インタビュー

頸部頸動脈狭窄症の治療②頸動脈ステント留置術(CAS)

頸部頸動脈狭窄症の治療②頸動脈ステント留置術(CAS)
飯原 弘二 先生

国立循環器病研究センター病院 病院長

飯原 弘二 先生

この記事の最終更新は2016年02月25日です。

これまで頸部頸動脈狭窄症に対する最もスタンダードな手術は、頸動脈血栓内膜剥離術(CEA)とされてきました。しかし、CEAには全身麻酔をかけなければならないというデメリットもあり、呼吸器に問題を抱える方などにとっては不向きといわれています。本記事では、局所麻酔で治療を行えるもうひとつの代表的な手術法、「ステント留置術(CAS)」とはどのようなものか、九州大学大学院医学研究院・脳神経外科教授の飯原弘二先生にお話しいただきました。

ステントとは、狭くなった血管を内側から広げるための筒型の医療器具です。ステンレスなどの金属でできており、細かな網目状になっています。ステントを狭窄部へと運ぶためには、カテーテルという細長い管を血管内に挿入する必要があります。頸動脈ステント留置術(以下、CAS)の場合は、一般的には足の付け根の血管からカテーテルを挿入し、内頚動脈の狭窄部にバルーンを入れて膨らませ、そこにステントを留置します。こうすることで、良好な血行を確保することができるのです。

CASのメリットは、局所麻酔で手術を行えるため、患者さんの体にかかる負担が少ないことです。しかし、ステントにより血管を拡張させる際に、血管内膜に堆積していたプラークは押しつぶされてしまいます。かつてはこの過程で、血栓の破片が脳へと飛んでしまい、小さな無症状レベルの梗塞が起こる例が多々ありました。

現在はこのような合併症を防ぐために「プロテクション」という方法を採用しており、脳へと飛んでいこうとする血栓の破片を傘状のフィルターでキャッチして回収しています。これにより塞栓症などの合併症を克服することが可能になり、治療成績も向上しました。

かつてCASは、全身麻酔のリスクが高い高齢者の方に向いているといわれていました。しかし、2010年の論文発表では、「年齢で頸動脈狭窄症の治療法を考えると、高齢者層にはCASではなくCEAの方が有効性が高い」との報告がなされました。なぜなら高齢の方は血管が蛇行しており、カテーテルの留置に時間がかかってしまうからです。カテーテルの留置に時間がかかるケースでは、途中でカテーテルが血管に触れたり傷つけてしまうことがあり、治療成績はよくありません。このほか、血管の屈曲が強い方や、大動脈瘤腹部大動脈瘤胸部大動脈瘤)がある方も血管内治療は難しいため、CASよりもCEAを選択した方がよいと考えられます。

先に述べたように、ステントは網目状(メッシュ状)の構造をしています。狭窄部のプラークが非常に不安定で血栓が密集しているケースでは、ステントを留置して傘状のフィルターを抜いた後に、ステントの網目の間から血栓が頭部へと飛んでしまう可能性もあります。ですから、CASとCEAのどちらが向いているかを判断するためには、①カテーテルの扱いやすさ(血管が蛇行や屈曲していないかどうか)と②狭窄部のプラークの性状、どちらも考える必要があります。

また、近年ではCASとCEAを同時に行う「ハイブリッド手術」が行われるようになりました。たとえば、とても長い病変がある場合、プラークが非常に不安定な部分はCEAにより除去し、CEAでは届かない奥深くの血管にはステントを留置させるということが可能になったのです。「より低侵襲でより安全な手術を1回でできる」ということは、患者さんの心身にとって非常に重要なことです。ハイブリッド手術を本格的に行える施設は日本ではまだ限られていますが、これから広げていきたいと考えています。

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