頸部頸動脈狭窄症の治療は、「脳梗塞」を防ぐ目的を持って行われます。脳梗塞は、脳への血液や酸素供給が不足して脳細胞が壊死してしまう病気であり、最悪の場合死に至ることもあります。本記事では、脳梗塞の前触れ発作ともいわれる頸部頸動脈狭窄症の症状のひとつ「一過性虚血発作(TIA)」とはどのようなものか、九州大学大学院医学研究院・脳神経外科教授の飯原弘二先生にお話しいただきました。
頸部頸動脈狭窄症の症状のなかには、一過性虚血発作(TIA)という、緊急で専門医の診察を受けるべきものがあります。一過性虚血発作とは、脳への血液供給が一時的に低下する発作のことで、頸部頸動脈狭窄症の場合は、一時的に視野が暗くなる「一過性黒内症」や、一時的に麻痺が生じて喋ることができなくなるといった症状が現れます。
これらの症状は文字通り一過性であり、ほとんどが24時間以内におさまってしまうため、「もう心配ないだろう」と安心し、放置してしまう方が多いという特徴があります。しかし、一過性虚血発作は脳梗塞の前触れ・警告発作ともいわれる危険な症状であり、すぐに病院へ行かねばならないものです。
一過性脳虚血発作を放置していると、3か月以内に15~20%の方が脳梗塞を発症し、そのうちの半数は、発作を起こしてから数日以内(特に48時間以内が危険とされる)に脳梗塞になることがわかっています。
また、発作を起こした後、速やかに専門医による検査・治療を行うことでその後の脳梗塞を予防できることも、様々な研究により示されています。
一過性の発作が起こるということは、プラークが不安定であるということです。脆弱なプラークの被膜が破れ、脂質などの内容物が血中に放出されて頭蓋内の動脈が詰まるために、眼や舌、全身に症状が現れるのです。しかし、時間が経てば破れたプラーク被膜は修復されるため、症状は起こらなくなります。
ですから、症状が出ているとき、すなわち不安定プラークの被膜が破れているときに速やかに専門医を受診し、危険な部分を見つけてもらい、早期に治療を開始することが重要なのです。
CEAやCASは脳梗塞の予防には非常に高い効果があり、長期的視点で見ても、脳の同じ側で脳梗塞を発症・再発することはほとんどありません。しかし、頸動脈に狭窄が見つかったということは、その患者さんが動脈硬化になる様々なリスクファクターを持っているということです。私たち脳神経外科医は最もハイリスクな首の部分を治療しているに過ぎず、「実は冠動脈に問題があった」、「下肢にも動脈硬化があった」という患者さんはたくさんおられます。
ですから、頸部頸動脈狭窄症と診断された場合は、その治療の成功をゴールと考えず、10年、20年単位でご自身の人生を見つめ、全身の他の部位に動脈硬化性の疾患がないかを検査し、治療してもらうのがよいと考えます。また、私たち医師も、頸動脈の狭窄を治療することだけに注力するのではなく、頸部頸動脈狭窄症を全身の病気のうちのひとつであると捉えていく必要があるでしょう。
国立循環器病研究センター病院 病院長
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