脳の血管が詰まったり破れたりすることにより障害を受ける病気で、高齢者の寝たきり状態の原因としても知られる脳卒中。その半数以上が脳梗塞という病型に分類されます。脳梗塞になるとどのような症状が出て、どのように対応すればよいのでしょうか。
本記事では脳梗塞の特徴や治療、気付いたときの対応方法について解説します。
脳卒中は、重い後遺症が残ったり、高齢者の寝たきり状態のきっかけになったりする、深刻な病気として知られています。今後、さらに高齢化の進む日本では、患者さんがどんどん増えていくことが予想されます。
脳卒中は、脳の中で起こっている障害や異常の違いによって、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血・一過性脳虚血発作(TIA)の4つの種類に分けられます。
中でも患者さんの数が多いのが脳梗塞で、2016〜2018年の日本脳卒中データバンクのデータでは、脳卒中全体のうち約7割が脳梗塞であったと報告されています。
脳梗塞は、動脈硬化などが原因で脳細胞へ血液を送る血管が細くなったり、血栓(血の塊)で詰まったりして、その先に血液が届かなくなり、脳細胞が障害を受ける病気です。
脳梗塞で現れる症状とその重症度は、障害を受けた脳の場所と大きさによって異なることが知られています。
意識障害のように重い症状が突然出現して救急搬送されるような場合もありますが、なんとなく手足の力が入りづらくなった、言葉が話しにくいなど、症状が比較的軽いうちに病院に来て、脳梗塞と診断されることもあります。
脳梗塞は、血管の詰まる原因によって、以下の3種類に分けられます。
心臓でできた血栓が血流に乗って脳に到達し、やがて脳の血管を閉塞させて起こる脳梗塞を、心原性脳塞栓症といいます。
心臓でできる血栓の多くは心房細動という不整脈によって起こります。このときにできる血栓は大きなものが多く、太い血管で急に閉塞が起こり重症になりやすいのが特徴です。また、この脳梗塞は80歳以上の方ではもっとも多いタイプであり、今後、さらに高齢化の進む日本では、このタイプの占める割合が高くなると考えられています。
脳には穿通枝と呼ばれる髪の毛ほどの細い血管(微小血管)が分布する場所があり、この穿通枝が閉塞して起こるのがラクナ梗塞といわれる脳梗塞です。
細い血管に小さな閉塞が起こるのが特徴で、症状も比較的軽いことが多いとされています。動脈硬化が原因で起こる病気としても知られています。
同じく、動脈硬化が原因で起こる脳梗塞に、アテローム血栓性脳梗塞があります。
アテロームとは、血管の内壁にプラークと呼ばれる粥状の物が蓄積し、血管が狭くなり塞がることで起こります。
ラクナ梗塞との違いは太い血管が原因で起こる脳梗塞であるという点です。ほかには、軽症から重症まで症状に幅がある、徐々に悪化するといった特徴があります。
脳梗塞の症状には以下のようなものがあります。
現れる症状の内容や程度は、脳の障害されている場所や大きさによって異なります。
手足の麻痺やしびれは、脊柱管狭窄症など、ほかの病気でも起こりますが、脳梗塞による麻痺の特徴は、“現れ方に左右差がある”“ある時点で症状が急に起こる”という点です。
脳梗塞が疑われるときにチェックすべきポイントを表す言葉として、“FAST”があります。
先述したような脳梗塞の症状の中で、特に頻度の高いものがこの3つの症状です。
上記3つの症状のうち1つでも当てはまる場合、本当に脳梗塞である可能性が高いことになります。そのため、自分や周りの方にFASTの症状が現れたら、“Time(発症時刻)”を確認したうえで早急に医療機関を受診する必要があります。
FASTという言葉は“Face(顔の麻痺)”、“Arm(腕の麻痺)”、“Speech(言葉の障害)”、そして“Time(発症時刻)”の頭文字を取って、アメリカで開発されました。
非常に簡便にもかかわらず、脳梗塞の予測をする際の陽性的中率(チェック項目から病気の疑いありと予測される人のうち、本当にその病気である割合)が高い確認方法として広く使われています。
脳梗塞と疑われる症状に周りの方が気付いたら、まずは119番に連絡しましょう。脳梗塞の場合、1分でも早く専門の急性期治療を受けることが必要です。24時間365日体制で脳卒中の専門治療を行っている一次脳卒中センター(PSC)のような専門の医療機関を受診することが理想的です。
救急車を待っている間は、患者さんはできるだけ寝かせておくとよいでしょう。
麻痺があって転んでしまい、けがをするなどの2次被害を防ぐことにもつながります。
呂律が回らない、飲み込みがしにくい方の場合は横向きに寝かせるほうが安全です。仰向けにしておくと、唾液を飲み込むことができずに肺炎を起こしてしまうリスクがあります。
受診までの間、もし可能であれば、顔つきに左右差がないか、両手で“前へならえ”ができるか、呂律が回っているか、話し方が片言になっていないかなど、FASTに沿って患者さんの状態をチェックしておくと病院に来院する前に診断の判断がつきやすく、受診後の治療がスムーズになります。
診察で医師と話すことができる場合、受診までに確認した患者さんの状態を医師に伝えてください。
どのような症状が出ているか、症状が出た時刻はいつか、症状は突然出たのかゆっくりと進行したのかといった情報は診察時にも念入りに確認します。
脳梗塞と診断された場合の治療には、血栓溶解療法、脳血管内治療(脳カテーテル治療:血栓回収術、局所線溶療法)、抗血栓療法などがあります。
脳梗塞の原因となった血栓を溶かし、詰まった先まで再び血液が流れるようにする治療です。t-PA(組織型プラスミノゲン・アクティベータ)と呼ばれる薬剤を静脈内に点滴します。
この治療は、脳梗塞の症状が現れて4.5時間以内に治療が可能な場合に受けることができます。
一方で、過去に脳出血を起こした方や、大動脈解離の疑いのある方、最近手術を受けた方など、全身のどこかに出血するリスクが高い方は受けることができません。
血管の中に直接カテーテルという細い道具を挿入して治療する方法として、血栓回収術や局所線溶療法があります。
ステントやカテーテルといった道具を血管内に挿入し、血栓(=かさぶたのようなもの)を網に引っかけて取り除く(ステントリトリーバー)、または掃除機のように吸引(血栓吸引カテーテル)して、血流を再び開通させる治療です。
症状が出て6時間以内(一部は24時間以内)で、脳の中でも大きな動脈(前方循環系の主幹脳動脈)が詰まっている場合に行うことが推奨されています。
そのため、ラクナ梗塞のような小さな血管が原因となった場合は適応外となります。
カテーテルを血栓の近くまで挿入し、血栓を溶かす薬をピンポイントで注入することにより、詰まっている血管を再び開通させる方法です。
実際の診療の場では、最初に血栓回収術を行い、それだけでは血栓の除去が不十分であった場合に、この局所線溶療法を行うことがあります。
抗血栓剤の中には抗血小板剤と抗凝固剤があり、それぞれに内服と点滴製剤があります。脳梗塞のタイプや全身状態に合わせて適切と思われる薬剤を選択・投与し、再発や病巣の拡大予防を図ることを目指します。また薬剤選択には、ベッドサイドでの診察所見や頭部画像検査などを速やかに実施し、情報を集め、それらを基に適切であると考えられる薬剤を来院から30分以内に判断します。
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