インタビュー

重度の狭心症や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の治療「低出力体外衝撃波治療」と「超音波治療」

重度の狭心症や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の治療「低出力体外衝撃波治療」と「超音波治療」
福本 義弘 先生

久留米大学病院 副院長、久留米大学医学部 内科学講座 心臓・血管内科部門 主任教授

福本 義弘 先生

この記事の最終更新は2017年01月10日です。

動脈硬化性疾患の治療は薬物療法のほかは主に手術が中心となり、患者さんの負担が大きい点が難点です。また、症状が重くカテーテル治療やバイパス手術などができない患者さんもいます。そこで誕生した治療が「低出力体外衝撃波治療」と「超音波治療」です。この2つの治療は手術が不要で副作用もなく、非常に患者さんへの負担が少ない治療法として注目されています。低出力体外衝撃波治療と超音波治療について、久留米大学医学部内科学講座 心臓・血管内科部門主任教授の福本義弘先生にお話をうかがいました。

低出力体外衝撃波治療とは、心臓や手足の血管など動脈硬化を起こしている部分に非常に小さな衝撃波をあてて筋肉に小さな刺激が加わることで、微小な血管の新生を促す方法です。動脈硬化を起こした血管の周りに新しく細い血管ができることで血行がよくなり、動脈硬化によるさまざまな症状の改善が期待できます。この治療法は2002年頃に、当時九州大学に在任していた下川宏明教授(現・東北大学循環器内科教授)が開発しました。

低出力体外衝撃波治療では、新しく血管ができるのか、もともと筋肉中にあった微小な血管に刺激を与えることで、血行が生じて新しい血管として活動を始めるのか、詳しいことはまだわかっていません。しかしながら下川宏明教授らの基礎実験によると、衝撃波により血管新生を促す因子が増えて、臓器の血流が改善することが明らかになっています。

もともと体外衝撃波治療は、「体外衝撃波結石破砕術」といって尿路結石や腎結石を外から衝撃波を与えて砕く治療として行われていました。尿路結石や腎結石の衝撃波治療では結石を砕くために大きな衝撃があり、叩かれるような痛みが生じます。しかし動脈硬化性疾患で行われる低出力体外衝撃波治療では尿路結石の衝撃波治療の10分の1の強さの衝撃波を使用するため、痛みはありません。

低出力体外衝撃波治療のメリットは、バイパス術やカテーテル治療と異なり、体にメスや器具を入れることなく治療が行えるという点です。手術が不要で低侵襲であることから、何度も繰り返して治療を行え、通院での治療が可能な点もメリットです。

低出力体外衝撃波治療の副作用もほとんどありません。痛みはノック式のボールペンが戻ったときのような衝撃がある程度です。ただし心筋梗塞狭心症などの心臓への治療の場合は、全体の3分の1の患者さんで「少し痛みがある」との意見がありました。しかし耐えられない痛みということはなく、むしろマッサージのようで気持ちがいいと感じる方も多くいらっしゃいます。なかには治療中に眠ってしまう方もたびたびおられました。

低出力体外衝撃波治療の治療時間は1回あたり約3時間で、ベッドに横になった状態で実施します。治療中は多少動いたり眠ったりしても問題なく、麻酔や手術が不要ですから途中でトイレにも行くことができます。

低出力体外衝撃波治療の費用は健康保険の適用外となるため、全額自己負担です。

低出力体外衝撃波治療は血管造影による検査で重度の動脈硬化性疾患がみられた場合に適応となります。たとえば血管が細すぎてカテーテル手術やバイパス手術ができない場合などが重度の動脈硬化性疾患にあたります。

衝撃波を当てることのできる部位は心臓と手足に限られるため、適応は心臓と手足の動脈硬化性疾患の方となります。

低出力体外衝撃波治療は動脈硬化の原因となる生活習慣や、高血圧糖尿病、コレステロール異常といった動脈硬化の要因をコントロールしてから行います。

喫煙している方は基本的に禁煙し、血圧やコレステロールの異常、糖尿病も薬で正常値までコントロールします。そうしなければせっかく低出力体外衝撃波で治療を行っても、思うような効果が期待できないためです。ですから、まずは全身管理をしてからの治療が基本となります。

提供:PIXTA

近年は低出力体外衝撃波治療をさらに進化させ、衝撃波の代わりに超音波を用いた「超音波治療(超音波血管新生療法)」が下川宏明教授により開発され、治験が進められています。超音波治療のメカニズムは低出力体外衝撃波治療と同じですが衝撃波が若干の叩かれているような感覚があるのに対し、超音波はまったくそうしたものは感じません。治療時間も1回あたり1.5時間〜2時間と低出力体外衝撃波治療の約半分、また、低出力体外衝撃波治療に比べて機器が小さくなったことから治療中に動くことも可能です。

副作用がないことも厚生労働省に報告されており、非常に安全性が高いという点もこの治療の大きなメリットといえるでしょう。

2016年12月現在、超音波治療の治験を実施している施設は久留米大学、東北大学、順天堂大学、国立循環器病研究センター、藤田保健衛生大学、福岡大学、東京医科大学、女子医科大学、兵庫医科大学、日本大学板橋病院の計10施設となっています。

低出力体外衝撃波治療や超音波治療の1回あたりの治療効果が永続するかどうかはわかりません。少なくとも一時的には血管新生が起こり、症状が改善することにより体を動かすことができるようになって、いわゆる運動療法という形で一定期間効果が維持されている可能性があります。動脈硬化性疾患は生活習慣病の成れの果てですので、その後の生活習慣が重要です。

低出力体外衝撃波治療や超音波治療の一番の理想形は、まずは治療で血管を増やしてその後にきちんと食事療法や運動療法を行い、増えた血管を健康的に維持することです。そのために肝要なのは治療後の生活習慣の改善といえます。

動脈硬化性疾患そのものは生活習慣の乱れが原因のため、まずは生活習慣を改善しないと本当の意味での充分な治療効果は発揮できません。まずは低出力体外衝撃波治療や超音波治療で運動機能を回復させ体を動かすきっかけを作り、そして生活習慣に気をつけていただくことが正しい治療であると考えています。

実際に私が治療を行った患者さんも治療後に体を動かすことができるようになり、元気に過ごされるようになった方もいらっしゃいます。

繰り返しになりますが、低出力体外衝撃波治療や超音波治療の効果を最大限に発揮し再発を防ぐためには、この治療だけに頼らずに日々の生活習慣の改善に努めていただくことがとても大切です。動脈硬化の原因には喫煙や肥満、ストレス、糖尿病高血圧、高脂血症などがあります。これらの原因を作らないためにバランスのとれた食事と適度な運動は、日々の生活のなかで充分に取り入れてください。

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