インタビュー

心臓のリハビリテーションについて

心臓のリハビリテーションについて
横井 宏佳 先生

福岡山王病院 病院長/循環器センター長、高木病院 循環器センター長 、国際医療福祉大学 教授

横井 宏佳 先生

この記事の最終更新は2016年04月24日です。

狭心症治療のスタートは、むしろ治療を終えてからが本番であるともいえます。狭心症や心筋梗塞を発症した方の社会復帰のみならず、再発予防などを含めた包括的なリハビリテーションプログラムが「心臓リハビリテーション」です。ここでは、狭心症治療後の心臓リハビリテーションの重要性について、福岡山王病院 病院長兼循環器センター長の横井 宏佳(よこい ひろよし)先生にお話を伺いました。

狭心症心筋梗塞などを発症した患者さんは一時的に心臓の働きが弱くなるため、すぐには社会復帰や職場復帰ができません。また、治療後には安静を強いられるので運動能力や身体機能も低下しています。そこで、段階的に運動レベルを上げていきながら、社会復帰を目指してもらうプログラムが「心臓リハビリテーション」です。このプログラムがスタートした当初は運動療法が中心でしたが、現在では運動をはじめ、禁煙や食生活に関することなど生活習慣全般を含めた包括的なプログラムとして実施されています。

プログラムがこのように移行した背景には、心筋梗塞を発症した患者さんのみならず、心筋梗塞の再発予防や心筋梗塞になる一歩手前である狭心症の方々の予防を包括的に行う必要性が高まってきたからなのです。

心臓リハビリテーションの対象となる疾患としては、心筋梗塞に限らず、狭心症をはじめ下肢閉塞性動脈硬化症(動脈硬化で足の動脈に狭窄や閉塞が起こる血管の病気)や動脈瘤などもあげられます。つまり、心臓・血管のリハビリテーションととらえるとわかりやすいかと思います。また、これらの疾患に対しては保険も適応されています。

しかし「生活習慣の改善」といっても、長年染みこんだ習慣を変えることは決して容易なことではありません。患者さんの習慣をどのように変えていくのか心臓リハビリテーションの中で議論を重ねることが、日々の生活改善へとつながります。そのためには患者さんの内面的な部分のモチベーションを高める必要がありますので、メンタル面でもサポートを行います。それがリスク因子のひとつでもある「ストレスマネージメント」にもつながるのです。

治療を終えて低下した体力を安全に回復させ、精神面においても自信を取り戻すための多面的なサポートが心臓リハビリテーションなのです。

心臓リハビリテーションでは運動負荷試験を行っていますが、負荷量以上の運動の場合、慎重に行う必要があります。運動は軽すぎても激しすぎても効果はありません。ひたいに汗をかく程度の運動を1日に30分、できれば毎日行うのが理想的です。毎日は難しいという場合でも、2日に1回程度の運動を継続することによって意義のある心臓リハビリテーションになるのです。

これらのプログラムを安全に実施するためには、冠動脈の状態が良好でなければなりません。冠動脈が狭くなってしまっていると運動負荷試験を行っているときに胸が苦しくなり、運動が継続できなくなってしまうからです。症状は出ない場合でも心電図に虚血変化が現れるようだと、それ以上負荷をかけると不整脈などの発生や、生死にかかわる事態に陥ってしまいます。そのため、運動の障害となっている冠動脈の狭窄や虚血を改善しておく必要があるのです。

全ての治療の意味はここにあると私は考えています。ですから、「治療をして終わり」ではなく、治療と心臓リハビリテーションプログラムは必ず一緒に行わなければ、狭心症心筋梗塞を改善したことはならないのです。

当院でも心臓リハビリテーション専用の部屋を設けて実施しています。また、カテーテルインターベンション治療を専門とする施設でも心臓リハビリテーションを行う箇所が増えています。ただ、現状では心臓リハビリテーションは入院中に限り行うことができます。ですから今後は外来などによる通院リハビリテーションを普及していく必要があると考えています。

様々な治療はあくまでも、ひとつのスタートでしかありません。カテーテルやバイパス手術などの治療は「乱れた生活習慣を続ける→動脈硬化性の心疾患が発症する」という悪循環をあくまでも暫定的に断ち切るための手段であると捉えてください。新しい未来に向けて人生を再スタートしてもらうために、私は予防治療・予防医療を普及させていくことが需要だと思っています。

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