超急性期脳梗塞の治療では、rt-PA静注療法や血管内治療によって脳への血流を早急に再開させることが最善の方法です。しかし、この治療を受けられる患者さんは多くありません。瀧澤俊也先生は東海大学医学部付属病院神経内科領域主任教授・診療科長として急性期治療に携わる一方で、東海大学総合医科学研究所の所長として、脳梗塞にかかわる脳出血リスクの探索や、再生療法による脳梗塞の新しい治療法などの臨床研究にも取り組んでおられます。この記事では最新の研究と脳梗塞治療の今後の展望についてお話をうかがいました。
ラクナ梗塞の患者さんにはCMB(Cerebral Microbleeds)と呼ばれる微小な脳出血の痕跡が多くみられることがわかってきました。脳出血の患者さんの6割、脳梗塞の患者さんでも4割の方にこのCMBが認められ、これは将来出血を起こすリスクにつながるとみられます。また、CMBが多数ある方に対して抗血小板薬を大量に投与すると、脳出血を起こしやすいと考えられます。CMB は年齢とともに多くなり、気づかないうちに微小な出血が起こっていると考えられます。しかし不思議なことに、LDLコレステロールが高い患者さんはCMBが減るともいわれています。
こうしたことを背景に、東海大学を中心とした神奈川県の35の施設で、脳内微小出血(CMB)を指標とした脳出血リスクの探索的評価を目的とした医師主導多施設共同臨床研究を行っています。CMB-NOWと呼ばれるこの研究では、脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)発症後に抗凝固療法を開始される心房細動の患者さん(弁膜症性の患者さんを除く)で、なおかつCMBのある方を対象に、ワルファリンとNOACs(新規経口抗凝固薬)のそれぞれを投与する2つのグループに分けて、CMBの経過にどのような違いがあるかを調べ、今後の治療に役立てていくことを考えています。
G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)+SCF(幹細胞因子)は造血サイトカインとも呼ばれ、白血病の治療において正常な白血球を増やすために使われている薬です。この薬を脳梗塞の患者さんに投与することで、白血球の中から脳の神経細胞に分化するような細胞ができ、神経を再生する可能性があります。
(図:東海大学医学部付属病院神経内科領域主任教授・診療科長 瀧澤先生より提供)
マウス脳梗塞モデルにおいて造血サイトカイン(G-CSF+SCF)の投与により、次のような改善がみられました。
神経再生治療として、現在ES細胞・iPS細胞を用いた先駆的研究、骨髄幹細胞の再静注療法などが試みられていますが、免疫拒絶反応や発がん性など技術的・倫理的なハードルは高く、実際の臨床応用までには時間がかかる可能性が高いと考えられます。そこで我々は、現在血液疾患の分野ですでに安全性が確保され、保険収載がされている治療、G-CSFの適応拡大として医師主導の臨床研究を試みました。
2007年6月から2010年11月にかけて、日本で初めて脳梗塞の患者さんを対象としたG-CSFの第I相臨床研究を行いました。90日後の神経徴候では、急性期に投与を行った患者さんに改善が認められ、梗塞が小さくなった方もいました。この結果を受けて、2012年から国内5大学と共同で第II相臨床試験を行ないましたが、登録症例数が49例にとどまり、統計的な有意差は示されませんでした。しかし、G-CSF がrt-PA静注療法後の脳出血を減らすという報告があり、今後はその効果をターゲットとして研究を進めていきたいと考えています。
血液の中には血管内皮前駆細胞(EPC; Endothelial Progenitor Cell)というものがあり、血管を新たに作り出し、血液の循環をよくする働きをします。EPCの活性(再生能力)は老化や糖尿病などの影響で低下しますが、患者さんから採取した血液中のEPCを培養し、活性因子を与えて質の高いEPCにした後、再び患者さんに戻すという治療法を研究しているところです。現在、この研究については論文を作成中ですが、ゆくゆくはこの治療によって脳梗塞を起こした部分に血管を新しく増やし、脳梗塞の再生を促すことを目指しています。
(図:東海大学医学部付属病院神経内科領域主任教授・診療科長 瀧澤先生より提供)
神奈川リハビリテーション病院 脳神経センター長、東海大学 医学部内科学系神経内科学 所属主任教授、東海大学総合医科学研究所 所長
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