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急性期脳梗塞の血行再建治療とは? 後遺症を軽減するために

急性期脳梗塞の血行再建治療とは? 後遺症を軽減するために
大久保 誠二 先生

NTT東日本関東病院 脳血管内科 部長、脳神経内科 部長

大久保 誠二 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年09月26日です。

脳梗塞(のうこうそく)は、要介護や寝たきりの原因となる病気の1つです。脳の血管がつまることによって起こる脳梗塞により脳細胞が壊死(えし)すると、半身の麻痺などの後遺症が残ることがあります。重度の後遺症が残ると、要介護の対象や寝たきりの原因となることが知られています。

急性期脳梗塞の血行再建治療とは、閉塞(へいそく)した脳の血管を再開通させることで、後遺症の軽減や抑制につながる治療法です。今回は、NTT東日本関東病院 脳血管内科部長 大久保 誠二先生に急性期脳梗塞の血行再建治療についてお話しいただきました。

脳梗塞とは、何らかの原因で脳の血管がつまり、脳に血流が行き渡らなくなることによって、脳の神経細胞が壊死してしまう病気です。脳の細胞は、完全に壊死してしまうと再生することができません。そのため、脳梗塞では、障害された脳の部位によって、半身の麻痺などの後遺症が現れることがあります。

脳

脳梗塞の後遺症の程度は、障害された脳の場所や大きさによって異なります。たとえば、脳細胞が壊死している場所が広がるほど、後遺症も重くなることが分かっています。

脳梗塞では、時間の経過とともに徐々に障害される場所が広がっていくため、後遺症を残さない、あるいは軽度で抑えるためには、早期の治療が大切になります。

脳梗塞による後遺症で現れる主な症状

脳梗塞による後遺症で現れる代表的な症状には、体の片方が麻痺する片麻痺があります。片麻痺が起こると、歩行することが困難になったり、話すことが難しくなったり、飲み込みづらくなったりなどの症状が現れます。

また、手足がしびれたり痛みや温度を感じることができなくなったりする感覚障害、言葉を理解したり発したりすることができなくなる失語症、両目共に視野の一部が欠ける視野障害などが現れることもあります。

急性期脳梗塞の血行再建治療とは、脳細胞が完全に壊死する前に、閉塞した血管を再開通させることで、改善を図る治療法です。この治療法の登場によって、以前であれば後遺症によって寝たきりになっていたようなケースであっても、重症化を防ぐことが可能になったと考えられています。

ただし、急性期脳梗塞の血行再建治療は、発症早期に行う必要があります。それは、お話ししたように、時間の経過とともに脳の細胞は徐々に壊死していき、障害される場所も広がっていくからです。血行再建治療の開始が早ければ早いほど患者さんはよくなりやすいことが分かっています。

そのため、当院では常に、患者さんの到着から60分以内の血行再建の治療開始を目指しています。

急性期脳梗塞血行再建の治療には、t-PA静注療法と脳血管内治療があります。

t-PA*静注療法は、2005年に保険適用された新たな治療法の1つです。血管がつまる原因である血栓(血の塊)を強力に溶かす効果のある薬を点滴によって全身に投与し、血管の再開通を図ります。

t-PA静注療法は、比較的大きくなっていない血栓を溶かすのに適した治療法と考えられており、発症から4.5時間以内の治療が推奨されています。

*t-PA:血栓を強力に溶かす効果のある薬。

t-PA静注療法
t-PA静注療法による治療の様子
  • t-PA静注療法のリスクとは?

ただし、t-PA静注療法には、出血しやすくなるというリスクがあります。脳梗塞によってつまった血管の血流が再開すると、もろくなった血管の壁が破れ脳出血を起こしてしまうことがあるのです。また、脳以外にも、肺などの臓器出血を起こすことがあります。

脳血管内治療とは、血栓がある場所にカテーテル*を挿入し、閉塞した血管を再開通させる治療法です。2010年以降、複数の血栓回収カテーテルが保険適用となっています。

脳血管内治療には、さまざまな方法がありますが、たとえば、以下の図のようにカテーテルを挿入し、先端についているステントによって血栓をからめとる方法があります。なお、脳血管内治療は、発症から24時間以内に行うことが推奨されています。

カテーテル
カテーテルの先端についているステントで血栓をからめとっている様子
脳血管内治療による血栓回収の様子

*カテーテル:細い管のような医療機器。

  • 脳血管内治療のリスクとは?

脳血管内治療は、再開通するまでの時間によって脳機能の回復の程度が異なるため、重い後遺症が残るケースもあります。また、治療中に脳血管を損傷してしまうことで、脳出血などの合併症が起こる可能性もあります。

お話ししたt-PA静注療法と脳血管内治療のうち、どちらの治療法を選択するかは、症例によって異なります。どちらか片方の治療のみ行うこともあれば、両方行うこともあります。どちらの治療法も適応基準が決まっており、基準を満たした治療法を行います。

t-PA静注療法は使用できる時間が発症から4.5時間と短く、出血しやすい患者さんには使用できません。脳血管内治療はカテーテルが挿入できる太い血管の閉塞時に選択されます。どちらの治療が有効であるかには、閉塞した血管の太さが影響することがあります。たとえば、血管が太い場合、血栓が大きく薬によって溶かすことが難しく、脳血管内治療が有効であることが多いです。反対に、血管が細い場合にはt-PA静注療法が有効である場合があります。

お話ししたように、急性期脳梗塞の血行再建治療では、いかに早く治療を開始するかが大切になります。

そのため、当院の脳血管内科では、より多くの患者さんを受け入れることができるよう準備を行い、救急隊から連絡がきた時点で、治療開始に向けて動き出すようにしています。私たちは、常に到着から60分以内の血行再建治療開始を目指しており、実際に、到着から30分以内で治療に入ることもあります。

脳卒中ホットラインの取り組み

当院は、脳卒中ホットラインを運営しており、24時間365日、近隣の医療機関や救急隊からの連絡を直接受け、患者さんを受け入れられるような体制を築いています。私たち脳血管内科や脳神経外科などが共に連携しながら、脳卒中ホットラインによって受け入れた患者さんの治療に迅速に対応しています。

リハビリテーションと退院支援にも対応

また、治療後には、早ければ入院当日からリハビリテーションの介入を始めるなど、患者さんの早期の社会復帰を目指し、支援します。基本的にはご自宅への退院を目標としますが、後遺症の程度や生活背景によっては、回復期リハビリテーション病院を紹介することもあります。

脳梗塞を始めとする脳卒中を引き起こす危険因子には、高血圧糖尿病脂質異常症喫煙、肥満、心房細動と呼ばれる不整脈が関わっていることが分かっています。そのため、高血圧や糖尿病がある方は、改善に取り組むことが予防につながるでしょう。

健康的な食事

健康診断で上記の因子が発見されたときには、早期に治療に取り組んでいただきたいと思います。また、喫煙習慣がある方は禁煙に取り組むことも有効ですし、肥満の方も生活習慣の見直しなどによる改善が予防につながると考えられています。

近年は、3つの症状から脳卒中を早期に発見することを目的とした「ACT FAST」と呼ばれるスクリーニング法が活用されています。具体的には、顔の麻痺、腕の麻痺、言葉の障害から早期発見につなげることを推奨しています。顔の麻痺では、顔の左右に歪みがないかがポイントです。腕の麻痺では、両腕を上げて、どちらか片方の腕に力が入らないためにすぐに落ちてしまうことはないかを確認していきます。また、話すときに、きちんと言葉が出てくるか、呂律が回っているかも大切なポイントになります。

「ACT FAST」で表されている3つの症状

大久保先生

脳梗塞による後遺症の重症化を防ぐためには、予防が大切です。お話ししたように、危険因子の改善や治療を心がけ、予防に努めていただきたいと思います。

また、繰り返しになりますが、脳梗塞では早期の治療が後遺症の軽減や抑制につながります。「ACT FAST」を参考に、顔の歪みなどの気になる症状が現れた場合には、すぐに受診してください。

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  • NTT東日本関東病院 脳血管内科 部長、脳神経内科 部長

    大久保 誠二 先生

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