先駆けた研究に取り組んでいる。「脳梗塞による寝たきりの患者さんを減らしたい」という強い想いのもと、日本のみならず世界における脳卒中治療を大きく牽引している。

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