虚血性心疾患とは、心臓の栄養血管である冠動脈が狭くなったり塞がったりする病気で、狭心症と心筋梗塞が含まれます。患者数は70万人程度いるとされ、好発年齢は60歳代ですが、30歳代や40歳代で発症することも少なくありません。
虚血性心疾患を発症すると命に関わることもあります。そのため、発症の仕組みや原因を理解し、予防に努めることが大切です。
心臓は厚い筋肉(心筋)でできており、その筋肉が休むことなく収縮・弛緩を繰り返して全身に血液を送り出しています。心筋に血液(栄養や酸素)を送るための血管を冠動脈といい、心筋が正常に動くには冠動脈から十分な血液が供給される必要があります。
しかし、何らかの原因によって冠動脈が狭くなると心筋が血液不足(心筋虚血)に陥り、心臓からのSOS信号として胸の痛みや圧迫感といった症状が見られるようになります。これが狭心症と呼ばれる状態です。冠動脈がさらに狭くなって完全に塞がると、心筋への血液が途絶えてしまい、その部分の心筋が死んでしまいます。この状態が心筋梗塞です。
虚血性心疾患の原因の多くは動脈硬化によるものです。そのほか、冠動脈のけいれんや血管炎症症候群などによって起こることもあります。
動脈硬化とは、動脈の壁が厚くなったり硬くなったりして弾力性が失われた状態のことです。動脈硬化には粥状動脈硬化、メンケベルグ型動脈硬化、細小動脈硬化がありますが、これらの中で冠動脈に生じるのは粥状動脈硬化です。
血管は外側から外膜、中膜、内膜で構成され、内膜の表面を覆う細胞を内皮細胞といいます。さまざまな刺激によって内皮細胞が傷つくと、その部分にコレステロールなどの脂肪物質(プラーク)がたまり、内膜が厚くなっていきます。このプラークが次第に肥厚することで冠動脈が狭くなってしまうのです。
プラークが破綻するとそこに血小板が集まって血栓(血液の塊)ができます。この血栓が冠動脈を完全に塞いでしまうと心筋梗塞に至ります。
動脈硬化の主な危険因子には、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、喫煙があります。これらの中でも高血圧、脂質異常症、喫煙は特に重要で、3大危険因子となっています。
高血圧とは、その名のとおり血圧が高い状態のことです。血圧が高くなると血管に負担がかかり、血管が徐々に傷むことから、動脈硬化を起こしやすくなります。
脂質異常症は、血液中にコレステロールや中性脂肪が多い状態のことで、以前は高脂血症と呼ばれていました。動脈硬化は血管内にコレステロールが蓄積することで進行するため、脂質異常症の人は動脈硬化を起こしやすくなります。
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが十分にはたらかないために、血液中のブドウ糖(血糖)が多くなる病気です。インスリンのはたらきが悪くなることや、高血糖状態が続くことによって、動脈硬化が進行させることが分かっています。
内臓脂肪が蓄積すると、脂質や糖の代謝を円滑にするアディポサイトカインという物質の分泌異常が起こり、動脈硬化を促進します。また、高血圧や糖尿病、脂質異常症の発症や悪化の原因にもなります。
たばこに含まれる刺激物質が内皮細胞にダメージを与えるため、動脈硬化の大きな原因となります。また、血液が固まりやすくなることから、血栓を起こす危険も高まります。たばこは動脈硬化以外にもさまざまな病気の発症に影響しており、喫煙者のみならず受動喫煙者にも健康被害を与えます。
虚血性心疾患の原因の多くは動脈硬化ですが、冠動脈が一時的にけいれんすることで狭くなり、心筋虚血に陥ることもあります。これを冠攣縮性狭心症といい、喫煙や飲酒、脂質異常症、ストレスなどによって起こると考えられています。また、川崎病や高安動脈炎などの全身の血管に炎症を起こす病気が原因になることもあります。
虚血性心疾患の発症には生活習慣が大きく関わっているため、生活習慣を見直すことが大切です。高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満は、主に塩分や糖分、脂肪分の取りすぎや運動不足によって起こります。そのため、塩分や糖分、脂肪分の取りすぎに注意し、バランスのよい食事を心がけ、適度に運動するようにしましょう。また、たばこを吸っている人は禁煙に努めましょう。
さらに、ストレスにも目を向ける必要があります。ストレスによって血圧が高くなるほか、発散するために暴飲暴食や喫煙に走ってしまいがちです。規則正しい生活をする、ストレスを避ける、気分転換をする、周りの人に相談するなどして、ストレスをためないようにしましょう。
虚血性心疾患は、冠動脈のけいれんや全身の血管が炎症する血管炎症候群などによって起こることもありますが、多くは生活習慣の乱れによる動脈硬化が原因です。虚血性心疾患を発症すると命に関わることもあるため、発症の引き金となる習慣を見直し、予防に努めるようにしましょう。
また、高血圧や糖尿病、脂質異常症の有無については一般的な血液検査で分かります。定期的に健康診断を受け、自分の体のことをしっかりと把握しておくことも大切です。最近は、冠動脈CTにより冠動脈の状態を把握することにより、早期発見が可能になってきています。施設によっては、心臓ドックと称して、検査をしているところもあります。
医療法人 札幌ハートセンター 理事長 兼 CMO
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