冠動脈は心臓に血液を送る重要な血管の1つです。生活習慣からの影響を受けやすく、乱れた生活を長く送っていると血管が詰まりやすくなり、心筋梗塞や狭心症を引き起こすおそれがあります。
死を招く危険性もある心筋梗塞や狭心症を未然に防ぐため、各医療機関ではこの冠動脈に対する様々な検査を行っています。今回はそのなかでも、今最も注目されている冠動脈のMDCT検査について岡山大学 名誉教授の伊藤 浩先生にお話いただきました。
冠動脈は心臓の血行を養い、心筋(心臓の筋肉)に血液を送るという大きな役目を果たしていますが、生活習慣の乱れによって動脈硬化や狭窄、あるいはそれに伴う心筋梗塞、狭心症を引き起こすと命に関わる重篤な症状を招きます。これを未然に防ぎ、現在、冠動脈がどのような状態であるかを明らかにするためのものが、造影剤を使用しないMDCTの役割です。
はじめに心筋梗塞や狭心症を引き起こす「動脈硬化」と「狭窄」についてご説明します。
動脈硬化とは、血管内にコレステロールやそれを取り込んだ細胞などが蓄積した現象で、狭窄を生じなくてもそれ自体が病気です。動脈硬化の一部にカルシウムが沈着することを、石灰化といいます。従って、血管の石灰化は動脈硬化があることを意味します。
狭窄はこの動脈硬化などが原因で血管の一部が詰まりかけ、血流が極端に悪くなっている状態を指します。
いずれの状態も放置していると最終的に血管が塞がり、血液が流れなくなってしまいます。血管の詰まった位置が心臓であれば心筋梗塞、脳であれば脳梗塞、という重篤な疾患に結びつく恐れがあります。
冠動脈を検査する手段はMDCT以外にもいくつかあります。ここでは代表的な検査方法について簡単に説明します。
心臓負荷心電図とは、運動により心臓に一定の負荷をかけながら、心電図検査を行うことです。運動しながら心電図を撮影すると、安静時ではなく活動時の心臓の変化を観察することができます。そのため、狭心症の疑いがある患者さんの心臓を、活動時にも正常に働いているかどうかを調べることができます。冠動脈の狭窄の有無も判断することができます。
心臓カテーテル検査は冠動脈造影ともいわれます。検査方法は、肘や手首などからカテーテルという細い管を入れ、この管が冠動脈まで達した際に造影剤を使ってレントゲンで冠動脈の状態を撮影します。このような方法で撮影することにより、狭窄の有無だけでなく、位置や程度を詳しく知ることができます。
MDCTとは、複数のX線照射装置を備えた高性能なCTです。MDCTによる冠動脈の撮影には大きく分けると2つの方法があります。
・造影剤を使用する撮影方法
・造影剤を使用しない撮影方法
私たちが多く活用しているのは、造影剤を使用せずに息を止めて撮影する方法です。
造影剤を使用しないMDCTによる冠動脈の検査は、これまで述べてきた2つの検査方法のように狭窄に関する情報がわかるほか、動脈硬化の有無や位置、状態についても調べることができます。
造影剤を使用した場合でも狭窄の有無や位置はわかりますが、動脈硬化についてはわかりません。せっかく検査を行うのであれば、より情報量が多く手に入る造影剤を使用しないMDCT検査のほうが有用である場合が多いのです。
MDCT検査は、カテーテル検査よりも患者さんの負担が少なく、狭窄の有無や位置・程度を調べることができます。しかし造影剤を使用したMDCT検査の場合、検査の適用が絞られ、場合によっては、検査ができない患者さんもいます。たとえば狭窄や動脈硬化などを引き起こしやすい生活習慣病を抱える方は、腎臓の機能が低下していることもあります。造影剤を使用したMDCT検査の場合、造影剤の排出は全て腎臓を介して行われるため、腎臓の機能低下がみられる患者さんには造影剤を使用した検査は行えません。
近年、原子力発電所の事故などを受け、メディアでも「シーベルト」という放射線量を示す数値をよく耳にするようになりました。CTもX線を用いますので、少なからず被ばくをしますが、造影剤を使用しない撮影の場合、その線量をかなり抑えることができます。
造影剤を使用しないMDCT撮影の場合、わずか0.4ミリシーベルトの被ばくで自身の冠動脈の状態を細かく検査することができます。東日本大震災による福島の原子力発電所の事故では、周辺地域の年間被ばく量が1ミリシーベルトといわれていますので、これと比較しても少量であることが伺えます。
とはいえ、微量であっても検査を行えば被ばくはしますので、岡山大学でも全ての患者さんにCTを勧めるわけではありません。
一方で,造影剤を使用したMDCT検査の場合、1回の撮影で浴びる被ばく量が10〜14ミリシーベルトと桁違いに多くなります。また、造影剤を使用したMDCT検査の場合、カテーテル検査や運動負荷心電図同様、わかるのは狭窄の有無と位置・状態だけで、動脈硬化と確実に診断することはできません。
これだけ被ばく量が増えてしまうため、岡山大学では造影剤を使用するMDCT撮影は血管が狭くなってしまっている可能性が高い方など、この検査が本当に必要と診断された特定の患者さんのみに適用を絞っています。狭窄が見つかれば、カテーテル治療などの適応を決めることができます。同時に、狭窄がそこまでひどくない場合でも動脈硬化が破綻して、急変しやすいものであるかも造影剤を用いた検査で明確になります。
骨にはカルシウムが沈着しているため、CTで写すと白く写ります。一方、心臓をCTで写した場合、本来は冠動脈に白く写るものは何もないはずです。
しかし、時々以下の画像のように冠動脈の一部が白く写っている箇所が見受けられることがあります。これを石灰化といい、この石灰化こそ先に述べた動脈硬化のことを指しています。
古くから、冠動脈の検査において最も主流なのはカテーテル検査(冠動脈造影)でした。前述のようにカテーテル検査でわかることは、狭窄の有無とその位置だけです。しかし、造影剤を使用しないMDCT検査の場合、これらに加えて動脈硬化の有無や位置・状態をも調べることができるため、従来の検査よりさらに広い役割を果たすことができます。
冠動脈に対する造影剤を使用しないMDCT検査の最大の役割は、血管の動脈硬化による傷みをみつけることです。同じ高血圧・糖尿病・年齢層の患者さんであっても、動脈硬化の有無によって今後の心筋梗塞へのリスクは大きく変わります。
そのため、私たちは狭窄だけではなく、従来の検査ではわからなかった動脈硬化の有無までしっかりと検査で明らかにしています。検査の結果、動脈硬化があるとわかった方にはきちんと説明を行い、自らの状態を理解していただいて、これ以上悪化しないように治療を勧めています。
動脈硬化には硬い動脈硬化と柔らかい動脈硬化があります。造影剤を使用しないMDCTの場合、血管壁の状態もみることができるので、動脈硬化の硬さ・柔らかさなど現在の様子を知ることができ、予防に役立ちます。
硬い動脈硬化は急変しないという特徴を持っているため、将来的に狭窄の可能性はありますが、急激に変化して心筋梗塞を引き起こす可能性は少なく比較的安定しているといわれています。
一方で、柔らかい動脈硬化の場合には石灰化の中に沢山のコレステロールなどが含まれていて、その表面がいつ破れるかわからない危険な状態です。動脈硬化の状態が柔らかいと、少しの血圧の変動などでも血管の表面が破れてしまいます。それにより血液が異物と触れることで固まり、この部分が血栓化してしまうと心筋梗塞を引き起こす可能性が考えられます。これを動脈血栓症といいます。
心筋梗塞のほとんどはこの動脈血栓症によるものだといわれています。動脈硬化は自覚症状がないため、心筋梗塞を起こす方は「健康だったのに突然罹患した」と感じるかもしれません。ところが実際は本人の気づかないところで動脈硬化による動脈血栓症により、心筋梗塞のリスクが引き上げられている可能性もあるのです。
MDCTを活用した検査の中でも、血管壁の質を調べることは難しく、簡単に行えません。ですから冠動脈に造影剤を使用しないMDCT検査を実施している医療施設であっても、血管壁の質をみるところまでは行わない施設もあります。
しかし、血管壁の状態を解明して初めて、今後の治療や予防の計画を立てることができます。この作業をしっかり行うべきであると思います。
日本はMDCTを導入している病院が多く、検査自体は多くの病院で受けることができます。気になる検査費用ですが、どこでも比較的安価に行えるでしょう。
また動脈硬化の疑いがある方であれば保険診療で検査を受けることも可能です。
日本は世界的にもMDCTが普及した国で、どの病院でも大体CTを保有しています。しかしながら心筋梗塞や狭心症の疑いがある患者さんに対し、CTではなくカテーテル検査や運動負荷心電図を勧める医療機関がほとんどです。繰り返しになりますがこれらの検査では動脈の石灰化、つまり動脈硬化を発見することはできません。そのため、これらの検査で「問題がない」と医師にいわれたとしても、それは狭窄がないというだけのことで、動脈硬化の有無まで確認できたわけではありません。
また、たとえ造影剤を使用しないMDCTによる冠動脈検査を行ったとしても、狭窄の有無だけをみて動脈硬化や血管壁の状態にフォーカスしない医療機関もあります。そのため、検査を受ける際は患者さん自身が正しい知識を持ち、検査内容を理解することが必要です。
これまで述べてきたように従来の冠動脈検査は狭窄の有無に執着し、動脈硬化の有無を重視しない傾向にありました。しかし、私たちが危険視しなければならないのは狭窄だけではありません。動脈硬化を見過ごしていれば、最悪の場合心筋梗塞を引き起こす可能性があるのです。この危険性を患者さんに説明することも医師の役割ではないでしょうか。
医師が患者さんに伝える一言は、患者さんにとってとても大きな意味を持つと思います。医師が「狭窄がないので問題がない」といえば、患者さんは安心します。しかし、「狭窄はないが、動脈硬化があり、治療をしなければ進行する」といえば、患者さんは危機感を覚えます。私は検査をして狭窄がなくても、動脈硬化があれば、そのことを患者さんに正しく伝え、治療をきちんと行える手助けをしていきたいです。
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